格闘
「マコは俺のパートナーだから、俺たちの状況はすべて理解している。現実世界への帰り方も。この作戦はすべてマコが考えたんだ。感謝しろよ?」
自慢気な稲葉に対して、祐太の抵抗感は消えていった。
「あ、ありがとうございます、マコさん」
しっかり作戦も立ててくれたし、今更仲間割れしても現実世界に戻るまで時間がかかるだけだったからだ。
「もー、一ったら照れるなーあ♡」
マコは片手で赤くした顔を隠すと、もう一方の手で稲葉の背中を女々しく叩いた。とてもぶりっ子っぽくて、ちょっとウザイ。こんな人に自分たちが頼るなんて信じられなかった。しかし、今の祐太は信じるしかないのだ。
マコのおかげで準備ができたはずの3人は、その日のうちに作戦を開始した。詳しい作戦の内容はマコしか知らないため、祐太は不安でいっぱいだったが。
「では、行ってきまぁす!」
マコは中くらいのリュックを背負って、家を後にする。稲葉と祐太はすべてをマコに託す思いで手を振って見送った。相変わらず天真爛漫なマコと、すでに緊張して頭の中が真っ白の祐太との温度差は、スタート直後の兎と亀ぐらいの違いだった。その兎のようなマコは余裕の表情で、街中で怪しまれないようにミミを探す。とはいっても、マコは一度も実際にミミの顔を見たことが無い。狭いこの星の中なら、もしかしたら会ったこともあるかもしれないが。
``長髪の金髪で、黒いピン止めををしている、身長150㎝ぐらいの女の子´´
この証言は、稲葉と祐太との間で一致した。これを唯一の資料として頭の中に入れている。しかし、もしかしたら髪を染め変えているかもしれないし、ピン止めを外しているかもしれない。髪を切って短くしている場合だってある。だが、稲葉がミミと出会った時と祐太が出会った時とで証言が一致するということは、ルックスを維持させる傾向にあるということ。ここ数日間で見た目が全く変わっているだなんて、有り得ない。こちらのすべての計画を知らない限りは・・・。
マコが街中を散策している間、稲葉と祐太はお互いを確かめ合っていた。
「祐太くん、マコからの連絡が来るまでは、余計なこと考えるなよ。俺らの心境を読まれて作戦内容が知られたりでもしたら面倒だからね」
「分かってますよ。…でも、どっちにしろミミは既に``自分を殺す計画´´が練られていることは知っているでしょうね」
「ああ、そうだな。でも大丈夫だ。マコならきっと…」
2人は、シーンとする部屋の中、何度も小さな沈黙を交えながら静かに会話をしている。
「何で一さんは、そんなにマコさんのことが信じられるんですか?」
「俺の将来の結婚相手だからだよ。それは、今に見ていれば分かる」
どこか自信があるような稲葉の表情を信じ、ただ静かにマコからの連絡を待ち続ける。
その頃、マコは未だにミミを探し続けていた。もう空の色も紅色になりかけている。
(おかしい。朝からこんなに探しているのに見つからないなんて。ミミちゃんには私の姿や行動は予測できないはず。だから、私を避けながら動くことは不可能。でも、もし私の事を知っているとしたら、このままミミちゃんの家に行って待ち伏せをしても時間の無駄。でも、念のため行ってみた方が・・・)
本番になると考えることも変わってくるマコ。別人のように目線が本気だ。しかし、さすがのマコでもミミを探し出すことは出来なかった。だから、今まで行っていなかったミミの家へ足を運ぶことにした。それまでマコがそこに行かなかったのには理由がある。今までの祐太たちのやり取りにより``追われている´´ということを知っているであろうミミは、狭くて見つかりやすい家やその周辺ではなく、広くて見つかりにくい街中に出ようとするだろうと踏んだからだ。そこ以外は隈なく探したのだ。行き違いになっていなければ、残すところはミミの家しか無い。ミミの家は川岸にある。よって、逃げられる範囲も狭まってくる。それに加え、マコの足の速さなら間違いなくミミを捕まえられる。それもこれも、もしもそこにミミが居ればの話だが。少ない可能性に賭けて、ただ全速力で走るマコ。そこには、祐太を一秒でも早く地球に帰してあげたいという気持ちがあった。すると、急いでいる所を突然誰かに腕を掴まれた。マコはその衝撃で一瞬後ろ向きに倒れそうになりながら面倒くさそうに振り向いた。すると、マコは思わず言葉を失ってしまう。