※校閲:『全自動洗濯機』という名の、全自動詐欺について
王宮での「大掃除」を終えた私は、久しぶりの休日をカイル様と共に城下町で過ごしていた。カイル様は今日も今日とて、私と腕を組める幸せを全身から黄金の文字で放射している。
【※本音:リリアーヌの服が薄手になった気がする。……日差しよ、私に代わって彼女を温めようなどという不敬は許さない。その役目は私(夫候補)のものだ】
(……太陽相手に嫉妬を綴るのはおやめくださいな。目が疲れますわ)
そんな私たちが足を止めたのは、広場に人だかりを作っていた「魔法道具商」の前だった。
「さあさあ、奥様方! これぞ最新魔法技術の結晶、『全自動・汚れ落としの壺』だ! これに服を入れれば、あら不思議。どんな汚れも真っ白に。家事から解放される、まさに夢の道具です!」
商人が掲げたのは、一見ただの古ぼけた壺。しかし、私の瞳には、その「商品説明文」に潜む醜悪な誤字が見えていた。
【※注釈:商品説明(表向き)】
全自動で汚れを落とす、家事の救世主。
【※校閲結果:事実誤認(捏造)】
内側に『透明化の魔法』が塗布されているだけです。服は綺麗になるのではなく、『汚れもろとも透明になり、持ち主には見えなくなっている』だけ。三日後に魔法が切れた頃、商人は隣町に逃げている計算です。
「……あら。あまりに古典的な誤植ですわね」
私は、カイル様が止める間もなく一歩前に出た。商人が「さあ、この婦人もお買い上げだ!」と、下品なニヤけ顔を晒す。
「奥様、お目が高い! この壺であなたのドレスを洗えば、あまりの輝きに誰もが目を奪われるでしょう!」
「ええ、文字通り『見えなくなる』のでしょう? 着ているものが消えてしまえば、確かに周りは目を剥くことになりますわね。……露出狂として、憲兵に捕まるついでに」
広場が凍りついた。商人は顔を引きつらせ、「な、何をデタラメを!」と喚き散らす。
「証拠はあるのか!? この『全自動・汚れ落としの壺』は、我が商会の最高傑作……!」
「あら、商品名から『不備』だらけですわよ。……赤ペン(添削)を入れさせていただきますわ」
私は指先で黄金の万年筆を弄び、空中に浮かぶ壺の「設定」を軽やかになぞった。
【※構成変更】
商品名を『全自動・自白の壺』に書き換え。 透明化の効果を対象(衣類)から、使用者(商人)の『本音』に置換します。
「な、なんだ、急に壺が光りだして――」
商人が驚いた瞬間、彼の頭上に、壺の中から噴き出したような巨大な文字が表示された。
【※本音:本当はただの粗大ゴミだ! みんなが裸同然になっても知ったことか! この金で酒と女に溺れたい! ヒャッハー!】
……しん、と広場が静まり返る。商人は自分の頭上の文字を読めないので、「え? みんな、どうしたんだ?」と首を傾げている。
「カイル様。……こちらの方の回収、お願いできますかしら?」
「ああ。リリアーヌの休日を汚した罪、万死に値するな」
カイル様が指を鳴らすと、待機していた護衛たちが一瞬で商人を組み伏せた。広場には、騙されそうになった主婦たちの拍手が湧き起こる。
「……ふう。契約書だけでなく、商品名まで嘘だらけ。今の世の中、校閲すべきものが多すぎて困りますわ」
私が溜息をつくと、カイル様が背後からそっと肩を抱き寄せた。
【※本音:リリアーヌ。君が正義のペンを振るう姿は女神のように美しい。……だが、君に見惚れている周囲の男どもの視線だけは、今すぐ私が一括削除して回りたい】
「……カイル様。独占欲の校閲だけは、さすがの私にも手に負えませんわ」
私は苦笑しながら、彼に引かれるままティーサロンへと向かった。平和な街角にも、まだまだ「悪文」の種は尽きそうにない。
第4章スタートです!
王宮の大事件の後ですが、リリアーヌ様は今日も元気に「ペンは剣より強し」を地で行っています。詐欺師の自白という、校閲ガールならではの「ざまぁ」をお楽しみいただけたでしょうか。
カイル様の愛は、リリアーヌ様のペンでも修正不可能な「バグ」として定着しつつありますね。次回は、カイル様たっての希望(という名の暴走)によるデート回をお届けします!




