彼女
「あのー、そんなに近くで見てたら、目悪くなるよ」
祐太はテレビをじーっと見ていて、その声には気が付かず、
「あのぅ!」
女性はもう1度声をかけた。すると祐太はそれに気が付き、体勢はテレビに向いたまま、顔だけをバッと女性の方に向けた。その女性は長髪で、黄色い髪に、黒いピン止めが輝いている。目がパッチリしている、同い年か年上ぐらいの少女だ。
「え、あ・・・」
祐太はその可愛さに一目惚れしてしまい、言葉がうまく出なかった。顔を赤くして目を見開いた。
「一人でどうしたの?おつかい?偉いね」
彼女はフフッと可愛い笑顔を見せる。
「え…いや…その…」
この一瞬で初恋をしてしまった祐太は、自分の外見が別人になってることを良いことに、体ごと彼女の方に向け、ゆっくりと息を吸う。
「あ、あの・・・」
荒い息をする祐太に戸惑う少女。同じポーズのまま、数秒間沈黙が続いた。そして、いざ告白をしよう!と勇気を振り絞った瞬間、
っ・・・ぽわわわああぁぁん
どこからか煙が出てきて、祐太はその煙に包まれた。煙が消えると、祐太は元の姿に戻ってしまっていた。
(・・・あ、終わった)
少女は、驚いた面持ちのまま、テレビに目をやる。丁度その時、家電販売店のテレビには、走行するガリットの車から覗く祐太の姿が映されていた。
「もしかして…」
口の近くに手を当て、疑った表情で祐太の方を見張る。すると、周りを瞬時に確認してから、祐太の手をギュッと掴み、突然走り出した。どうしたのか、と声をかける余裕もなく、ただ無言でどこかへ向かって走り出す少女。
(この子は一体)
「おい!あいつ、もしかしてあの地球人じゃねーか!?」
「あ、握手してくださーい!」
「誰かー!カメラまわせえええぇぇ!!!」
瞬く間に人が集まってくる。しかし、少女は怯む様子は見せず、人混みをスイスイと抜けて行く。すごいスピードだ。さっきまでの笑顔は嘘のよう。祐太は途中、何度も倒れそうになりながらも、つられて走る。少女は、人ごみを避けるようにして、大通りから小道へと入っていった。すでに祐太の体力が限界に達している頃、少女は、古びた小さい家の中に投げ込むようにして入れた。
「いったぁっ」
木製のドアを勢いよく閉めると、その衝撃で近くの棚の上のホコリが一斉に舞った。
「はー、はー、はー・・・」
少女は息を切らせながら、ドアの前で倒れるように正座をした。
「何のつもりなんだ・・・っ。ここ・・・どこなんだよ」
祐太は息を整えようとしながら少女に攻め寄る。すると、少女はゆっくりと口を開く。
「ここは、私の家。汚くてごめん。・・・話したいことがあって」
祐太は眉間にシワを寄せて、目を細めた。
その頃、ガリットは研究室の中で、紙と鉛筆を持って何やら考え事をしていた。
「だあーっ!駄目だぁっ。どーやったらアイツを地球へ帰せるんだっ!!」
もともと寝癖で酷い髪型を、さらにグシャグシャにさせてイラつくガリット。すると、自然と時計へと目が行く。
「それにしても祐太のヤツ、帰ってくるの遅いな…」
・・・っぷるるるるるるる
と、突然電話が室内に鳴り響き、ガリットは嫌な予感がしたように受話器を手にとった。
「はぁっ!?祐太がぁっ?」
「ええぇぇっ!?ここは現実世界っ!???」
「しーっ。あんまり大きな声を出さないで。飼ってる鶏が暴れちゃう」
古びた小さな家の中では、祐太と少女が会話をしている。外は、もう真っ暗だ。少女は、黙ってランプに火を灯し、今にも壊れそうな低い机の上に、そっと置いた。
「だって、ガリットが``これは君の夢の中だ´´って」
さっきよりも声のボリュームを下げながら、母音を強調させて少女に訴え始めた。
「私もガリットについては知ってる。だけど、あの人は嘘つき者なのよ」
少女の声のトーンは落ち着いている。
「はぁっ?あの人に限ってそんなこと・・・」
「よく分からないけど、私の事をとっても嫌ってて。いつも私に嫌がらせをするの。今回だって、あの人は私の逆説をあなたに伝えた。何も知らないくせに」
「・・・それについて、詳しく聞かせてよ」
祐太は少女の近くに寄って、半信半疑のまま耳を傾けた。すると、悲しそうな表情で語り始める。