※時間短縮:千の軍勢を相手にするほど、私の恋心(スケジュール)は暇ではありませんの
結界を消し去り、視界が開けた先に広がるのはどこまでも続く平原。……そして、そこを埋め尽くすように展開していたのは、ドロスト国が誇る重装騎士団だった。彼らは、たった一人で歩いてくる私を見て、一斉に武器を構える。
「馬鹿な、絶対結界が消えただと!? だが、この平原に身を隠す場所はないぞ! 塵にしてくれる!」
地響きを立てて迫りくる千の鉄塊。だが、私にとっては、広大な白紙(草原)の上に並んだ「無駄に長いだけの冗長な文章」にしか見えなかった。
(……まあ。広大なスペースがあるからといって、同じ内容のモブキャラクターをこれほど羅列して……。典型的な『ページ数の水増し』ですわね。読み手の飽きを誘うだけの愚策ですわ)
私は足を止めることすらなく、愛用の万年筆を軽く回した。
『主よ。……あのような雑多なノイズ、一掃なさいますか?』
「ええ。ですが、あの方たちを相手に『戦闘』というチャプターを割くのは、時間の無駄ですわ。一括で『注釈』へ追いやってしまいましょう」
私は空中に、大きく「※」の記号を描き、その横に一筆書き加えた。
「――【※範囲指定:軍勢のレイヤーを『背景』に移動。干渉権限を消失】」
直後、千の軍勢に「奇跡」が起きた。突撃してきた騎士たちの輪郭が、風景に溶け込むように薄くなり……次の瞬間、彼らは「そこに描かれているだけの絵」のように、物理的な実体と干渉力を失ったのだ。
「な、なんだ!? 剣が……敵を通り抜ける!? というより、俺たちの声が届いていないのか!?」
足音も、怒号も、武器の重みも。すべては草原という背景の一部(注釈)として処理され、私の歩みを止めることは叶わない。
「……よし。これで、スッキリしましたわ」
『……単なる「背景設定」に格下げしてしまわれるとは。もはや誰も、貴女に触れることすら許されませんね』
私は、背景と化した騎士たちの間を、散歩でもするように優雅に通り抜ける。そこにあるのはただの風と、静かな草原だけだ。
「さて、ボリス王子。あなたの書いた三流プロット――その『第一章』、そろそろ添削の準備はよろしくて?」
視線の遥か先にある王宮。だが、そこから放たれた不穏な魔力の揺らぎを、私の校閲眼は見逃さなかった。……おかしい。ボリス王子の稚拙な構成力では、これほど深く、どろりとした「伏線(魔力)」は引けないはず。
(……もしや、この物語の裏に、別の『執筆者』が隠れていますの……?)
救出を待つカイル様の顔を思い浮かべると、わずかに高鳴る鼓動。……それを「スケジュールへの焦り」だと自分に言い聞かせ、私は静かに、だが確実な一歩を踏み出した。
一気に王宮を落とすのは簡単。ですが、この不自然な「誤字(悪意)」の根源を突き止めない限り、この物語に真のハッピーエンドは訪れない。
「……いいでしょう。この三流プロット、徹底的に叩き直して差し上げますわ。……そもそもこの物語、私の『校閲』なしに一歩も先へは進めませんことよ」
ご一読いただきありがとうございました!
軍勢を前にしても、リリアーヌ様にとっては「ページ数の水増し」に過ぎませんでした。「戦闘」というチャプターそのものをスキップして、背景(注釈)に追いやってしまう。元校閲ガールらしい、最も効率的な解決策だったのではないでしょうか。
ですが、王宮から漂う不穏な「伏線」。どうやらボリス王子の筋書きの裏に、もっと厄介な「執筆者」の影があるようです。
リリアーヌのペンが、どこまで深く世界の闇を添削していくのか。ぜひ、これからも「ゆっくり」とお付き合いいただければ幸いです。




