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第0話:妻の笑顔のために
新作です。
ほぼ私小説で、不定期更新なのですが、書き溜めてた作品ではなく、現在進行形で書いてて楽しいのです。
読んでいただけたら幸いです。
妻が仕事から帰宅する時間、キッチンからはカタカタと音が響く。
以前は包丁のリズミカルな音だったが、今は違う。
脳梗塞で右半身が麻痺した私にとって、鋭利な包丁を使うことは危険すぎる。
だから、左手で握ったキッチンバサミが私の相棒だ。
キャベツだろうが鶏肉だろうが、なんでもこれでチョキチョキと切っていく。
料理は元々私の趣味だった。
好きだからこそ、麻痺を言い訳にしたくなかった。
そして何より、筋金入りの料理嫌いな妻を喜ばせたい。
火元の不安を解消するためガスコンロはIHに替え、冷凍の刻み野菜など、安全で手軽な食材も積極的に使う。
今日はどんな献立にしようか。このひと手間と工夫の積み重ねこそが、帰宅した妻の「美味しい!」という満面の笑顔に繋がるのだ。




