※補足:完璧すぎる初稿(愛)に、赤ペンを入れる場所はありません。
「……誤字も脱字もない、完璧なプロポーズだ」
思わず口から漏れた感想に、カイル様がふっと口角を上げた。漆黒の髪に縁取られたその美貌が、見たこともないほど柔らかく綻ぶ。
「それは光栄だ。君に認められるために、十年かけて推敲してきた甲斐があった」
カイル様は私の指先に、熱い、それでいて壊れ物を扱うような繊細な口付けを落とした。ホールの中心、あんなに騒がしかった周囲の音が遠のいていく。
「……っ」
扇子で顔を隠しても、熱くなった頬は隠しきれない。なぜなら、彼の頭上に浮かぶ【※本心】の文字が、さらに激しくチカチカと目に痛いほどの光を放ち始めたからだ。
(待って、追記が……追記の熱量がすごすぎる!)
嘘を暴く精霊様の『※注釈』は、その者の感情が昂るほどに詳しく、生々しく更新される。今やカイル様の頭上では、黄金の文字がまるで滝のように新しい【本音】を溢れ出させていた。
【※追記:本当は今すぐ抱き上げて連れ去りたい。君のその赤い頬も、潤んだ瞳も、他の誰の目にも触れさせたくない。独占欲で理性が焼き切れそうだ。一秒でも長く触れていたい。いっそこのまま、私邸へ――】
(文字が、文字が止まらない……! 怖いくらいの執着だわ!)
つまり、目の前のクールな第二王子は、内面では私へのドロドロに甘い『愛』が溢れすぎていて、今にも理性の堤防が決壊しそうになっている。
「カイル様、その……頭上の表示が大変なことになっていますわ。事実だとしても、少しは隠してくださらないと、私の校閲が追いつきません」
「無理を言わないでくれ。精霊様は嘘を許さないのだろう? ならば、私は一生、君への愛を全力で表示し続けるしかない」
カイル様は私の腰を引き寄せ、逃がさないように強く抱きとめた。その時。
「ま、待て……! 待ってくれ、リリアーヌ!」
無様に地べたを這いずっていたアルフレッドが、もじもじと震える手で私のドレスの裾をつかもうとしてきた。先ほどまでの傲慢さはどこへやら、捨てられた子犬のように顔を歪め、縋るような視線を向けてくる。
「婚約破棄は……その、今のなしだ! 私が悪かった! ミレーヌにたぶらかされていたんだ、君さえ戻ってきてくれれば、私はまた……!」
彼の頭上に、バサッ、と新しい板が突き刺さるように出現した。
【※訂正:反省の色は0.1%です。一人になった途端、明日からの膨大な書類仕事をこなせる人間が自分以外にいないことに気づき、恐怖しているだけです】
私は、冷めた目でその文字を見つめた。
「アルフレッド様。……いえ、継承権を失った今、そう呼ぶのもおこがましいかしら」
私はカイル様に抱き寄せられたまま、足元に縋る「かつての婚約者」を、まるでインクの染みを見るような目で見下ろした。
「その『原稿(言い訳)』、あまりにも構成が稚拙すぎて、修正する価値もございませんわ。私をただの便利な添削役だと思っていた代償は、これからじっくり、その身で支払っていただきます」
ご一読いただき、ありがとうございます!
クールな第二王子・カイル様……。 無表情な顔とは裏腹に、頭上の【※注釈】が大変なことになっていましたね(笑)。 まさに「理性の堤防が決壊寸前」な彼の本音に、校閲者のリリアーヌもタジタジです。
ちなみにカイル様、実は十年前からずっと「推敲」を重ねていたようで……彼の愛の重さは本物のようです。
次回は10分後の【07時30分】に更新します! 往き生際の悪い元婚約者という「致命的な誤植」を、リリアーヌが跡形もなくデリートいたします。 スカッとしたい方は、ぜひお見逃しなく!




