第5話:冬の匂いと手抜きスープカレー
今日は、病院に行く日で久しぶりの外出だ。
街に出て、息を吸い空気を味わう。
周りはすっかり冬の匂いになっていて、間もなく、雪が降る季節なんだということを、私たちに教えてくれる。
この「冬の匂い」は、雪が少ない内地(本州)から来た人にとって、最初は理解できないという。
しかし、何年か住むと「言っていた冬の匂い、分かりましたよ」という人が多い。
冬の、凛とした空気の中にストーブなのか、エアコンとは違う匂いが混ざり、道産子にはおなじみの冬独特の空気になるのだ。
冬を教えてくれる、この空気自体は嫌いではない。
しかし、これから雪が降り積もるのかと思うと憂鬱なのだ。
私は半身麻痺なので、歩行には杖か車いすを使う。
しかし、冬はどちらも使い辛く、外出を減らさざるを得ない。
冬の匂いは、子供の頃からの思い出を運んでくれるとともに、私にとっては、外出を阻む檻を運んでくるサインでもある。
そんな、冬が近づいてきた寒い日は、温まる物が食べたくなる。
鍋や豚汁(北海道ではブタ汁、トン汁ではない!)でもいいのだが、ここは汁物の温かさだけではなく、プラス辛味の熱くなる感じをダブルで味わいたい。
ここはカレーだ。
只のカレーではない、北海道と言えば「スープカレー」だ。
まず、粗挽きのひき肉を、テフロンのフライパンで、油入れずにじっくり炒める。
そこに水をいれ、煮立ったらカレールウを二かけ、いや三かけ。
煮立ったら、鶏がらスープの素を入れて味を見る。
この時点では、「カレー風味スープ」だ。
ここで「業務スーパー」の出番だ。
ハチのカレー粉、ガラムマサラをいれる。
さらにニンニク、ショウガ、コショウに乾燥バジルを振る。
こう書くと、手順多くて大変そうだがフライパンでひき肉炒めたら、あとは調味料入れていくだけ。
ココナツミルクや、豆乳をちょっと入れたらエスニックッぽいw
カレーペーストあればもっと本格的だが、今日はないのだ。
ちなみにタイの即席めんについてくるオイル入れたら美味い。
具は、冷蔵庫に入ってる野菜をオリーブオイルで焼いていく。
今日は、レンコン、ピーマン、カボチャ、舞茸、人参、ゴボウ、キャベツ、ジャガイモがある。大漁だ。
人参やジャガイモは、レンジでチンしていく。
見栄え良く切りたいところだが、片手しか使えないのでハサミで何とか切っていく。
よく、嫁や他の人からも、ハサミだと大変だねと言われるが、実はこの時間は好きだったりする。
ハサミで狙い通りにまっすぐ切れると嬉しいのだ。
切った野菜を、オリーブオイル振って焼いていく。
焼いている間に、蒸焼きにして冷凍していた鳥腿肉を解凍。
私は何故か、スープカレーには鶏かラムを入れたい派なのだ。
今日のご飯には、もち麦を混ぜた。
人によって好みはあるだろうが、私はあのプチッとした感じとスープカレーを合わせるのが好きなのだ。
そうそう、付け合わせの用意もしなくては。
まずは「大根の酢漬け」だ。
左手で、あらかじめ半分に割っておいて貰った大根を持ち、スライサーを右手を重石にしながら動かして薄くスライスする。
スライスした大根をジップロックに入れて、「かんたん酢」と「柚子胡椒」入れて冷蔵庫においておけば出来上がりだ。
柚子胡椒以外でも唐辛子やショウガも美味しい。
胡瓜は叩いて塩とニンニクと唐辛子とオリーブオイルで和える。
かんたんで最近お気に入りの付け合わせだ。
今日のサラダは、貰い物のポテトサラダにたっぷりとリンゴを混ぜたものと、カット野菜の手抜き。
カレーに野菜多いから勘弁してもらおう。
そういえば、内地の人がポテサラにリンゴにびっくりしてた。
昔はミカンも入ってた家もあるって言ったら驚くのだろうか。
などと、とりとめない事を考えていると、玄関で鍵の音がした。
私はすべての料理を温めていく。
「ただいまー! ああ、今日もいい匂い!ねえ、今日はカレー?カレーでしょ?」
玄関から聞こえる妻の声。
いつも聞こえるこの言葉、これはスープカレーなんかよりも私をポカポカと温めてくれるのだ。
「お帰り。そうだよ、今日はスープカレーだから早くおいで。」
台所でカレーを温める私は、寂しげな冬の匂いは忘れて、妻と食べる幸せなカレーの匂いに包まれたのだった。




