第4章
「若葉、お友達がきてるよ」
日曜日にとくにすることもなく、ベッドに横たわってバーネットの「秘密の花園」をぱらぱらとめくっていると母親の声がした。
「はーい」
今日は誰とも約束なんてないのにと考えた瞬間、ぱっと頭に浮かぶものがあった。
『また明日ね』
私はばね仕掛けのように起き上がると階段を一段抜かしで駆け下りた。
「こんにちは、若葉ちゃん」
玄関にはよそ行きの顔で微笑む那美の姿があった。
私の部屋に案内すると、彼女は興味しんしんとあたりを見回していた。
「わあ、本棚に本ぎっしり。さすが読書家ね」
「どうして来たの」
彼女は嬉しそうな顔で、手提げの大きめのバッグから愛用のクッションを取り出す。
「お昼寝に」
予想はしたけど、まさか本当にそんなことで。
「ねえ、ベッド使ってもいい」
そういって私のベッドの使い心地を押したり叩いたりして確かめる。
「早くここに座って、もうすぐお昼寝の時間なんだから」
ため息をついて、私はベッドの端に腰かけた。寝床を整える彼女の髪が挟まることのないよう、甲斐甲斐しくお世話をしていた。
「休日にいきなりおしかけて、迷惑だった?」
いつもよりちょっとだけ気弱そうな声で尋ねてくる。
「ううん、予定はなかったから」
そう答えると彼女はまわした腕にぎゅっと力を込めた。
実をいうとちょっと嬉しかった。図書委員の仕事のたびこっそり寝顔を覗いていた頃からは考えられないほど、私は彼女の特別な存在になっている。こんなふうに信頼されて、触れることもできる。
「でも、どうして人をまくらにするの」
子猫なら甘えてのどを鳴らしそうな表情で私のお腹にしがみついている彼女。
「私ね、まくらにするなら女の子だと思っていたのよ」
「はぁ」
質問とは微妙にちがう答えに、まぬけな声を返してしまった。
「だって男の子ってごつくて固いし、髪を撫でるにも乱暴だったり、ひっかけたりしそうじゃない。そんな風に思っていたところにあんなことしてる人を見つけたのよ」
キスのことは特に気にしていないように思えてちょっと拍子抜けしたような気持ちになる。眠れなくなるほど悩んでいたのは、私だけだったのか。
「当たりだったわ。だって若葉は柔らかいし、あたたかいし、いい匂いがするし、すごく優しく撫でてくれるんだもの」
そんなことを聞くとどうしても顔が緩んでしまう。
「もう時間だわ。おやすみ、若葉」
「……おやすみ、那美」