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※校閲:その『予言』、前提条件から文字化けしておりますわ

 王妃イザベラが椅子に崩れ落ちた、その静寂を切り裂くように、回廊の奥から重厚な靴音くつおとが響いた。


「そこまでだ、不浄なる娘よ!」


 現れたのは、白金に縁取られた法衣をまとう、聖教会の教皇マクシミリアンだった。その後ろには、抜き身の剣を構えた神殿騎士たちが控えている。王妃の息がかかった、この国で最も「権威けんい」という名の分厚い装丁を施された老人。彼は震える王妃を背に隠し、私を真っ向から指差した。


「王妃陛下を惑わし、王宮の秩序をリライトしようとする不届き者め。建国予言の書『レギウム・サクラ』に記された通りだ。……近いうちに、言葉を操り、真実を濁らせる『青白き魔女』が現れ、国を滅ぼすとな!」


 周囲の貴婦人たちが、教皇の言葉にハッと息を呑む。この国において予言は絶対だ。予言に「魔女」と記されれば、公爵令嬢という肩書きすら紙クズ同然になる。


 だが、私の視界は違っていた。教皇が掲げた羊皮紙の書――その頭上には、目に痛いほどの【※警告:致命的な文字化け、およびパッチ当てによる整合性の崩壊】という文字が、まがまが々しくのたうっていた。


「……教皇様。その予言、少し『校正』させていただいてもよろしいかしら?」


「何……っ!?」


 私は、カイル様が引き止めるよりも早く一歩前へ出た。包囲する騎士たちの剣先が喉元のどもとに迫るが、カイル様の冷徹な声がそれを制する。


「その娘に触れてみろ。貴様らの首を一文字残らず『削除デリート』してやる。……行け、リリアーヌ。君の赤ペンで、その古臭い嘘を切り裂いてこい」


 カイル様の全幅の信頼を背に受け、私は教皇の手元にある予言の書を指差した。


「三行目の『魔女ウィッチ』という単語。フォントのウェイトが周囲と一致しておりませんわ。不自然な太字ボールド加工。……これ、元の文字を消した上から、無理やり太いインクで上書きリライトなさいましたね?」


「何を、出鱈目でたらめを……!」


「いいえ。その下には全く別の語彙ごいが眠っていますわ。……【※注釈:現教皇マクシミリアンは、隠し子を聖騎士に据えるという「人事不正」を闇にほうむるため、都合の悪い予言を『不正を暴く賢者』から『国を滅ぼす魔女』へと改ざんしました】」


 会場に、今日一番の動揺が走る。教皇の顔が、一瞬で土色に変わった。


「あら、フォントをいじれば隠せると思いましたの? 貴方の犯した『公私混同』という名の誤字は、インクの裏側にしっかりとにじみ出ておりますわよ」


「なっ……なぜ、それを……っ!」


 私は容赦ようしゃなく、愛用の万年筆を抜いた。キャップを外した瞬間、黄金の精霊力が穂先に集い、まばゆい光を放つ。


「そんな無作法な嘘、私の原稿には必要ありませんわ。……『一括置換ワールド・オーバーライト』させていただきます」


 私が空中に万年筆を一閃させると、教皇の持つ予言の書から、黒いインクがボロボロとがれ落ちた。代わりに浮き上がったのは、黄金の輝きを放つ、真実の文字。


『……偽りの時代が極まるとき、清らかな万年筆を持つ「賢者」が現れる。その者は言葉を正し、孤独を抱える王に寄り添い、国を真の繁栄へと導く愛の花となるだろう』


「な、なんだと……!? 予言が、書き換わった……!?」


 教皇が腰を抜かし、神殿騎士たちがその場に平伏する。それは、この世界がずっとリリアーヌの出現を待ち望んでいたという「公式の証明」だった。


「リリアーヌ……」


 カイル様が、震える私の肩を後ろから強く、温かく抱き寄せた。彼の頭上には、今まで見たこともないほど深く、甘い文字が浮かんでいる。


【※本音:愛している。世界が君を拒もうとも、予言が君を否定しようとも、私が君を正解だと言い続けるつもりだった。だが……ようやく、世界が君の価値に追いついたようだな】


「……カイル様」


「教皇。私のリリアーヌを魔女と呼んだその舌、今すぐ『検閲削除』されたいか? それとも、自分の不備――隠し子の件を含めたすべてを認めて、その汚れた教典を一から書き直すか?」


 カイル様の冷徹な瞳が教皇を射抜く。教皇はもはや言葉を失い、ただただ地面に額を擦り付けるしかなかった。


 私は、カイル様の腕の中で、万年筆を静かに収めた。かつて私を「婚約破棄」という名の誤字で切り捨てようとした世界は、今、私のペン先一つで書き換えられようとしている。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 リリアーヌ様、ついに「国家の予言」という名の特大原稿をリライトしてしまいました。教皇が隠したがっていた「現役バリバリの隠し子スキャンダル」を、フォントの太さで見抜くという力技……。これには神殿騎士たちもひれ伏すしかありませんでしたね。


 そして、カイル王子の言葉。


「世界が君の価値に追いついた」


 この一言に、リリアーヌの今までの苦労がすべて報われた気がして、書きながら少し目頭が熱くなりました。ようやく「公式」に彼女の凄さが認められた瞬間です!


 さて、国家レベルの校閲を終えたリリアーヌを待っていたのは……カイル王子からの、これまた「重すぎる」ご褒美(?)でした。さらに、あの往生際が悪い王妃様も、何かを企んでいるようで……?


 「リリアーヌ様の一括置換、スカッとした!」「カイル王子の独占欲がたまらないw」など、感想や【ブックマーク】、評価(★★★★★)をいただけますと、リリアーヌの万年筆にさらなる「真実のインク」が補充され、更新速度がアップします!


 次回、第013話。「※休憩:激務の後の『甘い言葉』は、校閲の必要がありませんわ」  カイル様の糖度が『校閲不能』なレベルで爆上がり!? お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
なんと?!パイプ椅子どころかハリセンにすらならないなんて(・・;) 公私混同の老害さんが大手を振って登場しましたが、瞬殺でした。悠々自適の老後の生活が無くなってしまいましたね♪これからは清貧生活で一…
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