第7話:ザンギと、たらこの子和えと、ピザ風ホットケーキ
今日は嫁がお休み。
雪が積もるまえに、久しぶりのドライブに出た。
若いころから、私と嫁子はデートと言えばドライブだ。
人気の観光地に行くこともある。
人気の施設や飲食店を目的に、泊りで向かうこともあった。
しかし、目的地のはずの施設や店に着いても、お客さんが並んでたりすると、そこに入るわけではないのだ。
私も嫁子も、話題の場所には興味あるし行ってみたい。
しかし、並んでまで入りたいかと言われると、そうでもない。
では、何故にお客さんが並ばないといけないであろう場所に行くのかというと、
「そこまでドライブするって理由にしたいから」
ってのが大きい。
私たちは、ただ車に乗って移動しながら景色を眺め、とりとめのない話をしながらの時間が、とても大好きで大切なのだ。
そんな時間、嫁子は、か〇あげくん食べながらこう言った。
「明日も休みだし、ザンギ思いっきり食べたーい!」と
「ザンギ」
最近は、テレビ番組などでも取り上げられることも多く、ご存じの方も多いと思う。
たまにテレビで「唐揚げの一種」などという人がいるが、私の家のものは断じて唐揚げの一種ではない。
例えば「エビフライ」作ったらそれは「エビの天ぷら」の一種とか言わないだろと。
「ザンギのレシピはこうだ!」とかテレビで言う人間もいるが、うちの周りの人間たちに聞いたって親の出身地や実家からの伝承が違うのに何言ってるんだろうと思っていた。
我が家のレシピは、醬油味で見た目は濃い茶色だ。
衣もまるでフリッターのように付けるのが我が家流のザンギだ。
しかし、我が家のザンギは揉みこまないで漬けるタイプなのだ。
今日は無理じゃないかな、嫁子にそれを伝えると、
「残念ながらドライブは中止、買い物して帰りましょう。」
とても大好きで大切な時間は、食欲に飲み込まれて終わった。
二時間かけて家に戻る途中でスーパーに寄る。
えーと、もも肉は二枚、いや三枚か?あとは生姜とニンニクとあれば大丈夫かなと思ったら思いがけず奴がいた。
真鱈の卵である「たらこ」が山積みに売られている。
北海道では真鱈の子は「真子」、と言うことが多いが、家では真子の煮つけはこんにゃくも入れて「たらこの子和え」という。
それは私の大好物で、三日続いても喜ぶほど大好きなのだ。
「たらこの子和えを作りたいから、たらこ買ってもいい?」
「いいけど、ザンギとは合わなそうだねぇ…」
「いや、今日作って冷蔵庫で味馴染ませておこうかとね。」
「おお、明日の準備とはいい心がけだね、褒めてつかわすぞ!」
と私の車いす押しながらカラカラと笑う嫁子。
私は、嫁子が喜ぶなら料理なんか幾らでもすると思ったのだ。
家につき、早速仕込みを始める。
まずは漬け込みのタレを作っていく。
ボウルに醤油を200㏄、水を50、そこに砂糖を大さじ4、いや5杯で。
ニンニクはお好みだが、今日はお休み前なのでチューブ半分、いや全部(笑)、生姜はその半分、そして化学調味料小さじ1だ。
普通のレシピだと、おそらくここに料理酒やみりんや出汁出ると思うが我が家のレシピでは入れない。
昭和の北海道、私がいた室蘭は製鉄所があるので汗をかく人が多く、薄味や出汁で食べさせるような上品さはなかった。
特に家があった正門前は三交代の人が多く、汗をかいた労働後に求められるのは「しょっぱく、甘く、化学調味料」が正義で、皆食堂の漬物にも化学調味料と醤油かけて食べていた。
なので我が家では今も基本は「しょっぱく、甘く、化学調味料」が大正義なのだ。
さて、もも肉を掃除しフォークで穴をあけハサミでカット。
大きい方がジューシーだが6等分くらいが美味しいと思う。
本来は漬けて一晩置きたいが、今日は揉んでから冷蔵庫へ。
三時間でしみ込んでくれることを祈ろう。
さて、いよいよ大好物の「たらこの子和え」にかかる。
まずはたらこの掃除
血合いや汚れを取る、美味しく食べるために無心で掃除。
綺麗になったたらこをキッチンペーパーで拭く。
次にこんにゃくの用意、使うのは「突きこんにゃく」だ。
これは突きこんにゃく以外は我が家では許されない。
何故かシラタキや普通のこんにゃく切ったのではダメなのだ。
水に入れ沸騰させて下茹でする。3分は茹でる
これを怠ると、こんにゃく臭い子和えになるから大事な工程だ。
さあ煮ていくぞ。
煮汁は水300㏄に醤油大さじ4、砂糖大さじ5、チューブ生姜を5センチ、化学調味料小さじ半分、これを沸騰させる。
煮えたら下茹でした突きこんにゃくと、なん箇所かを切れ目入れた、たらこを入れていく。
あとは弱火~中火の中間で煮るが、家はIHだから140℃でアクを取りながら煮る、
よく煮えて、たらこがバラバラが好きなので20分煮る。
粗熱を取ったら冷蔵庫に入れる。
今日食べたいが、ザンギみたいなニンニク効いたものと食べても合わないので、明日まではおあずけだ。
さて、夕食まで少し時間空いたし、ザンギだけってのもさみしいから副菜作ろうかな。
冷蔵庫みると昨日食べた短冊に茹でたジャガイモ残ってた。
ホットケーキミックスと水を混ぜて塩コショウ
フライパンでバターで焼いておく
あとは食べるときに仕上げだ。
我が家では、夕食は嫁の帰宅時間に合わせて6時ころが多い。
しかし、今日は五時くらいから嫁がソワソワしている。
無駄に冷蔵庫開けては漬けたもも肉の色見たり、こちらを見たり、正直、早くザンギ食べたいアピールがうざい。
「まだ、漬け込みもご飯にも早い気がするけど、食べるかい?」
「うん!あ、ご飯早いからノンアル飲んで晩酌にしよう!」
嫁は、大層な良いことを言ったような顔で頷いてた。
さあ、まずは衣を作る。
小麦粉に片栗粉、それに水と別にしておいた漬け込みタレを少しだけ混ぜて、結構モッタリさせるのが我が家流。
油を温めて160℃程度にし、衣をつけてゆっくり4、5分程度揚げ、余熱で火を通していく。
余熱で火を通してるザンギを待ってる間に副菜の準備。
先ほどのジャガイモホットケーキにピザソースを塗る。
カットサラミにシュレッドチーズたっぷり乗せて焼く。
これでピザ風ジャガイモホットケーキだ。
シンプルだが簡単だし美味いのだから最高。
ザンギを二度揚げする。
もう一度油温めて今度は180℃くらいにしてカリッと揚げる。
これでザンギも出来上がりだ。
食卓にはピザ風ホットケーキに、揚げたてザンギ、そしてノンアルビールが並び、嫁子の準備もばっちりだ。
「カンパーイ!」
嫁子は早速ザンギに齧り付いた。
「美味っしい!やっぱりうちのザンギが美味しい!」
「このピザってジャガイモ?! これもヤバい、ビールがあ」
そんな嫁子見ながら私もザンギを食べる。
家のザンギは、大きさは普通だが色は焦げ気味のオール〇ファッションドーナツのような濃い茶色だ。
衣は唐揚げや竜田揚げのような軽さはなく、薄めのフリッターのような衣だ。
肉はそんな衣の中でじっくり蒸されて柔らかいが、衣自体は二度揚げしたことでカリっと揚がっている。
濃い目の味と香りはビールやご飯とは合わないわけが無いのだ。
わたしはピザ風ホットケーキにも手を伸ばす。
おお、ものすごく思い付きで適当に作ったのに美味い!
元々似た料理あるのは知ってるけど、ジャガイモは太い短冊で行けたし、それでピザ風にしたのが正解だったなあ。
料理の出来に満足していると、嫁子がザンギ持ってこう言った。
「あー、美味しい、あたし幸せだなぁ…、ありがとね!」
それ聞いて、ずっと幸せにしてあげようと思った私です。




