※本音:娘が可愛すぎて気絶しそう(ただし顔は般若)
卒業パーティーという名の戦場を後にし、私はカイル様に送られて公爵家の屋敷へと帰還した。深夜にもかかわらず、公爵家の重厚な門扉は開かれ、使用人たちが一列に並んで私を待っていた。
その中心で、腕を組んで立っているのは、我が父アストレイド公爵。鉄血公爵と呼ばれ、軍務大臣も務める彼は、冷徹なまでの厳格さで知られている。
「……リリアーヌ。王太子との婚約を破棄されたと聞いた」
父の地を這うような低い声が響く。周囲の使用人たちが、処罰を恐れて震えながら息を呑む。……ように見えたが、実は違う。
父が私の一歩前まで歩み寄った瞬間、その頭上に、爆発するかのような勢いで黄金の巨大な板が叩きつけられた。
【※本音:よかった……! あんなATM野郎に大切な娘を嫁がさずに済んで、本当によかった! 今すぐ抱きしめて「お帰り」と言いたいが、厳格な父としての威厳を保つために必死で我慢している。ああ、リリアーヌ、世界で一番可愛い私の娘よ、父が一生養ってあげよう!】
(……お父様、心の声がうるさすぎますわ。あと、威厳が瀕死です)
この精霊様の『※注釈』は、この世界の住人なら誰でも見ることができる。ただし、自分の頭上のものだけは決して見ることができないという、なんとも残酷で公平な「真実の開示」なのだ。
現に、後ろに控えている使用人たちは、お父様の【※本音】を読んで必死に笑いを堪え、肩を小刻みに震わせている。
「お久しぶりです、アストレイド公爵」
私の隣で、カイル様が優雅に一礼する。父はカイル様を鋭い眼光で睨みつけた。
「カイル王子。……娘を送り届けていただいたことには感謝する。だが、夜更けだ。そろそろお引き取り願おうか。我が家のリリアーヌをこれ以上、外気に晒したくない」
【※補足:カイル王子がリリアーヌを狙っていることに気づき、全力で『悪い虫』を排除しようとしています。現在、父の脳内ではカイル王子への宣戦布告準備が完了しました。なお、先ほどから娘の顔が見たくて仕方がありません】
父の指先が、私を抱きしめたくてプルプルと震えている。しかし、カイル様も引くような方ではない。
「ええ、そのつもりです。……ただ、リリアーヌ。先ほど(パーティー会場)の返事、忘れないでほしい」
カイル様は、父の目の前で私の手を取り、再びあの熱烈な視線を向けてきた。彼の頭上には――。
【※独白:公爵の殺気が心地いい。彼女を奪い合うライバルとしては申し分ないな。さて、明日はどんな口実で彼女に会いに来ようか。バラの花束か、それとも最新の校閲用万年筆か?】
(……カイル様まで、なんて好戦的な。それに校閲用万年筆は、ちょっと欲しいですわね)
「それでは、また明日」
カイル様が去った後、玄関ホールには父と私、そして動揺(という名の笑い)を隠せない使用人たちが残された。父は、まだ般若のような顔でカイル様の去った方向を睨んでいたが、私と目が合った瞬間――。
【※本音:今の男の目を見たか!? あれは完全に『獲物を狙う獣』の目だ! リリアーヌ、頼むから父さんを置いて嫁に行かないでくれぇぇ!!】
(……お父様、顔と中身の整合性が全くとれておりませんわよ?)
私は、心の中で「要修正」の赤ペンを振るいながら、久しぶりの我が家の温かさに少しだけ頬を緩めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
鉄血公爵(笑)な、お父様の登場でした。本人は必死に般若の面を被っているつもりですが、精霊様の注釈の前では完全に丸裸。使用人たちの「肩の震え」が、現場の過酷(?)さを物語っていますね……。
そしてカイル王子。お義父様からの殺気を「心地いい」で片付けるあたり、やはり一筋縄ではいかない男です。
娘を愛しすぎる父 vs 娘を狙う執着王子。二人のバチバチに挟まれるリリアーヌですが、彼女の関心は「校閲用万年筆」に……。
次回、アストレイド公爵家の朝。さらなる「注釈」の嵐がリリアーヌを襲います! よろしければ、ブクマや★で応援いただけると嬉しいです!




