表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】街の美少女氷屋さん、実は最強の氷術師でした ~可愛いだけじゃ、お腹は膨れないのです~  作者: YY


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

第15話 請求と決断なのです

 間に合ったのです。

 セレーナさんが孤軍奮闘している姿を見て、真っ先にそう思いました。

 それと同時にグラが幟を地面に突き立て、口から白い呼気を漏らしたのです。

 彼がやる気になっているのを察したわたしは、内心で苦笑をこぼしてから尋ねました。


「1、2、3……氷、いかがですか?」


 そう、わたしたちは氷屋。

 あくまでもそう主張したわたしに、セレーナさんは驚いたようでしたが、すぐに笑みを浮かべて叫びました。


「売ってッ!」

「毎度ありなのです」


 交渉成立、なのです。

 即座にグラを横目で見ると、彼は小さく頷き――半拍。

 モンスターが流れ込んで来ていた横穴が、音もなく氷で塞がれました。

 モンスターたちはなんとか突破しようとしているようですが、ビクともしません。

 流石なのです。

 わたしも負けていられません。

 グラが新手を封じてくれたとは言え、この空間にはまだ大勢のモンスターが残っているのですから。

 それに、わたしは怒っていたのです。

 セレーナさんは、わたしにとって……ただの知り合いではないのです。

 そんな人に手を出されて黙っていられるほど、わたしは大人ではないのですよ。

 瞬時に精霊力を高めて、詠唱を開始しました。

 現在進行形で戦っているセレーナさんから、驚いた気配が漂って来ましたが、気にしていられません。


「現れよ凍れる門扉――世界を常冬へと誘え――【凍界氷門アイシクル・ゲート】」


 上級氷術の短文詠唱を終えると、わたしの前に巨大な氷の門が出現しました。

 モンスターたちは怯えたように後退しており、知性を感じさせましたけど、関係ないのです。

 自動で開いた門から極寒の吹雪が流れ出し、空間を氷漬けにしながら広範囲のモンスターを凍らせて、砕きました。

 入口から中央に向かって扇状に、安全地帯を広げたのです。

 それによってセレーナさんへの道を確保したわたしは、【氷道】で地面を凍らせて滑走しました。

 通り過ぎた傍から氷を解除することで、足場を元に戻すのも忘れません。

 瞬く間に距離をゼロにして、彼女のもとに馳せ参じました。

 様子を確認したところ、かなり疲れていますが、体力的にはまだゆとりがあります。

 問題は精霊力。

 かなり無茶をしたようで、ほぼ枯渇していました。

 ですが、これは想定内。

 懐から、緑の液体が入った小瓶を取り出したわたしは、セレーナさんに手渡したのです。

 彼女は驚いていましたが、端的に告げました。


「精霊薬なのです。 それを飲んで、精霊力を回復するのです」

「こんな貴重なもの……良いの?」

「速くするのです」

「わ、わかったわ」


 セレーナさんは僅かに躊躇ったようですが、一息に飲み干しました。

 これで良いのです。

 満足した気分のわたしは、【氷武】で両腕に氷剣を装着しました。

 まだ数は残っているので、手数が必要なのです。

 立ち直ったセレーナさんと背中合わせに立つと、彼女から楽しそうな笑声が聞こえて来ました。

 何なのです?

 モンスターから目を逸らさずに疑問を抱いていると、セレーナさんは言い放ちました。


「こうやって誰かと背中を預け合うの、夢だったのよね」

「そうなのですか? セレーナさんなら、引く手数多だと思っていたのです」

「うーん。 それはそうなんだけど、ちょっと違うのよね。 本気で信頼し合えると言うか、対等の関係で任せ合えると言うか」

「氷屋に、そこまで求められても困るのです」

「あ、この状況でまだそんなこと言うの?」

「当然なのです。 わたしたちは氷屋。 その事実は、何があっても変わらないのです」

「ホント、頑固なんだから……。 ところで、相棒くんは手伝ってくれないの?」

「グラは新手を退けてくれたのです。 あとのことは、わたしだけで充分なのです」

「ふーん。 わたしだけで充分……ね」

「不服なのですか?」

「まさか。 ただ、その言い方だと、相棒くんの方が強く聞こえるわね」

「……サッサと済ませるのです」

「あ、誤魔化した」

「うるさいのです。 被害ゼロ――」

「優先……でしょ?」

「……セリフを取るな、なのです」

「ふふ、1度言ってみたかったのよね。 でも、ここからは真剣よ。 氷屋さん、背中は頼んだから」

「仕方ないのです……」


 正直、釈然としませんでしたが、大人しく構えました。

 その間もモンスターたちは、怯えたように様子を窺っているのです。

 下手に知能があるというのも、考えものなのですね。

 などと思いつつ、呼吸を整えたわたしは、声を発しました。


「手早く片付けるのです」

「えぇ!  順序、正しくね!」


 気勢を上げたセレーナさんと反対側に向かって、駆け出したのです。

 反応が遅れたバーニングナイトが、慌てて炎剣を振り下ろしましたが、遅過ぎるのです。

 氷剣で炎剣ごと、真一文字に斬り裂きました。

 氷が炎を上回るという、逆転現象。

 それはつまり、わたしとモンスターたちの間に、それだけの差があるという証左。

 だからと言って誇るつもりはなく、粛々とやるべきことをやるのです。

 左前方に集まったファイアドレイクの集団が、炎を吐き出そうとしているのです。

 1体では敵わないと悟ったのか知りませんけど、冷静な判断と言えなくもありません。

 ただ……少な過ぎるのですよ。

 膨大な火炎流を前にしても、わたしは慌てることなく【氷壁】を発動しました。

 真っ向から炎を受け止め、シャットアウト。

 表面には、溶けた跡すらありません。

 モンスターたちから驚愕した空気が流れて来ましたが、舐めないで欲しいのです。

 わたしが普段、誰と訓練していると思っているのですか?

 静かに精霊力を練り上げて、魔術を解き放ちました。


「【飛氷武】」


 10を超える氷の武器が、周囲に浮遊するのです。

 辺りのモンスターをグルリと見渡したわたしは、ポツリと声を落としました。


「行くのです」


 わたしの指示に従って、氷の武器たちがモンスターを殲滅し始めるのです。

 楽をしているように見えるかもしれませんが、決してそうではありません。

 【飛氷武】を最大限活用するには、術者の意志が大事なのです。

 つまりわたしは、これだけの数の武器を、全て効果的に使えているということなのですよ。

 えっへん。

 更に、まだ終わりではないのです。


「ふッ!」


 すぐ近くにいたレッドゴーレムを2本の氷剣で、十字に斬り裂きました。

 魔術だけではなく、自分もきちんと戦うとは、なんて働き者なのでしょう。

 ……などとふざけるのは、終わりなのです。

 敵の数を考えれば、油断は命取りなのです。

 気を入れ直したわたしは、またしても精霊力を高めました。

 セレーナさんの気配を確認する限り、巻き添えにする危険はないのです。

 わたしに集う精霊力の量が危険だと悟ったのか、モンスターたちが殺到して来ました。

 無駄なのです。

 【飛氷武】によって足止めし、わたしは詠唱を開始しました。


「輝く銀の弾幕よ――我が前に立ち塞がりし者たちを穿て――【銀氷礫幕アイシクル・バラージ】」


 魔術が完成すると同時に、無数の氷の礫が周囲に生成されました。

 このあとの展開は、説明するまでもありません。

 一斉に射出された氷の弾幕が、多数のモンスターを蜂の巣にするのです。

 これでかなり、数を減らせたはずなのです。

 そこでセレーナさんに意識を戻すと、彼女も順調そうでした。

 洗練された槍術を中心に、水術を駆使して危なげがありません。

 これが【水槍の勇者】ですか……見事なのです。

 胸中で称賛していると、彼女が突然呼び掛けて来ました。


「氷屋さん! ちょっと手伝って!」

「もう手伝っているのです」

「そうじゃなくて、こっちに来て! それから、詠唱中のわたしを守って!」

「……致し方ないのです」


 指示を受けたわたしは、セレーナさんと合流したのです。

 それによって、モンスターたちは一箇所に集まりつつありました。

 なんとなくわかったのですよ。

 チラリとセレーナさんを窺うと、彼女は強気な笑みで詠唱を始めるのです。

 そこにバーニングナイトが斬り掛かりましたが、させないのですよ。


「はッ!」


 左の氷剣で炎剣を斬り飛ばし、右の氷剣を胴に突き入れました。

 今度はレッドゴーレムが拳を叩き付けて来ましたけど、【氷壁】によって防ぐのです。

 すぐさま解除したわたしは、左右の氷剣を逆袈裟に斬り上げ、呆気なく仕留めました。

 すると、そのときになって詠唱を完了させたセレーナさんが、必殺の一撃を繰り出したのです。


「【閃裂水刃】ッ!」


 わたしたちを中心に、全周囲に水の刃が走りました。

 残っていたモンスターを纏めて上下に分割し、塵と化したのです。

 素晴らしい威力なのです。

 魔術を解除して地面を僅かに濡らしつつ、密かに称賛していたわたしに歩み寄って来たセレーナさんは、ニコリと笑って手を挙げました。

 それが何を意味しているのか、一瞬わかりませんでしたが、すぐに理解したのです。

 少しばかり逡巡しましたが……結局同じように手を挙げて、顔を背けながらハイタッチしました。

 グラ以外とするのは初めて、無性に恥ずかしいのです。

 それでも彼女は嬉しそうで、興奮気味に口を開きました。


「有難う、氷屋さん。 本当に助かったわ」

「……わたしは、氷を売りに来ただけなのです」

「うんうん、わかってるわよ。 わたしの為に、たくさん氷を使ってくれたもんね」


 敢えて「わたしの為に」を強調した、セレーナさん。

 なんだか悔しいですけど、否定はしかねるのです。

 微かに顔を赤くしたわたしは言い返せませんでしたが、やられっ放しでは終わらないのですよ。


「じゃあ、早速精算を済ませるのです」

「わかったわよ。 それで、どれくらい?」


 上機嫌に、セレーナさんは笑っているのです。

 このとき、彼女はどれくらいの額を想像していたのでしょう。

 確かなことはわかりませんが、次の反応から考えると、安く見られていたのでしょうね。


「40,000メルなのです」

「……え?」

「40,000メルなのです」

「えっと……命を救われておいて言いたくないけど……高過ぎない……?」

「そう言われましても、計算間違いはしていないのです」

「う、内訳は……?」

「その話をする前に、前提を話しておくのです」

「ぜ、前提?」

「はいなのです。 わたしたちは氷屋ですが、副業でちょっとした小物も取り扱っているのですよ」

「初耳ね……」

「滅多にないことなので、それが普通なのです。 そして、わたしたちは氷術自体には、値段を付けていないのです。 あくまでも、割り増しのオプションになるのです」

「……まさか」


 そこでセレーナさんは、仕舞っていた空の小瓶を取り出して、見つめました。

 ようやく気付いたのですね。

 口元を痙攣させている彼女に、わたしは飛び切りの営業スマイルで告げたのです。


「精霊薬は、とても貴重なのです。 相場で言えば、20,000メルは下りません。 そこに配送料10%と魔術の初級10%、中級30%、上級50%の手数料を割り増しすると、40,000メルになるのですよ」


 懐から料金表を取り出して、トントンと突きながら丁寧に説明しました。

 セレーナさんはガックリと肩を落としていますが、これでも良心的な方なのですよ。

 本当なら各等級の魔術を複数回使ったので、もっと割り増ししたいくらいなのです。

 暫くセレーナさんは沈黙していましたが、ようやくして声を絞り出しました。


「……わかったわ。 ここから帰ったら、必ず支払うから」

「よろしくお願いしますなのです」


 これにて、一件落着なのです。

 そう考えていたわたしですが、セレーナさんの瞳が怪しく光りました。

 嫌な予感がするのです。

 咄嗟に身構えていたわたしに、今度はセレーナさんが満面の笑みでのたまいやがりました。


「言ったわね?」

「え?」

「帰ったら支払うことに、同意したわよね?」

「……それが何なのですか?」

「わたし、今から奥に行くんだけど」

「馬鹿なことを言わないで下さい。 ここがどれだけ危険か、まだわからないのですか?」

「だからこそよ。 きちんと最後まで攻略して、正確な情報を持ち帰らないといけないわ」

「ですが……」

「それで、どうする? このまま1人で進んだら、戻って来れないかも。 そうなったら、氷屋さんは大赤字よね? 商売人として、それで良いの?」

「……やってくれやがりましたね」

「ごめんね? わたしも必死なのよ」


 口では謝っていますが、訂正する気はサラサラなさそうなのです。

 ただ……笑顔の奥に、決然とした覚悟が垣間見えました。

 放っておいたら、本当に行ってしまいそうなのです。

 その場合、彼女の言う通り、わたしたちは大赤字なのです。

 いえ、それ以前に……。

 懊悩していると、いつの間にかグラがやって来ていました。

 手に持った幟から発せられる冷気が、戦闘後の火照った体を、優しく冷やしてくれるのです。

 すると彼は、激しく動いて乱れたわたしの髪を整えながら、耳元で囁いたのです。


「ネージュ、もう認めたらどうだ? キミに、セレーナを見捨てることは出来ない」

「グラ……」

「どうしても難しいと言うなら、キミらしい理由を作れば良いだろう」

「わたしらしい理由……」


 最後に髪飾りの位置を直してくれたグラは、真っ直ぐに見つめて来ました。

 それを受けたわたしは嘆息して、懐から用紙を取り出したのです。

 セレーナさんは不思議そうにしていましたが、敢えて淡々と説明しました。


「3か月の定期購入契約書なのです。 これにサインしてくれるなら、手を貸すのです」

「3か月……6,000メルね。 まぁ、ここまで来たら一緒かな。 良いわ、それで手を打ちましょう」

「契約成立、なのです。 あ、長期契約のオマケとして、スタンプを1つ押すのです」

「本当にオマケって感じね……。 まぁ、もらっておくけど」


 セレーナさんが苦笑しながら取り出したスタンプカードに、六花印を取り出してポン。

 今回も綺麗に咲いたのです。

 それにしても、この期に及んできちんとスタンプカードを持っていたとは……。

 商売人としては、なくしてくれていた方が得なのですけど、ほんの少しだけ嬉しくなりました。

 そうしてセレーナさんが記入した契約書を、大事に懐に仕舞い、力強く宣言したのです。


「何が何でも、生還するのです」

「はいはい。 本当に、お金が好きなのね」

「……商売人なのですから、当たり前なのです」

「否定。 本心は別」

「ん? 本心って?」

「グ、グラ! 変なことを言うななのです!」


 小首を傾げるセレーナさんを遮るように、グラの肩を氷ハンマーでコツン。

 彼女はますます怪訝そうにしていましたが、無視して足を踏み出すのです。

 しかしセレーナさんは、少し慌てた様子で口を開きました。


「ちょっと待って。 魔石は回収しなくて良いの? これだけあれば、かなりの額になるわよ?」


 彼女の言葉を聞いて立ち止まったわたしは、グルリと空間を見やりました。

 確かに数え切れないほどの魔石が落ちていますが、答えは決まっているのです。


「わたしたちは氷屋であって、冒険者ではないのです。 魔石での収入は、望んでいないのですよ」

「何て言うか……凄いポリシーだと思っておくわ。 まぁ、今は緊急事態だし、のんびりする訳にも行かないか」

「そうなのです。 早く帰って、支払ってもらわないと困るのです」

「お金にがめついのかそうじゃないのか、判断し辛いわね……」

「うるさいのです」


 こうしてわたしたちは、ダンジョンの奥へと向かうのでした。

 このとき前を向いていたわたしは、グラが空間を眺めて、厳しい表情をしていたことに気付けなかったのです。











 ネージュの帳簿


 残り氷柱=なし


 今回収入=+0メル

 前回までの収入=+0メル

 今回支出=-1,150メル(氷相場情報料500メル、新ダンジョン情報料650メル)

 前回までの支出=-0メル

 ―――――――――――――――

 収支総合計=-1,150メル


 精霊薬販売×1=相場20,000メル+配送料10%+魔術使用手数料90%(初級10%、中級30%、上級50%)=40,000メル(帰還後支払い予定)

 定期購入契約(3か月)×1件=6,000メル


 優先=被害ゼロ


 次回目的地=新ダンジョン奥

次回「友だち記念、スタンプをポンなのです」、明日の21:00に投稿します。

よろしければ、★評価とブックマークで応援して頂けると、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ