第4話 出発
一気に一年以上とびます。
一年以上二年未満といったところです。
どうぞ。
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暗い森の中に樹のはえていない切り開かされた場所がある。そこには大きい岩がごろごろとそこらじゅうに転がっている。その奥には崖がありその崖には大きな横穴が開いておりその中から2人の人間が出てきた。
2人の内の一人は男で少し長めの黒髪を後ろで縛り肩の下あたりでユラユラと揺れている。線の細い顔に綺麗に整えられた眉。黒尽くめの服でコーティングしてあり、手にも黒いグローブをはめていた。まさに黒一色の出で立ちをしていた。しかし、彼の姿で妙なところは黒一色の服装だけではない。彼は目を閉じながら歩いているのだ。目が見えていないにも拘らず彼の歩みに一切の迷いも躊躇いもない。まるで何があるのか全て見えているかのような歩き姿だった。
2人の内のもう一人は女で腰の下まである長く綺麗な金髪。卵の様な小さな顔。滑々で瑞々しい白く柔らかなお肌に髪の毛と同じ色の眉が綺麗な形でいて自然なアーチ型。パッチリとした大きな二重。煌く銀色の眼光は見る者を魅了するか畏怖させる力がありそうな魔性の魅惑がある。鼻も、口も耳も全てが他の顔のパーツに見合う整った造形をしていた。神様が贔屓しているのではと疑ってしまうほどだ。女性と象徴する膨らんだ部位も見事にバランスがとれていた。
「ん~~~。陽光が気持ちいいねトール‼」
両手を頭上まで上げ、伸びをする女性。隣にいる男性に話しかける声は明るく元気で今にも踊りだしてしまいそうな程だ。その王族の様な整った容姿と遊び盛りの子供の様な元気な声とのギャップは彼女の持つ神秘的な雰囲気を失わせるのではなく、逆に彼女の魅力として、より一層引き立てるものになっている。
「今日からこの森を出るんだよね‼そうだよね‼楽しみだな~。」
彼女の輝く太陽の様な陽気な笑顔は見るものを元気にしてくれる不思議な力がある。それは女性の隣にいる男性にも効果を発揮していた。
「あぁ、今日この森を出る。」
言葉少なめだが、彼はけっして不機嫌なわけではない。彼の口元は柔らかく笑みの形を作り、目元も柔らかく穏やかになっている。
それを女性もわかっているのだろう、彼の言葉少なめの態度にも全く不満を感じている様子は無い。逆にお話してくれた事により一層嬉しそうにしていた。
「一緒に来てくれるか、マリィ?」
「はい!マリィはずっとどこまでもトールについて行きます‼」
マリィの全く不満も迷いも無い笑顔と声にトールと呼ばれた青年は嬉しそうに微笑む。
「あぁ、俺とずっと一緒にいろ。一緒にこの世界を見て回ろう」
「はい‼」
トールとマリィは二人並んで歩きだす。マリィはトールと腕を組みとても幸せそうにしている。幸せ絶頂の恋人か夫婦の様に。
だが、この森を歩いていて魔物に遭遇しない訳が無い。トールは約一年の間この森で生活していた為、この森にどれだけの魔物が住み着いているかも充分に理解していたし、その強さも充分理解していた。彼がこの森で戦った事の無い魔物は存在し無いと自信を持って言える程の戦闘経験を積んできていた。故に彼は自信を持って言える。この森で俺達を殺せる脅威となる魔物は存在しないと。
彼の知覚できる範囲に多数の魔物が近寄ってきた。魔物はこの森で中・下クラスと判断しているやつばかりだ。
「敵だ」
「そうだね!今日もいっぱいいるよ~。」
彼はもちろんだが彼女も当然のごとく魔物を知覚していた。そして、彼女もまた魔物を全く相手にしていない明るい声で話している。
「マリィ、これから森の外に行くんだ、外の状況がわからない以上お前の力を無駄に消費したくない。これからの戦闘は全て俺に任せてさがっていろ」
「はーい。がんばれトール‼」
手をブンブンと振りながら明るい無邪気な声援に思わず笑いが零れてしまう。
「ああ、まかせろ。」
マリィを後ろに下げトールは一歩、二歩と魔物の方向に進んで行く。今までの歩き方と何も変わらない気負いの無いものだ。
魔物の先頭集団と接敵する。
ドガッ‼
トールはあろうことか襲いかかって来た魔物を殴り飛ばした。大型犬くらいの大きさとはいえ生命力が高く凶暴なのが多い魔物を素手で吹き飛ばしたのだ。生命力が高い魔物でも即死したのだろう。ピクリとも動かない。
後ろからは相変わらず元気な声が聞こえてくる。
その声に応える様にトールは襲いかかって来る魔物を一撃のもとに殺して進んで行った。
攻撃を掠らせもしない見事な動きでついに襲いかかって来た魔物を全て倒しきった。
「すっごーい!格好良かったよ!」
「この森の魔物には問題無く勝てる・・・が井の中の蛙で無いことを願うな」
「井の中の蛙?」
「いや、なんでもないさ」
「もぉ~難しい言葉禁止‼マリィにも分かる言葉を話してよ‼」
「別に構わないが、それだといつまで経っても子供のままだぞ」
「子供じゃないよ‼どこからどう見ても大人のれでぃだよ‼」
「はいはい、(見た目だけは)そうだな」
二人は会話を楽しみながら再び森の外を目指して歩き始めた。
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