第8話 村1
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「フェルミ大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。変なところばかり見せてしまいごめんなさい。」
フェルミが落ち着いたところで、野盗の処遇を決めるべく、話しかける。
「すまないが、この野盗を国に引渡せば報奨金が貰えたりするのか?」
「そうですね、冒険者ギルドには野盗に関しての依頼はありませんでしたから、村の人から依頼として受ければ成功報酬として受け取る事ができると思います。」
そこまで、話したところで、フェルミは疑問を抱く。
「失礼ですが、トールさんは国の騎士団か冒険者の方ですか?」
「俺の事はトール、と呼び捨てでいい。」
「あ、はい。」
「フェルミの言ったどれでも無い、俺達は遠くの場所から旅をしてきたんだ。」
「・・・武器を何も持たずにですか?魔力も全くありませんよね」
「ああ、俺はこの拳があれば充分に戦えるからな」
トールはそう言って拳を握って見せる。
「ごめんなさい。もしかして、嫌な事を聞いてしまいましたか?」
「いや、気にしてない、フェルミは優しいな」
「///な、そそんなことありませんよ⁉(それはトールだからです‼)そ、それよりこの野盗達はどうするのですか?」
「金になるなら村まで連れて行こうと思う。こいつ等のアジトも潰しておきたいしな。」
「そうですね、私達みたいに捕まっている人がいるかもしれませんし、私も協力します‼」
「ありがとう、先ずは村まで行こうか、マリィが他の女性達を落ち着かせ終わったようだしな」
「あ・・・」
そうだよ、捕まったのは私だけじゃない!なのに私は自分のことだけで手一杯になって、周りのことをすっかり忘れてしまっていた。恥ずかしい。
「落ち込むな、次に活かせばいい。さぁ、行くぞ、フェルミは馬に乗れるか?」
「学園で乗馬訓練も受けていますから大丈夫です。」
「すまないが、女性達を引いて行ってくれるか?俺はマリィを乗せて野盗を引いて行く」
「わかりました。村の場所は分かりませんよね?私が先導しますから着いて来てください」
「ねぇ~トール、マリィはいつまで静かにしておかないといけないの?私もトールとイッパイお話ししたいの‼」
馬の前方に乗せていたマリィが、話しかけてきた。今まで静かだったのはトールに静かにするように言われていたからのようだ。
「すまない、もう暫くの間静かにしておいてくれ。どうやらフェルミは優秀な魔法使いの様だからな、マリィの事に気づくのか確認しておきたい。それに、お前が会話に参加すると途端に騒がしくなるからな。森にいた時だって相手が困ってただろ?」
「そんな事ないよ‼マリィはティアとすっごい仲良しだよ‼」
「あぁ、そうだな。唯一無二の親友だな」
「唯一無二の親友⁇」
「この世で唯一掛け替えのない友達って事さ」
「ヘェ〜そうなんだ~・・・って、し、知ってたよ⁉本当に知ってたんだよ‼」
マリィの慌てている姿がとても可笑しい。
「ははは、そうだなマリィは大人だからこんな事ぐらい知っていて当然だよな、くくく」
「トールは信じて無いでしょ⁉もぉー、難しい言葉禁止!!」
「はいはい」
「真面目に聞いてよ~~。」
馬の上でマリィの声が響いた。
そのまま和やかな空気のまま、マリィと会話を楽しみながら村に向かって行った。
馬で三~四時間走った場所にフェルミの言っていた村があった。野盗に襲われた後だからか、外に全く人がいない。おそらく、無事な家に息を潜めて隠れているのだろう。
フェルミがソリに乗せて引いて来た女性達が村に駆け込んで行く。
おとーさん、おかーさん。
その声に家の中に息を潜めて隠れていた村人達が、何人か駆け出して来た。攫われていた女性達の両親や、兄妹なのだろう。無事な姿を見るなり抱き合い、お互いの無事を喜び合っていた。
その姿に他の村人達も安全だと確認して姿を表した。
村人のあちらこちらから、ありがとう、ありがとう、と感謝の言葉が聞こえる。助けた女性達が、トールに助けられた事を村の人達に話したのだろう。全ての村人から感謝の言葉が聞こえてくる。
トールは村の惨状を見てこの村からお金をもらう事を諦めた。
「気にしなくていいさ、それよりこれから野盗達のアジトを潰しに行く。マリィ、フェルミ行くぞ」
「はい」「はい」
三人は再び馬に乗り野盗達のアジトを目指して馬を走らせる。野盗のボスらしい男に聞いたところ、この村を監視できる近くの丘にアジトを建てたらしい。少し脅したら簡単に協力してくれた。さすがボス、身の振り方が上手だ。
野盗のボスが言った通り丘があり、そこに横穴を掘って住み着いているらしい。穴の入り口の前に二人の門番がいる。
「トール、これからどうするのですか?」
「なぁに、正面突破するだけさ。まだ、野盗の仲間が捕まった事には気付かれていない様だしな、逃げられる前に叩き潰す」
その言葉にフェルミが慌てる。
「き、危険です!慎重に行かないと危ないデス‼」
「大丈夫だ。フェルミはマリィと一緒に俺の後ろにいろ。行くぞ。」
トールは真っ正面からゆっくり歩いて近づいて行く。
野盗がこちらに気付き警告をしてくる。
「止まれ‼それ以上近づけば殺す‼」
その言葉を合図にしたのか、トールが一瞬で距離を詰め拳をコンパクトに打ち出す。たいして力をいれていないと思われるがその一撃で壁に打ち付けられる男は気絶したのか動かなくなった。気がつけばもう一人の男も壁に叩きつけられ崩れ落ちるところだった。
「す、凄い。何にも魔法で強化していないのにあの速度と力、信じられない。」
トールの動きは魔法で強化した人間の動きを超えている様に思える。それが、フェルミには信じられなかった。この国では魔力が無い存在は役立たずとして隅に追いやられ、まともな仕事にも就けず餓死していくばかり。冒険者になっても魔力が低ければ魔力抵抗が低くなり、魔法で強化出来ない人達は次々と死んでいった。死んだ後の処理があるだけで生きていない方がいい、産まれない方がいいと言われている存在だ。
それが、目の前で魔法使いすら超える動きを見せているのだ。今までの常識を疑う非常識な光景だった。
今の音を聞きつけたのか横穴の中から五人ほどが出てきた。だが、戦闘をしているとは思っていなかったのか、武器を持っているが、全く警戒していない弛んだ動きをしていた。
トールは横穴の入り口の横に隠れ、出て来た野盗を瞬時に無力化する。何の心配もする必要も無い圧倒的だった。野盗なんて全く相手にならない。
フェルミは空想する。Sクラスの仲間とチームを組んでいたメンバーで来てここまで順調にいけるかどうか。結論は大丈夫だろうというもの。だが、一人では到底不可能なことだということだ。
「(私は何をいいきになっていたんだろう、Sクラスって、優秀って、言われて煽てられて・・・それが、今回の悲惨な結果に繋がった。私達は何も知らなかったんだ)」
今回の事は魔法ばかりを優先して接近戦を疎かにしていた、Sクラスの意識から生まれた結果だ。
「さあ、奥に行くぞ」
トールを先頭にし奥に進んて行く。中はほぼ一本道で真っ直ぐ進んで行った。途中魔法使いと思われる男もいたが魔法を放つ前に接近し、魔法を使う前に無力化してしまうから魔力抵抗が低くても全く問題にしていない。
「どうやら、こいつが最後だったみたいだな。囚われている人がいないか、お金が無いか確認してから村に戻るぞ」
「はい」
アジトの中には牢屋に囚われていた数人の女性がいた。金目の物がほとんど無かった。
「(・・・無駄骨だったな)」
トール達は囚われていた数人の女性を救出し野盗を縛り上げてから村に戻って行った。
囚われていた女性達を村に連れて来たが、どうやら違う村の女性達の様だった。しかし、その村もあの野盗達にいいように食い尽くされ誰もいなくなってしまったそうだ。女性達は行く場所が無い為、ここに住む事にするそうだ。
野盗達に食料を取られ、家を焼かれた為、質素な晩御飯だったが、ご馳走になり今は一人の部屋で寝転がっているところだ。マリィは隣の部屋にいる。もう夜も遅いから既に眠っているだろう。
「(今日は魔物との戦闘は無かったが、人間との戦闘は経験出来た。魔物と同じで魔法発動前の魔力光がある事がわかった事は収穫だったな。あれが、野盗の平均とすれば、全く問題ない。フェルミも驚いていたことから、俺の身体能力は相当高いと考えていいだろう。・・・明日はフェルミが住んでいる国に行くか)」
コンコン
そこまで考えた時だった。ドアがノックされる。
「(この感じフェルミか)開いてるぞ」
「夜遅くに失礼します」
ドアが静かに開き、フェルミがゆっくりと部屋に入って来た。
「どうかしたのか?」
「ご、ごめんなさい。わ、私怖くて。夜になるとあの時の事をどうしても、お、思い出してしまって。こ、怖いんです!一人でいるとあの時の触られた感触が蘇るんです‼」
フェルミは震えていた。お昼は気を張っていたのだろうが、夜になると一人で何もせずにいると、嫌な記憶が蘇ってきてしまったのだろう。
トールは静かに立ち上がりフェルミに近づく
「こんな女、軽蔑しますか?」
「いや、フェルミは強い女だ。自分を卑下したらダメだ。自分を卑下してしまうと、これからの自分の行いに自信が持てなくなる。弱気になるな。」
「ありがとう、ございます。ごめんなさい、今晩だけでも良いんです。御情けをください。」
「・・・おいで」
「はい、わ、私初めてななので、そ、それで」
「大丈夫だ。不安にならなくていい。」
フェルミは震えながらもトールの腕の中にユックリと収まる。フェルミの熱く長い初夜が初まった。
トールの隣の部屋でマリィは隣からの艶のある声を聴いていた。
「もう!トールはまた女の子と一緒にいるの⁉」
マリィは思う、トールは優しい。マリィには特に優しくしてくれる。不満は無い、無いけど、偶に淋しくなる。トールはマリィの事を普通の女の子の様に接してくれているのだろうか、と。
マリィは淋しい気持ちを抑えながら眠りに着いた。
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