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※休憩:激務の後の「甘い言葉」は、校閲の必要がありませんわ

 嵐のような予言の書き換えから一夜明け、私はカイル様の離宮にある私的なテラスに招かれていた。柔らかな陽光と、咲き誇る白薔薇はくそうびの香り。昨日の殺伐とした空気が嘘と思えるほどの、穏やかなひとときだった。


「……リリアーヌ。あまり根を詰めないでくれと言っただろう。顔色がまだ『校了直前の編集者』のように青白いぞ」


 そう言って、カイル様が自ら私のカップにハーブティーを注いでくださる。王子自らが給仕するなど本来なら不敬の極みだが、今のカイル様には何を言っても無駄だと理解していた。彼の頭上には、昨日からずっと、巨大な黄金の文字が踊っているのだから。


【※本音:ああ、可愛い。昨日のりり々しい姿も最高だったが、こうして私の前で少し眠そうにしている姿は、もはや国宝に指定して保護(監禁)したいレベルだ。一生このテラスから出さずに、甘い菓子だけを与えていつくしみたい】


(……精霊様。この『本音』、少し彩度が高すぎて目がチカチカいたしますわ。なんとかなりませんこと?)


【※回答:リリアーヌ様、残念ながらカイル様の愛着情動はシステムの上限値を突破しており、フィルタリング不可能です。諦めて『被・溺愛できあい』というステータスを受け入れてください】


「リリアーヌ。これを」


 カイル様が、銀のトレイに乗った小さなカードを差し出してきた。そこには、彼直筆の流麗な文字でこう記されている。


『私の魂の校閲者へ。君の存在そのものが、私の人生という物語における唯一の正解であり、最大の奇跡だ。愛している、私のいとしき賢者』


 ……。私はスッと、胸元から万年筆を取り出した。


「なっ……リリアーヌ? 愛の告白に対して、なぜ武器ペンを抜くんだい?」


「……カイル様。この文章、形容詞が過剰ですわ。それに『唯一の正解』という表現も、文脈によっては独善的に響きます。もっと簡潔に『お茶が美味しいですね』くらいでよろしいのでは……っ」


 必死で赤ペンを入れようとするが、指先が大きく震える。冷静に添削しようとしても、彼の熱い視線と、頭上の「愛している」という直球すぎる本音が、私の『冷静さ』という名の装丁をバラバラに解体していく。


「ふっ、耳まで真っ赤だよ。……校閲不能なほど動揺している君も、たまらなく愛おしい」


 カイル様が私の手から万年筆を優しく奪い、その指先に口づけた。――その時。


「あら、リリアーヌさん。予言の一件で浮かれているようですけれど、そんなあなたに相応しいお花を持ってきてあげましたわ!」


 テラスの入り口で、派手な扇の音と共に王妃イザベラが現れた。侍女たちに、どす黒い紫色の、見るからにまがまが々しい花を運ばせている。


「その花の名は『死の抱擁ほうよう』。花言葉は『不信と破滅』。予言の賢者だなんて、いつまでその化けの皮が保つかしらね!」


 王妃の頭上には【※本音:これでお前の運気も気分も台無しよ! 聖なるテラスを呪いの色で染めてやるわ!】という浅ましい文字。私はため息をつき、手元の万年筆を軽く振った。


「王妃陛下。その花、『色味が沈みすぎて』いて、このテラスのレイアウトには不向きですわ。……『一括置換ワールド・オーバーライト』させていただきます」


 万年筆から黄金の粒子が降り注ぐと、黒い花びらはみるみるうちに鮮やかな白とピンクに染まり、可憐な白百合へと変化した。


「なっ……何をしたの!?」


「陛下が持ってきたのは『破滅』でしたが、私が『祝福』にリライトさせていただきました。おかげで、この場に相応しい華やかさになりましたわ。素敵なプレゼントを、ありがとうございます」


【※校正完了:呪いの花を、カイル様の愛にふさわしい『祝福の花』へ変更しました。王妃様の浅ましい企みは、リリアーヌ様のセンスによって『素敵な差し入れ』として処理されました】


「そんな……! 私の嫌がらせが、ただの『プレゼント』に……っ!!」


 王妃は地団駄じだんだを踏み、自分のドレスのすそを踏んで盛大に転倒した。侍女たちに抱えられ、「覚えてらっしゃい!」と無様に去っていく。


(ふふ。世界を正しく書き換えると、不具合(悪意)も随分と滑稽こっけいに見えるものですわね)


 私は少しだけ口角を上げ、再びカイル様に向き直った。しかし、私の視線は、遠くの城壁の上に立つ『一人の男』に釘付けになった。


 白銀の甲冑かっちゅうまとっているが、その空気はドス黒く濁っている。彼の頭上には、カイル様の黄金とは対照的な、漆黒しっこくの注釈が浮かんでいた。


【※警告:対象名レオナール。現教皇の隠し子。父の失脚を招いたリリアーヌに対し、修正不能な『殺意』を抱いています。……現在の思考プロット:『その万年筆を握る指ごと、彼女の存在を歴史から抹消する』】


 ――ゾクリ、と背筋に冷たいものが走る。平穏なページに、再び、真っ黒なインクのシミが広がろうとしていた。


「リリアーヌ? どうしたんだ、急に黙り込んで」


 カイル様が心配そうにのぞき込んでくる。私は微笑み、彼の手に自分の手を重ねた。


「いいえ。……少し、次の仕事(校閲)の準備をしなければ、と思っただけですわ」

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 今回は、激闘の後の「ご褒美回」……のはずが、カイル様の愛が重すぎてリリアーヌ様がキャパオーバー。さらには王妃様の「嫌がらせ」すらも素敵なプレゼントに書き換えてしまうという、リリアーヌ様らしい余裕(?)が見えた回でした。


 しかし、ラストに現れた教皇の隠し子、レオナール。「物理的に消す」という物騒すぎるプロットを抱えた彼が、リリアーヌの万年筆にどう挑んでくるのか……。


 「カイル様のデレが最高!」「王妃様の自爆に笑ったw」「レオナールの殺意、ヤバそう……!」など、感想や【ブックマーク】、評価(★★★★★)をいただけますと、リリアーヌ様の万年筆が更なる神速で走り、不穏な影すらも鮮やかに校閲されることでしょう!


 次回、第014話。「※校閲:聖騎士の『誓い』、その裏面に滲むドス黒い殺意」  

 リリアーヌ様の身に、危機が迫る!? お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
あのポエム君にしてこの自滅イノシシ親あり♪……よくこの空間に突撃出来ました。イノシシですね~(笑)今度は「黒いバラ」でも持って来るの? 精霊様でも無理ですか。諦めて受け入れましょう。慣れれば耐えられ…
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