恋は秘密で成り立っている
「放課後屋上にきてほしい 北条」
机の中に手紙が入っていた。
「水樹さんのことが好きなんだ。だから、友達の広沢さんに情報提供と協力をお願いしたいと思って」
ああそうか。がっかりする。仲のいい水樹愛は私の友達で、頼みやすかったのか。
期待した私が馬鹿だった。
「でも、二人で教室で話すとバレバレだから、メールで情報交換してほしい。もちろんただとは言わない、広沢さんの頼みも聞くよ。たとえば、好きな男子がいるなら情報提供するし」
「そーいうの興味ないし」
わざとクールなフリをする。
「じゃあ、何かおごったりするから」
「別に何もしなくても情報提供してあげるよ」
半分やけくそだ。憧れていた人に完全にフラれた。
『水樹愛の好きな食べ物はフルーツパフェ。好きなアーティストは今流行りのトオコ。ああ見えて意外とおっちょこちょいで天然。』
私が最初に書く。どうせなら、自分のことも知ってほしいと思い、自分の好きな食べ物とアーティストも書いてみる。
『私が好きな食べ物は駅前にあるたいやきで、好きなアーティストはマイナーなんだけどワラワラだよ。』
北条君に初めてのメール。
『さっそくメールありがと。実は俺も駅前のたいやき好きなんだ。ワラワラ好きがなかなかいなくて、マジで仲間がいてウレシー!』
すぐに返信したいのをぐっと我慢する。クールな自分でいたいから。
好きだという気持ちを悟られたくないから。
ワラワラというのは、最近知る人ぞ知るアーティストで、コアなファンはいるけれど、そんなにメジャーじゃないからファンとリアルに知り合えるというのは滅多にない。いい曲を作っているけれど、刺さる人には刺さるという感じで、大衆受けはしない。こっちこそマジでウレシー!! これってキセキじゃない? こんなに近くにファンがいるなんて。
すると、その後北条君からメッセージが入る。
『明日の社会の宿題ってどこまでだっけ?』
『62ページから65ページだよ』
速攻返事するのってカッコ悪いかな。でも、早く返信しないと宿題範囲わからないから、困るよね。と自分に言い聞かせる。
メールのやりとりは案外楽しい。北条君とは意外と趣味や話が合うことに気づく。
『いつも朝早く登校して緑化委員の仕事をやっているけれど、押し付けられてるんじゃないの?』
『断れない性格なんだよね。一人ぼっちで水やりしてるなんてカッコ悪い姿みられちゃったなぁ』
『すげーよ。広沢は、率先して面倒な仕事を引き受けている。もし、おまえが水をやらなかったら、花が枯れちゃうだろ』
肯定的に受け止めてくれていたなんて素直に嬉しいな。思っていた反応と違った。
いい意味で私のことを見ていてくれたのかぁ。
にんまり笑顔が止まらない。
「私、北条君のこと好きかも」
ある日、急に水樹愛が私に相談してきた。
モテるので、さんざん色んな男子の告白を断ってきた水樹愛。
そんな彼女が好きになるなんて。北条君はやっぱりイケメンでかっこいってことだ。
「告白するの?」
「告白したいけど、恥ずかしい」
これ、両思い確定じゃん。唯一の私と北条君のつながりは両想いになることによって消えるのか。さびしいな。心の中で泣く。でも、笑顔は忘れない。から元気だ。
『水樹さんって好きな人いるのかな?』
北条君からメールが来た。
『さあね』
いじわるな私。
『広沢さんは好きな人いないの?』
一応私にも気を使って聞いてくれているのかな。
『いる』
書いちゃった。本当はいないって書こうかと思ったけど、どうせ近々二人は両思いになるだろうし、そうしたら、好きだと伝えられない。伝えられなくても、私には好きな人はいるってことを遠回しに言ってみよう。
『誰?』
意外と食いついてきた。まぁクラスメイトの好きな人ってのは案外気になるかもしれない。
『秘密』
これが無難な答えだな。これ以上は答えられない。ここまでが限界。
本当はあなたが好きですって書きたいところだけれど、恋路の邪魔をするつもりもないし、気まずい関係になることも避けたい。
『なんで? 教えてよ』
思ったよりも深く聞いてきた。
『どんな人が好きなの?』
それくらいならば、書いてもいいかな。
これ以上は聞いてこないと思うし。
『意外と趣味が合う人。話が合う人がいいなって思う』
ワラワラのことだと気づかれたら、私の気持ちがばれちゃうかも。
『北条君はどんな人が好きなの?』
『思いやりがあって、優しい真面目な人』
水樹愛は本当は正反対な性格だ。緑化委員会の仕事もサボってばかりでほとんど何もしない。でも、きっと北条君はそのことに気づいていないのかもしれない。恋は盲目だ。
「私、北条君のことが好きだから、告白しようと思うの」
水樹愛、まさかの告白。
もしかして、私の気持ちに気づいて嫌がらせをしているのかなと思う。
多分そうだ。彼女は本気で誰かを好きになったことはない。
いつも本気じゃない。彼女は何でも手に入れたいだけだと思う。
水樹愛が北条君に告白すると意気込んで呼び出した。
きっと二人はハッピーエンド。
わかり切った事実に涙が流れる。
突如教室の扉が開き、水樹愛は顔面蒼白だった。
「だめだった……」
彼女の声は力がない。
100%両想いだと思っていたのに、どうして?
『なんで、断ったの?』
さっそく北条君にメッセージを送ってみる。
『好きな人ができた。屋上に来て』
メッセージが来る。これは、断固抗議しないと。
どんな気持ちで私が協力したと思ってるの?
廊下をダッシュする。
屋上には風に髪をなびかせた北条君が立っていた。
「告白を断ったってどういうこと? 愛はすごく落ち込んでいたよ」
勢いよく問い詰める。
「俺、メールやりとりしているうちにおまえのことが好きになった。趣味も合うし、相談もなんでも乗ってくれるし、話しやすいし。いつの間にか、いつも頭の中におまえがいた。好きな人がいるって聞いてからはずっと気になって眠れなかったし」
予想外な大胆な告白をされてしまった。
「広沢に好きな人がいるなら俺なんて入る余地ないけどさ。これからも仲良くしろよな」
「こちらこそよろしくね。あと、私が好きなのは北条君なんだけどね」
北条君のまあるい目がさらに大きく丸くなる。
想像以上に鈍感な人なのかもしれない。
あんなに毎日メールを送りあっていたのに、私の気持ちに気づきもしないなんて。
そう言って私は屋上を後にしようと後ろを向いて歩きだす。
「今の言葉は、両思いだってことでいいんだよな?」
真面目な顔で確認される。
「……はい」
「じゃあ、俺と付き合ってよ」
「……でも、愛ちゃんに申し訳ないというか……」
「水樹愛は性格ブスだ。同級生の悪口をいつも言っているし、おまえのことも陰で良く思っていないことを知った」
「愛ちゃんにいじめられるかもしれない」
「しばらくは今まで通り俺たち二人の秘密の交換メッセージをしないか?」
「秘密の交換メッセージ?」
「今までみたいに二人だけの秘密のやりとりをずっと続けようって思ってさ。ほとぼりが冷めた頃にちゃんと付き合おう。あいつ、すぐに次の相手が見つかるだろうしな」
「うーん、どうしようかな?」
「おまえとのメッセージのやりとりの時間は超大切なんだって!!」
そんな深刻な顔で告白されるとは思わなかった。
「お前のことが超絶大好きなんだって」
「……はい」
こんなに素敵な人に告白されるなんて……。
「何泣いてんだよ」
嬉し涙が自然とあふれた。
「嬉しい時も涙って流れるんだね」
そんな私の涙を拭ってくれた。
彼の細くて長い指がとてもとても好きだ。
「俺の手につかまれ」
差し出された手に手を添えるとさながら王子様とお姫様のような構図になる。
「でも、なんで私なの?」
「俺、面白い人が好きでさ。話が合う人を求めていたんだ。一見お前は面白そうなタイプじゃないけれど、実はとっても面白いということが判明した。そして、趣味があう。これって最高のパートナーだよな。違うとは言わせねーからな」
「たしかに、私達気が合うよね。最高のパートナーになろうね」
「だって、ワラワラ好きな奴っておまえくらいだと思うし」
「この中学で聞いたことはないかも」
自然と笑顔があふれる。
自分で言ったくせに、赤面する北条君。私の方まで伝染して顔が赤面する。
熱を放つ全身。どうすればいいのか悩む。
ぎこちない距離を保ちつつその日は帰宅した。
『今度秘密のデートしないか?』
夜になるとメッセージが届いた。
『でも、誰かに見られたら面倒なことになるし、もう少し先におあずけね。』
『泣』
泣いている絵文字まで添えてある。
案外可愛らしい。
私達は一緒に恋愛をゼロから始める。




