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【短編集】5分後にきゅん 恋の話集めました  作者: 響ぴあの


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18/19

バド★ラブ

 中学校では何か必ず部活に所属しなければいけない。入学したと同時に何部に入ればいいかという悩みに直面する。なんとなくバドミントン部に入った運動神経が悪いと自負するバドミントン初心者の真橋音々まはしねねか。入部理由は室内だから日焼けしないし、経験者が少ないから、優劣がつきにくいのではと思ったからだ。なんとなくだが、テニスと比べて運動量がそこまで多くなさそうだと勘違いしていた。入部動機は、イケメンの先輩が多いからという至極単純な答えだ。目の保養は一番のポイントだ。


 一番目に留まったのはイケメンの木山浩志きやまこうし先輩。木山先輩は優しく頼りがいのある一個上の先輩。通称貴公子先輩。三年生が引退すると、全員一致の推薦で部長になった人格もプレーも優秀な人間。人間性がしっかりしていて、頑張り屋だし、後輩想いの理想のイケメン男子。天才肌であり、通称貴公子スマッシュを決める。華麗な貴公子というイメージそのもののスマッシュの度に女子の歓声が響く。音々香は、木山先輩にひとめぼれして入部を決意した。我ながら単純だなと思う。運動自体好きではないのだが、先輩と仲良くなりたいという一心でなんとか退部をとどまる。体育会系ではない音々香にとってバドミントン部の筋トレは想像以上にきつい。


 貴公子先輩と真逆のタイプで二番手人気。毒舌系ドエスイケメンと囁かれるのは、佐水得数さみずえす先輩。副部長で、部長の幼馴染らしい。貴公子とは真逆のあざと系毒舌系王子。ドエススマッシュと囁かれているスマッシュは変化球でまるでドエスな先輩の毒づいた性格そのものを表しているかのようだ。意外と努力家で早朝や帰宅後にもトレーニングを欠かさない努力家らしい。時々見せるいたずらな笑顔がたまらないと一部のコアなファンは囁く。否定はしない。普段は鋭い目つきなのに、時々見せる笑顔が意外にかわいい……なんて思ってしまう。


 ある日、早朝にランニングをしているドエス先輩こと佐水先輩に会う。音々香は部活ではほとんど体育館でシャトルを打たせてもらえないので、せめて素振りと一人でスマッシュ連打を公園で行っていた。シャトルをラケットで拾うという動作もまだへたっぴだ。


 ドエス先輩に嫌味を言われるのではないかと身構える音々香。すると、頑張る後輩はとことん応援すると意外な笑顔を見せる。その日以来、毎朝佐水先輩と早朝トレーニングで会うことになり、二人はだんだん仲良くなる。佐水先輩本人もドエス先輩と影で言われていることに気づいているが、佐水は気にすることもなく己を貫く。どんなに憎まれても嫌われても、後輩に厳しく指導するのは、後輩のためを思ってだということらしい。憎まれ役になってまで、人のために厳しい指導をする佐水先輩のことを見直す音々香。その横顔はさわやかでかっこいい。


 ある時、音々香が貴公子先輩を好きだという噂が佐水先輩の耳に入る。面白い弱みを握ったと佐水先輩は、基礎トレ内容を組んでくる。もし、これをこなせるようになったら、貴公子先輩とデートをセッティングしてもいいという。二人は幼馴染で、佐水のねがいならば、木山は聞くということだ。バレたのは恥ずかしいけれど、これはチャンスかもしれない。


 一緒に朝ランニングをして筋トレに励む音々香。いつのまにか他の部員よりも基礎体力が身についていた。そして、スマッシュのフォームもドエス先輩直伝のおかげでかなりきれいになっていた。部長の貴公子先輩からも一目おかれるようになり、自然と会話ができる関係になっていた。先輩たちとの距離も近づいてきた。気さくに話しかけてくれる二人との距離感が心地いい。他の女子よりも一歩は近づいたような気がした。


「今日、スーパームーンが見えるんだって。夜、七時に丘の上公園に集合だ」

 さりげなく、佐水先輩は貴公子先輩と音々香を誘った。つまり3人でいくならば、おかしくないし、デートのセッティングの約束を果たすということだろう。まずは3人で――それならば問題なく貴公子先輩もオッケーだろう。さすがだ。胸が高鳴る。


 夜の公園は早朝トレーニングの時の雰囲気とは違う。しかし、見晴らしがいい場所だけあって、天体観測する人たちは結構いる。なんだかロマンティック。


「おう、真橋さん。来てくれて嬉しいよ」

 手を挙げてこちらに歩みあって来る。

 貴公子先輩は相変わらず優しい笑顔だ。

 憧れていた先輩と二人きり。すぐ真横にいるのかぁ。

 心がじんわりする。ドキドキと心拍数は速くなる。

 手と手が一瞬触れ合うと心臓は


「そういえば、さっき佐水から連絡があって、急用ができていけなくなったらしい。俺と二人で申し訳ないな」

 スマホを触りながら説明される。申し訳なさそうにする貴公子先輩。

 相変わらず謙虚だ。むしろ、緊張する。でも、急用って――まさか、最初から二人きりでデートさせるつもりだったのかな。それって、なんだかずるい。事前に教えてくれてもいいのに。もしかして、急な体調不良だったりして。体調だいじょうぶかな? 急用という言葉が引っかかる。本当は楽しい時間のはずなのに、想定外になんだか不安になる。


「急用って体調不良とかじゃないですよね?」

 なんとなく不安になる。

「俺も詳しくはわかんないんだけど、あいつは昔から自由で勝手気ままな奴なんだよ」

 夜空を見上げるととても私たちは小さな存在だと感じる。

 広い広い夜の空の下で貴公子先輩と二人きり。

 普段以上に緊張する。ドキンという胸の高鳴りが体中をほとばしる。


「先輩たちは幼なじみなんですよね? 佐水先輩ってどんな人だったんですか?」

「あいつは、ガキの頃からヤンチャだったからなぁ」


 昔あった出来事を包み隠さず話してくれる貴公子先輩の話からは、佐水先輩のいいところしか見えてこなかった。なんでだろう。こんなにいい人なのに、ドエスなんて言われているなんて。友達思いで、人情深くて、自分が損しても身を引くタイプ。他人のためならば、自己犠牲をいとわない。絵にかいたような良い人だ。口は悪いけれど、正義感が強くていじめている人がいたら力で制圧したこともあるらしい。ケンカも割と強いし、運動神経もいいから他の部活からもスカウトが結構来ていたらしい。優秀だなぁ。そして、かっこいい。多分、目つきが悪いし愛想がないし口が悪いのが原因だと思う。イケメンなのに、もったいないな。


「あいつ、口は悪いから誤解されやすいんだけどね。本当に信頼できるいい奴だよ」


 そんなこと、とっくにわかってるよ。情に厚くて一生懸命な人。

 誠実でまっすぐ。いつも一生懸命スマッシュを教えてくれる。

 そばにいてくれた人。

 スーパームーンが静かに消えていく。そして、最後に見えなくなる。そして、徐々にまた月が見えてくる。想像以上に大きく赤い月が目の前に現れ、消える。不思議な現象だった。


「これ、あと50年は見れない現象なんだって」

「そんなに? 私、おばあちゃんになっちゃうよ」


 今日、彼と一緒に見たかった。佐水先輩が隣にいてほしかった。貴公子先輩ももちろんかっこいいし、優しいし、憧れだけれど――。いつも私の傍で指導してくれたのは佐水先輩だ。なんで、こうもあっさり二人きりにしてくれちゃうのかな。明日、朝錬で問い詰めなきゃ。


「実は、今日のことだけど、俺が真橋さんを好きだということを佐水に言って、セッティングしてもらったんだ。俺と付き合ってくれないかな」


 少しばかり緊張した様子で、演劇のセリフを言うかのような平坦な口調。多分、絶対に緊張しているのだろう。貴公子先輩にしては珍しい。


 突然の告白が舞い降りて、頭の中は、パニックで真っ白だ。

 どうしよう。そんなこと――言われても――。

 っていうか貴公子先輩が好きなことがばれて、結果的に佐水先輩に相談していたんだ。佐水先輩は両思いなのを知っていて、今日のこの場を用意してくれたのかな。相変わらず世話焼きだな。


 顔が赤面する。多分かなり熱くなっている。

「私も、部長が好きですが――まずは、先輩と後輩っていう関係が一番いいと思うんです。まだ、お互いしらないことばかりだし……」

 しどろもどろの発言となる。


「そうだよね。突然ごめん。でも、これから関係を築けていけたらそれでかまわないよ」

 優しい笑顔で包んでくれる。

「俺は、諦めないよ。いつか君を振り向かせてみせる」

 そんな嬉しいことを言われたら、何も言えなくなる。

 贅沢すぎる悩みだよ。

 もちろん佐水先輩は何も特別な感情はないだろうけれど。


 翌朝、ドエスな佐水先輩と朝練だ。

 もしかして、告白されたこと知っているかもしれない。

 二人は幼なじみで親友なんだから。

 どんな顔をして会おう?

 というか体調は大丈夫だろうか?

 本当にただの急用だったのか、気を遣ったのか?

 気になるばかり。頭の中は佐水先輩のことばかり。


 朝の公園でさわやかながらいたずらな笑顔を見せる佐水先輩。

「よう、うまくいったか?」

 何食わぬ顔でそんなことを言うなんて憎らしいなぁ。

「先輩は、本当に私と部長がうまくいってほしかったんですか?」

「どういう意味だよ?」

 面と向かって言う。

「私が部長と付き合っても平気なんですか?」

「二人は両思いなんだ。俺がとやかく言う筋合いじゃないだろ。うまくいったんだろ? 俺のおかげだ、感謝しろ」

「ばかあ!!」


 大きな声で怒鳴ると、びっくりした顔をする佐水先輩。

「私の気持ちはとても揺れているんです」

「どういう意味だよ?」

 本当に困惑顔だ。この人、自分の恋愛に対しては超鈍感なんだろう。

 他人のことには人一倍気を配れるのに、自分の恋愛には無頓着。

「本当に、鈍感ですよね」

 沈黙が走る。


「私は、部長よりもずっと佐水先輩のことが好きになってしまったんです。昨日、私は佐水先輩と一緒にスーパームーンを見たかったんです」


 必死の告白に驚く先輩。

 言った本人も驚いている。

 びっくり顔の二人は顔を見合わせる。


「だから、とっても複雑なんです」

 恥ずかしくて視線を合わせられない。

「なんで? 俺、口が悪いし、あいつに比べたら女子ウケ悪いだろ。厳しい鬼の先輩ってポジションだと思うし」

 少しばかり困った顔をされる。これってやっぱり断固拒絶されちゃうのではと心底心配になる。今までの関係すらもなくなってしまうかもしれない。全てがゼロになるかもしれない。


「先輩は良い人です。いつも他人に思いやりを持って接するがあまり、口調がきつくなっているだけじゃないですか。不器用なだけで、とっても他人思いの素敵な人ですよ」


「何それ? 俺への告白?」

 困惑しすぎて、少し照れながらちゃかしてくる。

「告白です」

 意外にもきっぱり言えた。告白してしまったと自分で気づく。

「でも、木山のことを考えると……気持ちは嬉しいけどさ」

 想像以上に先輩の頬が真っ赤だ。

 意外と告白や恋愛というものに慣れていないのかもしれない。

 佐水先輩に憧れている人は多いだろうけれど、実際に告白はされたことはあまりないのかもしれない。


「好きイコール付き合うというわけじゃないでしょ。佐水先輩に想いを伝えて一緒に時を過ごすだけでいいんです。このままの関係でいいじゃないですか。私は、本当はあなたとスーパームーンが見たかったんですからね」


 関係がゼロになることの予防線を張る。


「俺も、おまえのことは好きだけど――今は……この関係がいい。バド部の先輩後輩として仲よくしよう」

 これって断られているの?

 好きって言ってるようだけれど、この関係のままってことは遠回しに嫌いといわれている? わかんないよ。脳内が混乱状態に陥る。


「いつか、私のこと好きだって言わせてみせます。朝練、ちゃんと明日も来てくださいね」

 私ってやたら前向きかな?


「もちろんだよ。ってもう結構好きだったりするけどな」


 え? 何それ?

 重大告白じゃん?

 二人のイケメンの間で揺れ動く音々香。

 全くタイプは違うけれど二人とも優しいし、本当にいい人間だ。

 一見違うように見えて、実は同じタイプの人間なのかもしれないと思う。

 二人とも話していると、あったかい気持ちになれるから。

 二人の両思いだけれど、すぐには付き合えない状況。でも、お互いの気持ちは確信していて、同じスポーツに打ち込んでいく。無意識に育む恋はすごく、くすぐったくて温かい。どちらかを選ぶなんて贅沢すぎる。今はこの関係でいたいな。


 今日も床に向かって思いを込めてスマッシュを打ち込む。

 最初は全然好きじゃなかったバドミントンがいつのまにか、大好きになっていた。


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