オムライスとその量
高校まではテストが終わればテスト休みをもらえた。
しかし、大学ともなると通常授業中に行われ、心を休める暇がない。
ゼミも通常どおりに行われる。小金井ゼミも例外ではない。
「オムライスってあるじゃん」
ゼミが始まるまでの空き時間。
総一郎が文庫本を開けていると、いつものように白井さんが話しかけてきた。
「オムライス専門店で出されるオムライスって妙に量が少なくない?」
読書中に話しかけられるのはあまり好まない総一郎だったが、ゼミ室には白井さんと総一郎のふたりだけ。
元々、小金井ゼミは所属学生三人と少ないゼミである。
ここで白井さんを無視すると、今後のゼミ活動に支障をきたすこと必至だ。
総一郎は文庫本を閉じながら答えた。
「確かに少ないかもね」
少々、おざなりな返答かもしれないが、相手をしないよりはマシだろう。
そもそも総一郎にはオムライス専門店に足を運んだ経験が少ない。
「少ないどころじゃないよ。あれは、一口サイズと言っても過言だよ」
さすがに言いすぎだと総一郎は思う。
「あんなのでお腹がいっぱいになる人っているの? 総一郎くんはなるの?」
「ならないけど、女子ならなるんじゃないか」
「ならねーよ!」
白井さんの口が悪くなっている。
指摘しようにも、なぜか興奮している白井さんを前にすると、総一郎には口にできなかった。
「女子がお腹いっぱいにならない量なのに、男子がなるわけないし、誰が満足するのあれは!」
「オシャレ気分を味わいたい人とか」
「カフェで十分でしょ。ランチや晩ご飯どきにまで持ってこないで!」
「男子に媚売りたい女子とか」
「猫かぶり禁止!」
白井さんは言葉を発するたびに机を叩いている。
前のめりになっているのでおっぱいが机に乗って非常にフェティシズムをくすぐる姿勢になっているのだが、興奮のあまり気がついていない。
「白井さん、何でそんなに怒ってるの?」
「おいしいって評判のオムライス専門店に行ったら、冗談みたいな量のオムライス出されたから!」
ペットの餌かと思ったわよ、と白井さんが肩を落とす。
「そういえば、メイド喫茶も料金が割高だって聞いたことがあるね」
「なに、総一郎くんってばそういう店に詳しいの?」
そういうわけではないが、ネットに触れていればそれぐらいの情報は自然と入ってきていた。
否定しようとしたとき、授業開始のチャイムが鳴る。
同時に小金井先生が教室に来て、ゼミが開始された。
いつものように事例に対し白井さんが自論を説いていく。
それを聞きながら総一郎は考えていた。
白井さんは、誰とオムライスを食べに行ったのだろう、と。