※注釈:王太子殿下は、彼女にとってただの『歩くATM』です
「――リリアーヌ・ヴァン・アストレイド! 貴様との婚約を今この瞬間、破棄する!」
きらびやかな卒業パーティーの夜。シャンデリアの光が大ホールの中心を照らす中、私の婚約者であるアルフレッド王太子が叫んだ。その隣には、か弱い花のように彼に寄り添う男爵令嬢、ミレーヌがいる。
私は手に持っていた扇子をパチンと閉じる。
(……よし、予定通り。校閲開始だ)
前世、私はネットニュースの校閲ガールだった。事実誤認や嘘を訂正するのが仕事だ。この世界が乙女ゲームだと気づいた時から、「契約の精霊」と仲良くなり、ある準備を進めていた。
「破棄の理由は、私がミレーヌ様をいじめたから……でよろしいか?」
「そうだ! 彼女のドレスを切り裂き、階段から突き落とした! この心の清らかな聖女を傷つけた罪は万死に値する!」
その瞬間。ミレーヌの頭上に、ボワッ……と不気味な光の板が浮かび上がった。
「な、なんだこれは!? ミレーヌ、君の頭の上に何か出ているぞ!」
会場がざわつく。ミレーヌ本人が驚いて上を向く中、その板には黄金の文字でこう刻まれていた。
【※注釈:ドレスを切り裂いたのはミレーヌ本人です。新しい衣装をアルフレッド殿下に貢がせるための自作自演であり、階段の件は寝ぼけて足を踏み外しただけです】
「……なっ!?」
ミレーヌの顔が引きつる。アルフレッドは呆然とそれを見つめている。
「アルフレッド殿下。精霊様は嘘がお嫌いです。我がアストレイド公爵家と王家に結ばれた『古代精霊の誓約』では、不実な者の頭上には【真実】が強制表示されることを、お忘れでしたか?」
「そ、そんな馬鹿な! ミレーヌが嘘をつくはずがない! 彼女は私を心から愛していると言ってくれたんだ!」
アルフレッドが叫ぶと同時に、ミレーヌの頭上の文字が、さらに猛烈な勢いで更新される。
【※補足:ミレーヌの脳内履歴 王太子 =『歩くATM(※注:金だけ出す便利な道具)』 第二王子 =『キープ(本命)』 近衛騎士 =『遊び相手』 現在の愛の数値は0.02%です】
「ひっ……!」
ミレーヌが悲鳴を上げて後ずさる。会場からは「ATM? 道具扱いか!」「愛がないことだけは確かね」との失笑が漏れ始めた。
「だ、黙れ! 私は彼女を信じる! 彼女こそが国の光となる聖女なんだ!」
再び、ミレーヌの頭上に文字が躍る。
【※訂正:彼女の聖女パワーは、リリアーヌ公爵令嬢から密かに盗んでいた魔力によるものです。現在、契約違反により魔力は全回収され、彼女はただの『性格の悪い一般人』に格下げされました】
文字が表示された瞬間、ミレーヌの周りのキラキラしたオーラは霧散し、化粧の崩れた、少し意地の悪そうな少女がそこに残された。
「さて、アルフレッド殿下。婚約破棄は受理する」
私は優雅に一礼する。
「ですが、誓約書に基づき、一方的な不当破棄による賠償金を請求する。領地の三割の割譲、および本日までの教育費、贈答品費の全額返還。……あ、今お召しのその宝飾品も、私の実家からの贈り物ですよね? いますぐ返してもらおうか」
「ぐっ……、うわああああ!」
アルフレッドが発狂したように暴れるが、彼の頭上には特大の赤文字が浮かんでいた。
【※結論:この男は、王の器ではない。本日をもって王位継承権は自動消滅した。お疲れ様だ】
その直後、王太子の首にあった「王家の紋章」が砂のように崩れ落ちた。
「お見事だったな、リリアーヌ嬢」
人混みを割って現れたのは、第二王子のカイルだ。彼は私の手を取り、跪く。
「……私の頭上には、どんな注釈が出ているのでしょうか?」
彼の頭上には、他の誰よりも眩い黄金の光を放つ、たった一言。
【※本心:十年前からあなただけを愛している。今すぐ結婚したい】
顔が熱くなるのを感じながら、扇子で口元を隠した。
「……誤字も脱字もない、完璧なプロポーズだ」
ご一読いただき、本当にありがとうございます!
元校閲ガールのリリアーヌが、精霊様の力を借りて世の中の「嘘」をバッサバッサと校閲していく物語です。
カイル様のあまりに重すぎる「※本心」や、リリアーヌの容赦ない校閲など、続きが気になる! と思っていただけましたら、ブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】評価、いいね等で応援いただけると、執筆のとても大きな励みになります!
本日この後、07:20に第2話、07:30に第3話を続けて公開いたします。ぜひ、リリアーヌとカイル様の物語を末永く見守っていただければ幸いです!




