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赤い爪  作者: 西乃 詠
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其ノ一

急展開!



人生は一度しかありません。


もし来世や前世が存在していたとしても、一般的に人間には前世の記憶は残らないのですから、無いものと感覚はそう変わらないでしょう。そして、そんな貴重な人生、やはり平和にやり過ごしたいのが世の常でしょうが、現実社会そうもいきません。悲しい事も辛いことも、苦しいことも沢山ある訳です。もっとも、それがあるからこそ幸せはより輝いて見えるようですが。苦しくて辛くて悲しくて逃げ出したくて。恐らく人生はそんなものです。

そして、このようなマイナスイメージの強い心境の内の一つとして、孤独があげられます。孤独には、様々な苦悩のなかで際立った哀愁があります。だからこそ、人は時に孤独に惹かれたり、浸ったり、憧れたりしますね。ですが、そういったような、言わば人に愛される孤独とは別の、できる限り一生感じたくない孤独といもうのも、また確かにあるのです。例えば、自分の中のどこかにある真ん丸い硝子玉を、少しずつ少しずつ、鋼鉄の刃で削られていくような、果てしない傷みです。わかりませんか。確かに、少々抽象的すぎる表現かもしれません。私が感じてるのは、そういう孤独です。つまり私は、惨めな孤独者という話しになりますが、私だってなにもなりたくてこうなった訳ではありません。

さて。

話しを巻き戻せば、それは私が高校二年生になりたての頃からになります。

聞いてますか?

興味のなさそうな顔をしていますね、矢賀さん。

ですが、私がこれから話すことは、これからあなたが生き続けられるかどうかに深く関係していることですし、聞いておいた方が良いのではないでしょうか。

覚えていますか?

忘れてしまいましたか?

私は覚えていますよ、野川さん。あなたが高校生だった時、私も高校生だったんですよ。そして、あなたが3年A組だった時、私も3年A組だったんです。どうです?少しくらいは思い出せたんじゃないですか?自分達がしたことと、私がそれにどんな関わり方をしていたか。あぁ。思い出しただけで虫ずが走ります。ところで田辺さん。あなたは高校生の時、休み時間を楽しむことができましたか?そうですか。やはりあなたは楽しむことができていたのですね。私も楽しかったですよ。とても楽しかったです。あの時、私には友人がいました。あなた方も覚えているでしょう?


――笠原美咲。


彼女は、いつも明るくて、誰にでも優しかった。私にとって彼女は、この世に二人といない大切な存在でした。向こうはどう思っていたか知りませんが、あの頃の私にとって彼女は世界そのものでした。空が青いのも、血が赤いのも、全ては彼女のおかげでした。



――――ですが、彼女はもういません。

遠くに引っ越してしまったとか、国外に行ってしまったとか、そういう話ではありません。

彼女は、美咲は、自殺してしまったのです。私の知らない間に、いなくなってしまっていたのです。悲しい。悲しくて仕方がありません。私にとって世界は、無意味なものでしか無くなってしまったのですから。

では、私は一体どうすれば良いのでしょうか。彼女の様に、死ねば済むのでしょうか。自殺すれば、生き直すことができるのでしょうか。そんなこと、解りませんよね。少なくとも私には解りません。なぜなら私は、自殺してから生き直すといった過程を経験したことがないからです。では、仮に、「自殺すれば、次の人生に進め、生き直す事ができた」としましょう。そして、私がすぐに自殺したとしましょう。私はこれから、何もせずに次の人生に進むことになりますね。


さぁ。


そうすれば、私は満足できるのか。

できません。全く。私はそれでは満たされないのです。たまらなく不満なのです。そんな風に野垂れ死ぬくらいならむしろ、このまま呼吸という呼吸もろくにせず生きていった方がまだましです。私が満足しながら死んでいくための方法。それは一つしかありません。



美咲を自殺に追い込んだクラスメイトを、美咲を殺したクラスメイトを、今度は私が殺せば良いのです。



そうすることで初めて、私はやすらかに、美咲のもとに逝けるのです。



ねぇ。


聞いてますか?



「こんにちは。随分と久しぶりですが、元気ですか?元3年A組の皆さん。」

お疲れさまでした!

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