表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

※再校:『鉄血公爵』の看板に、偽りあり(ただし家族に限る)

 爆走する馬車の中、私は向かい合って座る二人の男――般若顔はんにゃがおの父と、余裕の微笑みを浮かべるカイル様を見比べ、静かに溜息をついた。


「リリアーヌ! なぜそんなに落ち着いているんだ! あと三十秒遅ければ、カイル王子は君の唇を……ッ!」


「お父様、仮定の話で構成を組むのはおやめになって。事実として、私の唇は今もここにございますわ」


 私が指先で自分の唇をなぞると、父の頭上に【※本音:その仕草すら可愛い! だが王子に見せるな! ああああ心臓が痛い!】という悲鳴のような注釈が躍った。


「……ふ。アストレイド公爵、そう焦らないでほしい。私はただ、彼女に相応しい『贈り物』を届けただけだよ」


 カイル様が私の手にある万年筆を見つめ、優雅に足を組み替える。その頭上には【※独白:邪魔が入ったのは計算外だが、リリアーヌの困り顔も格別だ。今夜は彼女の指の感触を思い出しながら、婚姻届の修正案を練るとしよう】という、相変わらず逃げ場のない文字が光っていた。


 やがて馬車が屋敷に到着し、扉が開く。そこには、冷徹な美貌びぼうを誇る我が兄、ヴィンセントが立っていた。若くして近衛騎士団の副団長を務める、公爵家の次期当主だ。


「……お帰り、リリアーヌ。無事でよかった」


 兄様は無表情に、私の頭をそっとでた。一見すると氷のような騎士。けれど私の『校閲眼あかぺんのしんたく』は、彼の背後に巨大な金色の壁――もとい、注釈を見逃さない。


【※本音:リリアーヌ! リリアーヌリリアーヌリリアーヌ! 会いたかった! 王子と二人きりで街を歩くなど、兄様は許さないぞ! 今すぐ消毒してやりたいが、嫌われたくないので我慢する。今日も世界一可愛い!】


(……兄様。思考のループが激しすぎて、注釈がバグを起こしそうですわよ)


「ヴィンセント! お前も言ってやれ! この不届きな王子がリリアーヌを……」


公爵あなた、言いすぎですわ」


 父の言葉をさえぎったのは、屋敷の奥から現れた母、エレオノーラだった。鉄の規律を誇るアストレイド家において、唯一父が頭の上がらない「真の支配者」である。


「あら、カイル様。リリアーヌを送り届けてくださってありがとう。よろしければ夕食をご一緒していらして?」


【※本音:まあ! 王子とリリアーヌ、並ぶと最高に絵になるわ! さっそく二人のウェディングドレスの構成案をデザイナーに発注しなきゃ。あの人(夫)は適当に庭にでも放り出しておきましょう】


「母様。ドレスの話は……いえ、なんでもありませんわ」


 夕食の席は、もはや「地獄の校正会議」のようだった。右では父が「王子の欠点」を羅列し、左では兄が「無言の圧力」を王子にかけ、目の前では母が「将来の孫」のプロットを熱心に練っている。


「……皆様、少々よろしいかしら」


 私は、もらったばかりの万年筆をナプキンの上に置いた。カイル様が「おや、校閲の時間かな?」と楽しげに目を細める。


「この家の『愛情表現』、すべてにおいて設定が盛りすぎですわ。過剰な形容詞、事実無根の妄想、そして公爵としての品位を欠いた語彙ごいの数々……。すべて『赤入れ(リライト)』の対象です」


 私はスッと、父と兄がそれぞれ差し出していた「おかわり」の皿を押し戻した。


「特に、食べ過ぎで血圧を上げているお父様と兄様。今夜のデザートは『廃棄(没)』とさせていただきますわ」


「「えっ……」」


 鉄血公爵と天才騎士が、同時に絶望の表情を浮かべる。私は、隣でクスクスと笑う王子の頭上の注釈を見やった。


【※追記:家族をしつける姿すら美しい。……だがリリアーヌ、私のプロットだけは、どんなに赤を入れられても決して折れないと知ってほしい】


(……この王子様も、なかなかの『難読案件』ですわね)


 私はため息をつきながらも、賑やか(すぎる)夕食の続きを楽しむことにした。どうやら、私の新しい人生の原稿は、一筋縄ではいかない「超大作」になりそうだった。

 最後までお読みいただきありがとうございます!


 ついに揃ったアストレイド公爵家の人々。クールな仮面の裏側で、妹への愛がバグレベルでループしている兄様と、すでに孫の代までプロットを完成させているお母様……。 この「設定盛りすぎ」な家族の中で、リリアーヌの冷静さが一番の武器かもしれません。


 ちなみに、お母様に「庭に放り出しておきましょう」と言われたお父様ですが、その後のデザート抜き(没)判定で、さらにHPが削られたようです。


 「兄様のギャップがたまらないw」「お母様、味方になると心強い!」など、 感想や【ブックマーク】、評価(★★★★★)をいただけますと、家族の愛(と注釈の文字数)がさらに重くなります!


 次回、公閲ガールの元に、廃棄したはずの「あの男」から一通の不穏な手紙が届き――? リリアーヌの赤ペンが、再び火を吹きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どうやら母親は一応味方みたいですね。……父親への対応がスバラシイ。流石、陰の支配者です(笑) 兄はシスコンか~。一応父親とタッグを組むのでしょうけど、コンビネーションが悪そうです。直ぐに躾けられてる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ