※拝啓:罠(わな)の仕掛け方が、あまりに古典的(ベタ)すぎますわ
アルフレッド(元)殿下のポエムが王宮掲示板を「赤色」に染め上げ、国中の笑いものになってから三日。公爵家の朝食の席に、今度は「本物」の毒が届いた。
「リリアーヌ様。……王妃陛下直属の使者より、招待状が届いております」
執事が震える手で差し出したのは、金縁が施された豪華な封筒。王宮の絶対的な女主人――王妃イザベラ。アルフレッドの実母であり、現体制の「最高権威」を象徴する女性からの呼び出しだ。
お父様がその封筒を一瞥した瞬間、その場の空気が零下まで凍り付いた。
「……王妃だと? あの執念深い女、アルフレッドの件を根に持っているな。リリアーヌ、行く必要はない。私が『娘は風邪で寝込んでいる(物理的に)』と返事をしてやる」
「公爵、それは無理がありますわ。……リリアーヌ、これは『招待』という名の、宣戦布告ですわね」
お母様が扇で口元を隠しながらも、その瞳には好戦的な色が宿っていた。私は優雅に封を切り、中身の羊皮紙を取り出す。
『親愛なるリリアーヌ・アストレイド。先の騒動では、我が息子が無作法を働いたとか。謝罪も兼ね、王宮の茶会にて貴女を歓迎したい。王宮の伝統ある作法を重んじる者同士、有意義な時間を過ごしましょう』
一見、完璧な礼儀に基づいた文章。しかし、私の『校閲眼』が、その行間に隠された「悪意のフォント」を逃すはずもない。
【※本音:生意気な小娘め。野蛮な公爵家に育ち、マナーも知らぬ分際で我が息子を辱めるとは。王宮の『伝統』という名の檻に閉じ込め、一挙手一投足を徹底的に添削して、二度と表を歩けぬよう恥をかかせてやるわ】
(……まあ。王妃陛下の『本音』、あまりにも語彙が攻撃的ですわね)
私の唇が、無意識に弧を描く。王宮の伝統という名の、古臭いルールで私を縛ろうというのか。
「……リリアーヌ。そんなに楽しそうな顔をされたら、私の出る幕がないじゃないか」
背後から、熱を帯びた声がした。いつの間にか現れたカイル様が、私の肩にそっと手を置き、その美しい指先で招待状の端をなぞる。
「カイル様。王妃様が、私を『マナー』で校閲してくださるそうですわ。光栄すぎて、ペン先が震えます」
「ふ……。彼女は分かっていないようだね。君こそが、この国の歪んだルール(文章)を書き換える『赤ペン』だということを」
カイル様の頭上には【※独白:母上、余計なことをしてくれた。リリアーヌが楽しそうに笑うのは嬉しいが、彼女を攻撃する者は、たとえ実の親であっても『没』にするしかないな】という、冷酷な決意が浮かんでいた。
カイル様は私の耳元に顔を寄せ、その低く甘い声で囁く。
「この招待状、君ならどうリライトする?」
「そうですわね……。設定が古臭く、敵役の動機がステレオタイプすぎます。もっと『劇的』な改訂が必要かと」
私は愛用の万年筆を手に取り、招待状の「承ります」という返信欄の横に、小さな注釈を書き込んだ。
『当日、王宮の「伝統」という名の古い版組み(システム)を、根本から大改訂させていただきます。――校閲者:リリアーヌ・アストレイド』
王妃という名の最高権威が書いたシナリオを、真っ赤に染め上げる瞬間が今から待ち遠しい。
「……さあ、参りましょう。不備だらけの王宮に、正しい『終止符』を打ちに」
最後までお読みいただきありがとうございます!
ついに第3章【王宮編】が開幕しました。出てきたのは、王太子の実母にして王宮の絶対的な権力者・王妃様。「マナー」という名の、逃げ場のないルールでリリアーヌを追い詰めるつもりのようですが……。
リリアーヌにとっては、王妃すら「設定の甘い書き手」に過ぎないようです。そしてカイル王子の「たとえ親でもボツにする」という狂おしいほどの独占欲。二人の共犯関係が、王室の伝統をどう破壊していくのか!?
「王妃様、リリアーヌ様を怒らせたら国が終わるぞw」「王子の執着がどんどん増してる!」 と感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や評価(★★★★★)で応援いただけると、執筆の励みになります!
次回、王宮茶会。リリアーヌの「最強の礼儀作法」が、王妃のプライドを粉砕する――!




