第二話 スコップの本当の使い道?(4)
提燈男を追い払ったあとも、
アイリはいつものスコップを手に持ち、キラキラしたスケルトンを引きずりながら――慣れた足取りで、転生の尖塔・二階の図書室へやって来た。
だが、今回は室内にエイヴァ導師ひとりしかいない。
どうやら他の三人は、アイリを避けて逃げた可能性が高い。
「おや……久しぶりね。
魂の炎、たっぷり消化してきたって顔ね?」
そう言って笑みを浮かべたエイヴァだったが、次の瞬間――
「……その後ろの、それ。まさか……?」
「道中で拾ったの。魂の火は吸っといたけど、なんか使えそうだったから、連れて帰った♪」
「すごいわね……! まさかひとりで高位スケルトンを倒してくるとは」
エイヴァは少し驚いたように目を見開き、やがて微笑んだ。
「だったら、そのスケルトンを“対価”として、いろいろ教えてあげるし、アイテムとも交換できるわよ?」
「うん。」
「じゃあ、こっち来て。三階へ行くわよ。」
エイヴァに続いて、図書室の奥――上階へ続く階段を登る。
第三層の部屋に入った瞬間、雰囲気が一変した。
そこは魔法工房と実験室だった。
奇妙な液体の詰まった瓶、不気味な素材の山、そして名も知らぬ魔法道具たちが所狭しと並んでいる。
その中に、一人の見知らぬ遺忘者導師が、何やら薬品を調合していた。
「ここは、私たち導師専用の魔法研究所。新生者が来ることは滅多にないわね」
エイヴァが説明する。
「この人は、研究担当のユーファ導師よ」
「……なんか、見たことある気がする……」
部屋に入った瞬間、アイリの脳裏に微かな既視感がよぎる。
「やっぱり。生前は魔法使いだったから、似た空間に心当たりがあるのね?」
「なんとなく、ね」
「じゃ、スケルトンをあそこの台に置いて。装備を作るわよ」
スケルトンを作業台に乗せていると、調合をしていたユーファがこちらへ近づいてきた。
「やあエイヴァ、最近どう? そっちの子は新入り?」
「まあね。紹介するわ。こちらは新生遺忘者のアイリ」
「へぇ、よろしく……」
と、言いかけた瞬間――
「なんか、いっぱい持ってそうだね、あんた」
……ユーファ、無言で冷や汗。
「い、いやいや、どれも使い物にならない試作品でして……」
「ふーん……」
エイヴァは小さく苦笑した。この子、またなにか奪う気だわ……
スケルトンを作業台に乗せたあと、
エイヴァはスコップをちらりと見て、こう言った。
「アイリ、そろそろ“魔法使いの証”――杖が必要なんじゃない?」
「……作ってもいいけど、あたし杖いらないよ?」
「えっ?」
「それより、このスコップにエンチャントして♪」
エイヴァ、一瞬固まる。
……まあ、そんな気はしてた。
「わかったわ。じゃあ一緒に“エンチャント”やってみましょう」
まずは素材確認。
スケルトンの頭蓋骨を外し、エイヴァがゆっさゆっさと振ってみると――
「カラカラ……」
おや?と手に取った彫刻用の鑿で、頭骨のヒビをカンカンと叩く。
すると、頭骨の中から透明な菱形の結晶が取り出された。
「これは……“死のルーン結晶”! かなり運がいいわね!」
結晶の中には、黒く怪しい文字が内側から浮かび上がっていた。
「高位のアンデッドから、稀にこういうルーン結晶が取れるの。
この文字が“ルーン”で、魔法効果の源よ。」
「ふーん」
「ちなみにこのルーンが何を意味するかは後で本を貸すから、自分で調べてね」
「それじゃ、附魔を始めるわよ。
ただし、やるのはあなた自身よ?」
「オッケー。ぶっ壊していいの?」
「そうね、まずはルーン結晶を砕くのが第一ステップ」
カンッ! カンッ! カンッ!
魔法用の小槌で、ルーン結晶を砕く音が響く――
そのとき、黙ってられなかったユーファが急に話しかけてきた。
「ねぇ、アイリちゃん……“カンカンカンカンカン”って言葉、何だか知ってる?」
「んー? なにそれ、擬音語?」
「カンカンカンカンカン……ってのはね……」
そう言って、ユーファがいきなり歌い始めた!
「Oh~Only~You~
実験助手になって~♪
Only~You~
試薬を混ぜて~♪」
その瞬間――
バシュッ!!
「カンカンカンカンカン!!」
背後からスコップ炸裂。
「人が集中してる時に調子乗るな~~っ!」
――数分後。
完成したのは、鮮血に染まったエンチャント装備――
《染血の附魔スコップ》!(エンチャント効果:クリティカル率+5%)
アイリは満足げにスコップを振りながら、視線をユーファへ――
「試してみたいなぁ……」
その視線にユーファ、思わずガクブル。
(ああ……これが主任の言ってた“暴力系新生者”か……)
「できたわね。おめでとう!」
エイヴァが笑顔で祝福する。
「うんうん!」
「これ以上いじめないであげてね。
代わりに、スケルトンを報酬にして、私が法衣を作ってあげるわ」
「ありがと~」
「明日、取りに来てね」
こうして、
“附魔スコップ”を手に入れたアイリは――三度目の転生尖塔を出発したのであった。