『先駆ける王たち』――国境を「校閲」する、かつての伝説
時は遡る。
神聖ヴォルガ帝国、国境。
空に浮かんでいるのは、『聖域』で解放された「行き場のない物語」だ。
「……くっ、キリがないわね! このままじゃリリアーヌに追いつかれてしまうわ」
エレオノーラ・アストレイドは、髪を乱しながら、手にした杖を振るった。
魔法を放つたび、迫りくる「文字の波」が凍りつき、砕け散る。
けれど、物語のページがめくられ、新しい文字が彼女を包囲していく。
「あの子が来る頃には、優雅にティータイムをしていたいのに」
ニヤリと笑い、震える指で魔力を練り直した、その時だった。
「――おっと。肩肘張ってちゃ、物語のインクに飲み込まれちまうぜ?」
聞き覚えのない声が響いた。
突然「ドア」が現れて、一人の男が躍り出る。
「あんたがリチャードの言ってた、『最高にプライドの高いお母様』か?」
――冒険王チャーリーが、不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。
「……なっ、誰よ、貴方たちは! 私はアストレイドの――」
「公爵家だろうが王家だろうが、今は関係ねぇよ」
「ドア」から、次々とただならぬ気配の者たちが姿を現す。
「俺が最短ルートを見つけてある。……安心しな、リリアーヌのお母さん」
閉鎖空間に、一瞬で逃げ道を作る男。脱出王オスカー。
「おやおや、この物語はひどい文章だ。少し『まやかし』を入れて、読みやすくしてあげよう」
不吉な文字を、幻術で消し去っていく美女。幻術王ミストラル。
「魔力の流れが激しいな。……エレオノーラ殿の杖に、私の力を上書きさせてもらおう」
エレオノーラの結界を強引に強め、魔力を安定させる女。魔導王ゼノス。
「ならば、『最高の結果』を出し続けるよう、固定してあげよう」
存在するだけで、絶望的な状況を「勝利」へ変える少女。覇運王ベルナ。
呆然とするエレオノーラをよそに、慣れた手つきで「文字の氾濫」を片付け始める。
「……リチャードの仲間ね。人脈が広すぎるわ……」
エレオノーラは口角をわずかに上げた。
一人で背負う必要はない。
「いいわ。せいぜい私の足だけは引っ張らないでちょうだい」
「言ってくれるぜ。……行くぞ! リリアーヌお嬢様が来る前に、国境をピカピカに『校閲』してやろうじゃねぇか!」
かつての「王」たちが、母の背中を守るために、物語の奔流へと突き進む。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は時を遡って、エレオノーラ視点のお話でした。
リリアーヌが来る前に、ティータイムの準備を整えておきたいお母様ですが、敵は手ごわい……。
ピンチに現れたのは、かつてリチャードと共にいた「王」の称号を持つ仲間たち!
「最高にプライドの高いお母様」と「一癖も二癖もあるパーティー」。
どんな暴れっぷりを見せるのか、ご期待ください!




