転機
「ダダダダアアアアアァァンッッ!!!!」
少年は凄い衝撃を受けた後、目の前が真っ暗になった。その数秒後、暗かったところに少しずつ光が差し込んでくる。眩しくて、パッと目を見開いた。
―――――ここは..?
そこは、真っ白い空間の中に無数の長いエスカレーターが、横にズラーっと並んでいる何とも神秘的な場所。目をこするとボヤけていたものがハッキリと見え始めた。エスカレーターには重そうな荷物を担いだ人たちが、長い列を作っている。少年も人ごみに紛れてそのエスカレーターに乗っている。だが、自分だけが手ぶらだ。
この少年の名は、安藤祐太。高校1年生の冬休みの出来事だ。
自分に何が起きたのだろうか、と辺りをキョロキョロ見まわしたり、ポッケに手を突っ込んだり、髪の毛をグシャグシャにしたりしてみるが、結局状況が呑み込めないままだ。この広い空間の中、祐太だけが手ぶらで、祐太だけが焦っていて、そして祐太だけが...。
「証明書を見せてください」
気が付けばエスカレーターが終わっていて、上の階の受付らしき所で受付人らしき人に声をかけられていた。
「しょ、証明書...?」
祐太は分かっているような分かっていないようなフリをして、ポッケを再び探り始める。何だかよく分からない空間の中、フワフワした気分だ。
「まだですか?早くしてください。次のお客様がお待ちです」
「は、はい..っ!」
しかし、さっき手を突っ込んだポッケに何かが入っているはずもなく、申し訳なさそうにポッケから手を出した。
「あの、すみません、証明書って何ですか...?」
「はぁ?あ、あなた、もしかして迷子ですか?荷物も持っていないようですし」
「・・・・・・っ」
「分かりました。じゃぁまず、名前を教えてください。それと、年齢と・・・」
祐太は気が動転してしまい、一面白色一色の辺りを目を泳がせながら見まわし始めた。受付人の声は、耳元を過ぎていく。
「あの!聞いていますか!?」
大声により、背を張って受付人の方をピタッと見た。
「お願いしますよ。他のお客様も居るんですよ」
「は・・・っ!す、すいません!!」
背中には汗がにじみ、声を震わせながら受付人の質問に答え始める。
「名前は?」
「安藤祐太です」
「・・・変わった名前だな。年齢は?」
「16です」
受付人は質問するなり``迷子用紙´´と書かれた小さな紙切れに、言ったことをメモしている。
「じゃ、最後の質問。どこの星から来ましたか?」
何故そんな質問をするのだ...と一瞬疑ったが、戸惑いながらも
「地球ですが...」
と答えた。次の瞬間、受付人は持っていた紙とボールペンをポトリと床に落とした。丸くなった目で祐太を見つめる。そして突然立ち上がり、大声をあげた。
「おおおぉぉいっ!!地球人が・・・地球人が、我が星にやって来たぞおおぉぉっ!!!」
さっきまで眉間にシワを寄せていた受付人は解放されたように喜び、顔がシワくちゃになった。それと同時に、並んでいるお客さんやスタッフ、そこに居るすべての人がザワつき始めた。妙な雰囲気に戸惑いながらも、周りの人たち全員が祐太に向かって群がろうとした。人の塊に潰されそうになりながら、訳も分からずその場を一先ず逃げようとした。しかし、文科系の祐太は足がついていけず、途中で転んでしまった。
(もう終わりだ...)
人の下敷きになりかけた瞬間、祐太の体が何かに乗せられるようにフワリと浮いた。
気が付けば、祐太は走行する車の中に乗せられていた。にょろりとした祐太の体には、一枚の毛布がかけられている。車が縦にガタガタと揺れる中、目を覚ます。
「おう、気が付いたか」
急に聞こえたガラガラのオッサン声にびっくりした祐太は、パフっと毛布を被った。
「はっはっはっはっ!そんなに驚くことは無いさ。何も、俺はお前を傷つけたりしねぇよ」
祐太は恐る恐る毛布の間から顔を出し、バックミラーで運転席を確認した。運転しているのは、50か60ぐらいの小太りしたオジサンだ。眼鏡をかけていて、寝癖が酷い。半開きの細い目でバックミラーからギョロリと睨まれた。
「あ、あの、どういうことでしょうか...」
少しおびえながらも、震えた声で質問する。
「俺は、人の波に飲み込まれそうになったお前を助けたんだ」
「え、あの一瞬で...?」
「あー、それはだなぁ...。まぁ良い、落ち着いてから、ゆっくり話そうぜ。今ちょっと忙しいんだ」
「えっ?」
祐太が車内から後ろを見ると、数台の車からテレビ用のカメラが突き出せられ、こっちへ向かっている。上からは、ヘリコプターの騒音まで聞こえる。
「これは一体・・・?!」
「だから、説明は後だっつーの!!」
小太りのおじさんは車のスピードを上げ、横に倒れそうになりながら急カーブを曲がった。
鍵カッコが多くて、簡単な表現がほとんどです。暇つぶしに描いた小説ですので、どうかお許しを・・・