※注釈:その初デート、お得なようで大損です
約束の翌朝。カイル様は宣言通り、私の愛用ブランドの『最新モデルの校閲用万年筆』と、おまけとしては豪華すぎるバラの花束を抱えて公爵家へやってきた。
「おはよう、リリアーヌ。ゆうべの『続き』をしに来た」
カイル様の頭上の【※本音:本当は家から出したくないが、君に美味しいものを食べさせて機嫌を取り、外堀を埋めたい】という文字を読み流しつつ、私は彼のエスコートで城下町へと繰り出した。
王都のメインストリートは活気に溢れている。けれど、私の目には普通の景色とは少し違う「情報」が飛び込んでくる。
「リリアーヌ、このカフェはどうかな? 『王都一の絶品ケーキ! 今なら半額!』という看板が出ているが」
カイル様が指差したお洒落なカフェ。その看板の上には、無慈悲な黄金の板が突き刺さっていた。
【※注釈:『王都一』は自称です。昨日売れ残ったケーキを処分するために『半額』と謳っていますが、実は元の値段を二倍に設定し直した直後の半額なので、一分の得もありません】
「……却下ですわ。カイル様、あちらの地味な店構えのベーカリーにしましょう」
「え? あちらは宣伝も出ていないようだが……」
【※注釈:店主がシャイすぎて宣伝していませんが、三代続く秘伝の酵母を使用しており、味は宮廷御用達レベルです。価格は良心的すぎて経営が心配なレベルです】
「私の『校閲眼』が、あそこは修正の必要がない名店だと言っておりますの」
半信半疑のカイル様を連れて入った店で、私たちは人生で一番美味しいクロワッサンに出会うことになった。私の能力は、契約書や本音だけでなく、世の中の「虚飾」を暴くのにも非常に便利なのだ。
その後、広場を歩いていると、怪しげな男が「一生遊んで暮らせる投資話」を持ちかけてきた。差し出された契約書には、金色の注釈が猛烈な勢いで赤字を入れていく。
【※事実確認:利回り30%とありますが、実際は0.001%です。このサインをしたら最後、あなたの公爵家は三日で破産します。というか、この男の身分証は偽造です】
私は、男が差し出したペンを優雅に押し返した。
「この契約書、構成に重大な欠陥がございますわ。第1条から第100条まで、すべて『虚偽』という名の誤字で埋め尽くされていますもの。……衛兵さん、こちらに『廃棄物』が落ちておりますわよ」
カイル様が冷ややかな視線で衛兵に合図を送り、男が連行されていく。カイル様は感心したように私の顔を覗き込んだ。
「……驚いたな。君と一緒にいるだけで、この国から不正が消えていくようだ」
「ふふ、私はただ、この世界の『誤字』が我慢ならないだけですわ」
そう言って微笑むと、カイル様の頭上の注釈が、本日一番の輝きを放った。
【※追記:賢い。強い。美しい。悪を断罪するその横顔、まさに私の女神だ。……というか、今の微笑みは反則だろう。今すぐ人目のない路地に連れ込んで、その唇を独占したいという衝動を抑えるのに、私の理性が全軍全滅の危機に瀕している】
(……カイル様、デートの構成案に『路地裏』を入れるのは即刻却下させていただきますわよ?)
私は、彼の理性の「堤防」がこれ以上決壊しないよう、あえて万年筆の話をしてはぐらかしながら、賑やかな街を歩き続けた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
リリアーヌの「校閲眼」、実は食べ物の鑑定にも役立つ便利スキルだったりします。 二重価格のケーキ、現代でも気をつけたい案件ですね……(笑)。
そしてカイル王子の理性、全軍全滅の危機です。彼は果たして、路地裏へ連れ込みたい衝動を抑えきれるのか。
「王子、頑張れ!」「もっとやれ!」と思っていただけましたら、【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で理性を補充(?)していただけると嬉しいです!




