※校閲:聖騎士の『誓い』、その裏面に滲むドス黒い殺意
カイル様が席を外した、わずか数分間の空白。背後からドス黒い「重いインク」をぶちまけたような澱んだ気配が迫った。
「……随分と余裕だな、リリアーヌ・ヴァン・アストレイド」
白銀の甲冑を纏った騎士――教皇の隠し子、レオナールが剣を抜き放つ。その切っ先が私の喉元を狙うが、私は手元にあるハーブティーの温度を確かめることすら止めなかった。
「そのペン一本で、俺のすべてを奪った報いだ。……死ね、アストレイドの才女」
鋭い殺気。だが、私に見えるのは彼の剣よりも、その頭上で嵐のように荒れ狂う『漆黒の注釈』だ。
【※警告:システムログ】 対象は『復讐者』を演じることで空虚さを埋めようとしています。 文体は支離滅裂。本音は『誰かに自分を見つけてほしい』という、未修正の悲鳴です。
(……あら。なんて読みづらい文章(人生)なのかしら。誤字だらけで見るに堪えませんわ)
私は、命乞いをする代わりに、愛用の万年筆を優雅に抜き放った。視線すら上げず、万年筆の先で突きつけられた剣の腹を「ペン」と軽く叩く。
「レオナール様。その殺意、少々この場のレイアウトに合いませんわ。何より――動詞の使い方が、あまりに貧相ですこと」
「何を……っ!?」
「『属性置換』」
万年筆の先から黄金のインクが溢れ出し、レオナールの剣と、彼を包む負のオーラを強引に呑み込んでいく。
「がっ……あ、あああああ!? 頭の中に、知らない言葉が書き込まれて……!」
レオナールは頭を抱え、その場に膝をついた。誇り高き騎士の意識が、私の黄金インクによって強制的に「校閲」されていく。
【※校閲完了】
『殺意』を『執着』へ置換。
『絶望』を削除し、『リリアーヌに対する支配欲』をインサート。
結論:対象の人生目的を『復讐』から『リリアーヌへの隷属的な渇望』へ再構成しました。
光が収まった時、剣を握るレオナールの手は、まるで壊れた人形のようにカタカタと震えていた。瞳から憎悪が消え、代わりに熱病のような、ドロリとした「情熱」が溢れ出す。
「……何をした。お前を殺したいという衝動が、なぜ、これほどまでに『お前を屈服させたい』という汚らわしい感情に変わっているんだ……!」
「少しだけ表現をマイルドに、かつ『私好み』に直して差し上げただけですわ。……殺すだなんて野蛮な動詞、私の物語には不要ですもの」
私は微笑み、喉元の剣先をペン先でコンコンと横へ退けた。そこへ、激しい怒気を孕んだカイル様が駆け戻ってくる。
「――その汚らわしい手で、リリアーヌに触れるな!」
カイル様の頭上には、過去最大級の黄金文字が躍っていた。
【※カイルの本音:万死に値する。リリアーヌをそんな熱っぽい瞳で見つめるなど……。今すぐこの男を、歴史の表舞台から『物理的に永久削除』してやる!】
「カイル様、おかえりなさい。レオナール様の人生の『推敲』をしていたところですわ」
カイル様は私の腰を抱き寄せ、冷徹な眼差しで、地面に這いつくばるレオナールを見下した。
「推敲か……。なるほど、ずいぶんと『惨めな下書き』に成り下がったものだな。リリアーヌの手を煩わせる価値すらない」
「カイル……貴様……っ!」
「安心しろ。リリアーヌの『加筆』が入った以上、君に死ぬ自由はない。……一生、彼女への消えぬ渇望に焼かれながら、その無様な続き(人生)を書き綴るがいい」
レオナールは顔を真っ赤に染め、敗北感と、自分の内側から湧き上がる抗いがたい恋慕に喘ぎながら、逃げるように去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、私はカイル様の腕の中で、満足げにハーブティーを啜った。
「カイル様、おかわりをいただけますか? つい、筆を走らせすぎてしまいましたわ」
「ああ。君の物語を汚す不備は、すべて私が排除しよう」
閲覧ありがとうございます!
今回、リリアーヌ様も大概でしたが、カイル様の本音ログも過去最大級に荒ぶっておりました。「物理的に永久削除」というパワーワード。彼の愛が重すぎて、もはやリリアーヌ様の黄金インクでも書き換えきれないのではないかという疑惑が浮上しています。
敵をボロ雑巾のように追い払った後の、二人の優雅なティータイムがお気に入りです。 面白いと思っていただけたら、評価やブクマで応援いただけると筆が進みます!




