俺の彼女、重いかな?
いつもの休日。昼下がりののんびりした時間。
俺はソファにもたれかかり、片手でスマホをいじっていた。
もう片方の腕は、夏奈の胸元でしっかりと抱きかかえられていて、、身動きが取れない。
同じようにスマホを見ていた彼女が、不意に顔を上げて聞いてきた。
「ねぇ、私って……『重い女』かな?」
重い女?
聞き慣れない言い回しに、俺は小声で繰り返した。
「それって何?」
「愛が重すぎて、相手にプレッシャーを与えちゃうタイプのことだよ」
「ふむ」
俺は曖昧に頷いた。
「そんなことないと思うけどな」
夏奈と付き合って二年。確かにプレッシャーを感じたことなんて一度もない。
「本当?」
「もちろん」
返事をもらってもまだ不安そうな夏奈は、スマホの画面をこちらに見せてきた。
「見て、これ最近流行ってる『重い女診断』」
「重い女診断?」
「うん。ちょっと気になって……一緒にやってみる?」
「いいよ」
診断をスタートする。
問1:
相手の動向をすべて把握したいですか?(毎日の報告、スマホのチェックなど)
「……したい」
夏奈は少し躊躇してから、正直に頷いた。
「俺は別に構わないよ。毎日、学校とバイトと家でゲームしてるだけだし、出かける時は大抵夏奈と一緒だしね」
「スマホは? 私が見たいって言ったら、面倒くさいって思わない?」
「思わないよ。パスワードもかけてないし、見たいならいつでも見ていいよ」
本心からそう思っていた。
スマホなんて動画を見るかゲームをするくらいで、夏奈に見せられないものなんて何ひとつない。
「本当に……?」
「ほら」
俺は無造作にスマホを夏奈に差し出した。
彼女は両手でそれを受け取り、胸の前で抱え込んで目を閉じた。
眉間にしわを寄せてしばらく葛藤していたが、やがてスマホを返してきた。
「……ううん、いい。要くんを信じてるから」
俺は苦笑しながらスマホを受け取った。
「信頼してくれてありがとう。まあ、見たい時はいつでも言って。隠しごとはないから」
「とにかく! まだ第一問目だし。次、行くよ!」
夏奈は気を取り直して、次の問題に目を向ける。
問2:
相手にはすぐに返信してほしいですか?
「んー……本当はそうしてほしいけど、要くんも忙しいだろうし……」
夏奈は少し迷った末に、「はい」を選んだ。
「なるべく早く返すようにするよ」
俺は苦笑いした。時々スマホを置きっぱなしにして、ついメッセージに気づかないことがある。
(通知の設定、変えておこうかな)
俺は密かに心に決めた。
「それじゃあ、三問目は……」
問3:
異性が彼氏に近づくと、すごく気になりますか?
「それは当然でしょ!」
夏奈が思わず声を張り上げる。
「確かに、付き合ってるんだしね」
俺は頷いた。
「でも、夏奈に比べたら俺なんて全然モテないよ」
演劇部のエースである夏奈は、学校でも常に注目の的だ。
整った容姿に明るい性格。
正直なところ、どうして自分が夏奈と付き合えているのか、未だに不思議に思うことがある。
「それは要くんが無自覚なだけだよ。私がどれだけ心配してるか……」
夏奈が小さくぼやいた。
「そうかな? というか、夏奈こそ先週告白されてたじゃん。バスケ部のキャプテンに」
最近耳にした噂を思い出す。
「え? ああ、そんなこともあったっけ」
夏奈は思い出した途端、嫌そうな顔をした。
「あいつ一体何なの? 私には要くんがいるって知らないのかしら」
夏奈は、まるで猛犬のように「ガルルル……」と唸った。
「よしよし、落ち着いて」
俺は夏奈の小さな頭を優しく撫でて、なだめた。
指の間を流れる茶色みがかった中長髪は、シルクのような手触りだ。
普段はポニーテールか三つ編みにしていることが多いその髪が、今は肩にさらりと流れている。
「くぅ〜ん」
夏奈は目を閉じ、今度は甘える子犬のように俺の手に頬を寄せた。
「とにかく、俺には同性の友達も数えるほどしかいないし、異性なんて皆無だから」
言っているうちに、自分でも少し悲しくなってきた。
「つ、次、次行こう!」
夏奈が慌てて話題を変える。
問4:
よく不安になり、相手が自分を愛してくれていないのではないかと心配になりますか?
夏奈は問題文を見つめ、下唇を噛んだ。
「マジで? そんなこと思うの?」
俺は驚いて眉を上げた。
夏奈はしばらく沈黙した後、小さく頷いた。
「たまにね……特に、夜中に一人で目が覚めた時とか」
「どうして?」
「最近、ベタベタしすぎかな……要くんに嫌がられてないかな……って考え出すと、不安が止まらなくなっちゃうの」
俺は少し考え、今の心境にぴったりな映画のセリフを思い出した。
「俺、夏奈のことがどれくらい好きか言ったことあったっけ?」
「えっ?」
夏奈が驚いて顔を上げ、赤らんだ顔で私を見つめた。
「もし言ってたとしても、きっと言い足りないよ」
俺は心に決めた。もしそれで彼女が安心するなら、毎日でも愛を伝えようと。
「要くん……」
夏奈の瞳にじわりと涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうになった。
「とりあえず、次の問題見ようか」
俺は照れ隠しに咳払いをして、彼女に画面を促した。
問5:
自分のすべて(人間関係、時間、キャリア)を相手に捧げてもいいと思い、相手にも同等の専一さを求めますか?
「これは……そうでもないかな?」
夏奈が首をかしげる。
「うん、夏奈は意外と友達と遊びに行くもんね」
俺は頷いた。
「でも、自分のすべてを要くんに捧げること自体は、全然いいんだけどな」
「そこまでしなくていいよ」
俺は苦笑いした。
「でも、二人きりの世界にいても、それはそれで幸せかもね?」
夏奈は俺の胸に頭を預け、へへっと笑った。
「んー、案外悪くないかもね」
俺は顎を撫でながら同意した。
その後もいくつかの質問に答えていったが、進むにつれて夏奈の表情はどんどん険しくなっていった。
最後の質問を終えた時、夏奈は青ざめた顔で私の裾をぎゅっと掴んで聞いてきた。
「満点……どうしよう、私、本当に『重い女』だったみたい……」
俺は沈黙し、しばらく真剣に考えた。
そして、肩をすくめた。
「別にいいんじゃない?」
「本当? 嫌いにならない?」
夏奈が不安げに顔を上げる。
今にも泣き出しそうなその瞳を見て、私は思わず笑みがこぼれた。
「うん。愛が重いって、決して悪いことじゃないと思うよ」
本当のことを言えば、重いのは彼女だけじゃない。
夏奈を除けば、私には特別会いたい人も、どうしてもやらなきゃいけないこともない。
毎日一番楽しみにしているのは彼女からのメッセージだ。
休日の今だって、こうして彼女に腕を抱かれ、寄り添っているのが当たり前の日常になっている。
もし、いつか彼女が俺を必要としなくなったら。
——そんなの、想像しただけで耐えられそうにない。
だから俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
「だって、俺も同じだから」
【結論】
深川夏奈は確かに「重い女」だった。
でも、別に何の問題もないかな?
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