※脱稿:王宮の悪文(陰謀)はすべて、シュレッダー行きですわ
レオナール様が惨めに敗走した後、テラスには心地よい静寂――そして、それを上書きするようなカイル様の凄まじい「愛の圧力」が満ちていた。
「リリアーヌ、怪我はないか? あんな『下書き』に触れられて、指先が汚れていないか? 今すぐ聖水で清めて……」
「カイル様、落ち着いてくださいませ。……清める前に、まだ少し『お掃除』が残っておりますの」
私は焦れるカイル様をハーブティーで宥め、テーブルに白紙の報告書を広げた。万年筆を軽く振ると、黄金のインクが空中に魔法陣のような、あるいは複雑な校正記号のような軌跡を描き出す。
(さあ、この国を蝕んでいた『教皇派という名の悪文』の出番ですわ)
私の瞳には、教皇庁の奥底に隠された「汚れたプロット」が透けて見えていた。
【※事実確認:教皇派の資金源】
その大半が『公金横領』および『聖遺物の横流し』によるものです。
【※構成変更】
彼らが掲げる『聖なる予言』を『卑劣な捏造』へ置換。関連するすべての公文書から『正当性』を削除し、『反逆の証拠』として再定義します。
万年筆を一振りするたびに、教皇庁で、絶望に満ちた悲鳴が上がるのが聞こえるようだった。物理的な暴力など必要ない。存在の根拠――すなわち「設定」そのものを書き換えれば、彼らには消滅以外の道は残されていないのだから。
「……終わりましたわ。これで『悪文』はすべて、シュレッダー行きです」
「一瞬だったな。君がペンを動かすたびに、奴らが数十年かけて積み上げた砂の城が崩れていく」
カイル様は感心したように、それでいて酷く独占欲の滲む瞳で私を見つめた。
「明日になれば、教皇派が一人残らず騎士団に連行されたという報が届くでしょう。ですが、既に「推敲」を終えた物語の結末など、私にとってはどうでもいいことですわ」
「さて、リリアーヌ。仕事は終わりだ。……次は、私の番だな?」
カイル様が私の指から、そっと、だが拒絶を許さない力で万年筆を取り上げた。空いた私の手を、彼は自分の胸元――高鳴る鼓動が伝わる場所へと導く。
視界が、黄金の光に埋め尽くされた。
【※カイルの本音:ようやく二人きりだ。もう校閲も仕事もさせない。明日の朝まで、私の愛だけを全身で『受理』てもらおう。一文字も、一滴の愛も、漏らさず君に刻み込むために――】
「……カイル様。その本音、文字数が多すぎて目がチカチカいたしますわ」
「ならば目をつぶっていればいい。……続きは、耳元でたっぷりと綴ってやる」
熱い吐息が耳に触れ、私は観念して目を閉じた。カイル様から溢れるこの情熱だけは、私の万年筆でも、どんな校正記号でも、一生書き換える(おさえる)ことはできそうにない。
――第3章【三校】:王宮の悪文、すべて廃棄完了。続きの頁は、校閲の必要がないほど、甘く、熱い物語になりそうですわ。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
筆一本で国を掃除してしまうリリアーヌ様ですが、やはり隣にいる「重すぎる愛」の持ち主だけは、赤ペンを入れる隙がないようです。
次回からは第4章に突入します。リリアーヌ様の次なる添削対象は誰になるのか……。 続きも楽しみにしていただけると嬉しいです!




