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料理嫌いの嫁を家で待ちながら、無職夫は今日も夕食を作る~幸せ手抜き料理  作者: だい


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第31話:隣人の教えと、子供たちの顔

 一月も後半になると、

 風はいよいよ鋭さを増してくる。


 窓ガラスに指を触れれば、

 あまりの冷たさに、

 指先が火傷をしたように

 熱く感じるほどだ。


 こんな日は、

 ただ身体を温めるだけじゃ足りない。


 心の奥の方まで、

 じんわりと解きほぐしてくれる。

 そんな「温かい」ご飯が、食べたくなる。


 今日の献立は、ふと思い出した

 二つの記憶の味にすることにした。


「水餃子」と「照り焼きチキン」だ。


 きっかけは、

 冷凍庫の整理をしていて見つけた

 鶏もも肉のストックだった。


 照り焼きチキン……。


 かつて子供たちが、この家にいた頃は、

 週に一度は作っていたんじゃないか?


 そんな、絶対的エース級メニューだ。


「パパ、今日照り焼き? やったー!」


 そんな風に、

 食卓に並ぶ前から、

 歓声が上がったものだ。


 二人が独り立ちしてからは、

 なんとなく、作る機会が減っていた。


 冷凍庫の奥で出番を待つ鶏肉が

 なんだか少し、

 寂しそうに見えた。


 まずは、その鶏肉の

 仕込みから取り掛かる。


 もも肉をハサミで、

 一口大に切っていく。


 ここで私流の、

「片手調理」をしている中で見つけた、

 ちょっとしたコツがある。


 肉はあえて、

「軽く冷凍が残っている」

 状態で切るのだ。


 完全な生肉だと、

 左手一本では滑ってしまい、

 ハサミの刃が逃げる。


 だが、表面がシャリッと

 するくらいに凍っていれば、

 面白いようにハサミの刃がスッと入る。


 狙った大きさに、

 正確に切り分けられる。


 このやり方に気づいてから、

 家では、肉は一度冷凍されるのが、

 デフォルトになった。


 不自由さから生まれた工夫が、

 今では当たり前の知恵になっている。


 切り分けたら、

 塩コショウで下味をつける。


「どうせ後で、

 濃いタレを絡めるんだから、

 下味なんていらないだろう」


 昔は、そう思って省いたこともあった。


 だが、不思議なことに、

 下味がないと、芯まで味が届かない。


 口に入れた時に、

 どこか、ボヤけた味になってしまう。


 料理の基本には、

 ちゃんと理由があるんだなと、

 この歳になって改めて実感する。


 次に、水餃子の準備だ。


 これは二十年ほど前に

 お隣さんだった中国の方から

 教わった味だ。


「餃子はね、おかずじゃなくて麺なの」


 そう笑って出してくれた、

 茹でたての水餃子は、

 それまでの私の常識を覆した。


 ツルンとしていて、

 それでいて、モチモチと力強い弾力。


 市販の皮で再現するのは、難しい。


 市販のものは、

 どうしても「焼き」を前提に、

 薄く作られているからだ。


 そこで私は、

「皮を二枚重ね」にして

 包むという、荒技を使う。


 二枚の皮を水で

 ぴっちりと貼り合わせ、

 そこに餡を乗せる。


 こうすることで、

 茹で上げた時に、

 手作り感のある、どっしりとした

「食べ応え」が生まれるのだ。


 餡にもこだわりがある。


 使うのは、豚のひき肉。


 そこに合わせるのは、

 細かく刻んで、

 しっかりと水気を絞った白菜だ。


 キャベツやニラは入れない。


 あの独特の強い香りは、

 スープで味わう水餃子には、

 少し主張が強すぎると、私は思う。


 代わりに、

 彩りと歯ごたえのアクセントとして、

 人参を細かく刻んで混ぜ込む。


 そして、たっぷりの生姜。


 冬の北海道を戦い抜くには、

 この生姜の熱が、欠かせない。


 左手だけで、

 二枚重ねの皮に丁寧に包んでいく。

 包んだらフォークでヒダを作る。

 綺麗なヒダではないけれど。


 その不格好だけど温かみのある形。


 どことなく昔食べた、

 あの水餃子に似ている気がして、

 私は少しだけ、懐かしい気持ちになる。


 次にスープだ。


 長ネギの青い部分を、

 ハサミでチョキチョキと切る。


 生姜はスクレーパーで剥き、

 その剥いた皮も、捨てずに取っておく。


 フライパンにごま油を引き、

 ネギと生姜の皮を、じっくりと炒める。


「ジジジ……」と

 油がはねる音とともに、

 香ばしい匂いが立ち込めてくる。


 ネギや生姜の皮の香りが

 油に移ったら水を注ぐ。


 鶏がらスープの素を投入する。


 ただの「お湯」が、

 ネギと生姜の魔術で、

 奥行きと深みのある

 極上スープに変わる瞬間だ。


 仕上げは照り焼きチキンだ。


 フライパンに皮目から並べ、

 肉が縮んでいく音を聞く。


 皮がパリッと焼けたらひっくり返し、

 醤油、砂糖、酒、そして大蒜と生姜


 王道のタレを、一気に流し込む。


 タレが熱でプクプクと泡立ち、

 肉に飴色の照りが、纏い始める。


 私は、ここで少しだけハチミツを。


 なんだか、チョットだけ

 照りが良くなる気がするのと

 料理している感がするんだよね(笑)


 この甘い香りと、

 水餃子の、生姜の香りが混ざり合う。


 この時間が、

 私にとって何よりの癒やしだ。


 ガチャ。


「ただいまー! おなかすいたよー

 うわ、今日は懐かしい匂いがする!」


 玄関から聞こえる、嫁子の声。


 パート帰りの寒さに、

 縮こまっていた彼女の鼻を

 甘いタレの香りが、

 一番に迎え撃ったようだ。


「お帰り。

 今日は水餃子と、照り焼きチキン。

 子供たちが大好きだったやつだよ」


「えっ、照り焼き! 嬉しい!

 水餃子も、久しぶりで楽しみだよ」


 嫁子は嬉しそうに手を洗いに行き、

 さっさと食卓に着いた。


 彼女もまた、

 この匂いに、

 昔の騒がしかった風景を

 重ねているのかもしれない。


「では、「「いただきます」」」


 まずは水餃子から。


 スープと一緒にレンゲですくい、

 フーフーと冷ましてから、口に運ぶ。


 ……旨い。


 二枚重ねにした皮が、

 狙い通りモチモチとしている。


 まるでうどんを食べているような、

 力強い満足感がある。


 餡の中から、

 人参の食感が顔を出す。

 生姜の熱が胃まで真っ直ぐに届く。


「やっぱりこの水餃子、美味しいわ。

 皮が厚くて、モッチリしてる。

 スープも全部飲み干しちゃいそう」


 嫁子はハフハフと

 熱そうにしながらも、

 次々と口に運んでいく。


 そして、照り焼きチキンを、

 ご飯の上に乗せて一口。


「これこれ、この味!」


 と、嫁子が目を細める。


「パパ、久しぶりの

 照り焼き、最高だよ。

 このタレが染みたご飯だけで、

 もう一杯いけちゃうね(笑)」


 かつての賑やかな食卓を思い出しながら、

 今の、静かだけど温かい

 二人きりの時間を噛みしめる。


 ハサミを握り、

 工夫を重ねて作る料理。

 それは、単なる食事の用意ではない。

 

 私自身の記憶を繋ぎ、

 嫁子の笑顔を守るための、

 大切な儀式のようなものだ。


「パパ、明日の朝ごはんは、

 この水餃子を入れたお粥とかどう?」


 食べてすぐ、もう次のリクエストだ。


 そんな食いしん坊な嫁子のために、

 明日はどんな工夫をしようか。


 そんなことを考えながら、

 残った照り焼きのタレを、ご飯に混ぜ、

 最後の一粒まで味わう私でした。

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