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【短編集】5分後にきゅん 恋の話集めました  作者: 響ぴあの


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13/19

末来予知ノート

 私には生きる意味がない。

 生きている価値はあるの?

 今日も真夜中に中学校の旧校舎の漆黒色のグランドピアノの元へ行く。ほんの一時間程度。

 田舎に住んでいていいと思う瞬間がある。見上げると幾千もの星空の輝きが降り注ぐ。

 中学校の旧校舎の音楽室には古いグランドピアノが放置されている。新校舎ができた時に、新しいグランドピアノが届いたにも関わらず、処分されずにただ置かれている。ここはなぜか防犯対策をしていない。盗まれてもいいものしかないということもあるし、近々取り壊しになるらしく、防犯カメラや防犯会社のセキュリティーシステムがない。田舎の中学校ということもあり、ピアノを弾いても誰にもばれない山の中だ。旧校舎は校門の外にあり、防犯の対象になっていないのが幸いした。窓から降り注ぐ月明かりが心地いい。


「こんなところで、勝手に弾いていいのかよ? 死にたいなら俺にその命をくれないか」


 彼の名前は、流我奏りゅうがかなで。たしか、ピアニストの両親を持つ元天才ピアニストと言われていた。見た目がかっこいいし、元天才ピアニストで女子からの人気がある。でも、彼は何かのアクシデントがあってピアノを辞めたと聞いた。


「あなたは同級生の流我奏くんだよね。こんなところで何をしているの? 死にたいって言うのはどこから得た情報なの?」

「実は、死を入れ代わってもらうと俺の寿命が延びるっていう情報を得たんだ。だから、死にたい奴を探していた。毎晩旧校舎からピアノの音が聞こえてきた。気になって、置いてあった日記を読ませてもらった」


 日記は誰も来ないと思って書いて旧校舎に置いていた。


「おまえ、死にたいんだろ。ならば、俺の代わりに死んでくれないか? 俺は、こう見えて近々死ぬらしい」

「なんで、そんなことがわかるの?」


 古びたノートを鞄から取り出す。


「俺、不思議な未来予知ノートを持っているんだ。俺は事故に遭う運命で、長生きはできないって書かれていた。予知ノートは、俺の家に代々受け継がれているんだ。これに毎日生きる意味を書き込むと自分の寿命が延びるって書かれているんだ。自分が生きるためには、誰かに死を交換してもらわなければいけないらしい」

「そんな話、信じられないよ」

「実際、俺の祖父は死を免れたいう話を聞いたんだ。生きる意味がある者は、この世界で生きる価値があるということなのかもしれない」

 真剣なまなざしだ。冗談を言ってからかっているわけでもなさそうだ。

「死を交換するってことは、誰かが犠牲になるの?」

「ノートの最初にこのノートの効力が書かれているんだ。見てみるか?」

 彼がノートを開くと、文字が書かれていた。

【あなたは近々事故で死にます。生きる意味を書き続ければ、生きる価値があると判断されて、少しは長く生きられます。死を回避するには、誰かに死を代わってもらってください。】


「ノートの内容は日々変化するんだ。これは未来を予知してくれるアイテムってことだ」

 不思議なノートを見つめる。こんな紙の塊に何ができるのだろう?


「私でよかったら、あなたの生きるための犠牲に応じてもいいよ。ちょうど死んでもいいと思っていたから」

「なんで死にたいんだ?」

「色々嫌になったんだよね。父の会社が倒産して、好きなピアノもこんな夜中に旧校舎でこっそり弾くことしかできない

「旧校舎で自分のノートに辛いってことばっかり書いてるだろ。自分自身の生きる意味を探してみてもいいと思う」

「生きる意味ね。あなたは生きたい。私は死にたい。私が死を入れ代わってあげるよ。簡単なことでしょ」

「おまえのことをちゃんと知りたい。その上で決める」

茶色いストレートの髪の毛が月夜に映える。 漆黒の瞳。肌の色は白い。 きれいな人だ。


「生きる意味がない人間っているのかな?」

生きる意味――深くて難しい問題だ。 生きる意味がない人、価値がない人なんているのだろうか? 意味を探すことから逃げているだけなのかもしれない。


「ちょっと弾かせろ」

 指は細くて長い。細かい音色を指をくぐらせながら奏でる。 よくもまぁこんなに指が動くものだ。 子犬のワルツを弾いてくれた。本当に目の前で子犬が駆けているかのようだ。 どうやったらこんなにも繊細でリズムが整った軽快な音になるのだろうか。

「どんなもんだ?」

「本当にケガしてるの?」

「長時間、このテンポで弾きつづけることが難しいんだ」

「俺の代わりに死ぬ価値があるか見極めたい。これから夜中にここで落ち合うぞ」   

 一人ぼっちの夜は二人きりの夜に変わった。


  次の日も、また次の日も。晴れの日も雨の日も。私たちは旧校舎でピアノを奏でた。空は漆黒の真夜中。とても自由で、その時間だけは生きていることを実感する。どこまでも美しい時間だったと思う。二人の距離は近くなっていた。


 この言葉を交わしたその日――。見通しが悪い細い道路を歩いていた。車が道のない森に向かって飛び込んでくる。 もしかして、予知ノートの効果は本物なのかもしれない。 もっと一緒にこの時間を過ごしたかった。思わず体が固まって動けない。私の目の前に奏が現れて、彼は犠牲になった。


  私は生きる価値なんてないのに――。 ごめんね、奏――。 無力な自分に対して、涙が流れた。


 救急車で運ばれ、奏は命に別状はなかった。


 後日お礼を言う。

「助けてくれてありがとう」

「目の前の人間を助けるのに価値や理由なんていらないからな」


「美音は覚えていないかもしれないけどさ。俺がこの地域で投身自殺で有名な岬に行った時、美音に会ったんだ。まだ、美音の親の会社が倒産する前で、家族で旅行に来ていたよな」


 小学生最後の夏休みの家族旅行を思い出す。あれから、あっという間に人生が変わった。 毎年近場にキャンプに行っていた。美しい空はお金では買えないと良く聞かされた記憶がある。

「星がきれいな夜で、美音は一人で散歩してたよな」

「もしかして、あの時の男子?」

 まだ小学六年生だった時に、出会った美しい男の子。満天の星空の下で彼は絶望していた。 あの時、奏は既にケガをしていた。


「公立中学に行ったら今までやってきたことが無駄になるかもしれない。俺が崖から身を投げ出そうとしたとき、価値がない人間なんていないから、とりあえず飛び降りないでほしい。ここで出会ったのも何かの縁だから、生きていたらまた会えるかもっていわれてさ」


 正直あの時は目の前で死にそうになっている人間を助けるために、パニックになりながら、とりあえず言葉を並べた。 知らない人だけれど、死んでほしくないと幸せの中にいた私は願った。いつの間にか、今の奏と私は当時とは逆の立場になっていて、彼なりに私を助けようと模索してくれたのだろうか。


「ずっと命の恩人を探していた。あの時は、美音の全身からオーラが溢れていた。地元の公立中学に入って、探していた織川美音を見つけた。でも、声をかけられなかった。今度は美音のほうが、光を放ってなかった」

「予知ノートなんていうのも俺が作った嘘だ。もう一度、美音に輝いてほしかったからさ。まさか本当に交通事故に遭うなんて思いもしなかったけどな」

「たしかに。一瞬本物の未来予知ノートなのかと思ったよ。でも、あの時は、本当にありがとう。一生命の恩人だと思って感謝するよ」

「未来予知ノートならば、願望を書いてみたらかなうよな?」


【流我奏と織川美音は両思いになって共に音楽を通してずっと愛し合う】


「俺が今生きる目的は、あの時の少女に会って、気持ちをちゃんと伝えることに変わった。だから、おまえの内面を知ってもっと好きだと思った。本物の恋人になってほしい。今すぐ付き合うって言ってくれなかったら、この告白無効ってことにしようかな」

「え? だめだよ、私も好きなのに!!」

 しまった。つい、無意識に言葉が出る。

「人は思ってることを今すぐ決めないとダメになると即決断できるものなんだよな。無意識な親切ってのは本来の人柄が出るものだ。だから、知らない人に一生懸命生きるように説得した美音は絶対性格いい奴だって思った」

「私でよければ、よろしくおねがいします。私なんかでいいのかな?」

「美音しかダメなんだよ。私なんか、なんて自己肯定感の低いことを言うな」

「一緒に生きていこう。もし、死にたくなったら俺がいるから立ち止まれ」


【ずっと一緒にいられますように】 。

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