第二話 スコップの本当の使い道?(2)
「……やっぱり、一度戻って先生に聞いた方がいいかな……」
そう思いながらアイリがくるりと振り返ったその瞬間――
**「カクン」**という不気味な音が、後ろから響いた。
ピタッと足が止まる。
アイリはゆっくりと、音のした方向へと顔を向けた。
――そこは、死の気配が異様に集まっていた地面の中央。
乾いた大地から、光沢を帯びた白い指骨が、ずぶりと突き出ていた。
「スケルトンだ……!」
手の指に続いて、肘の骨も地面を割って出てくる。
その異様な“光る白骨”を見て、アイリは思わず口にした。
「なにこれ……光ってるじゃん!」
演出中(=登場中)で無防備な相手を見逃すほど、アイリは甘くない。
「シャドウアロー!」
紫の電光が一閃し、一直線に白骨へと飛んだ。
ドンッ!
……だが、その骸骨は、前のアンデッドよりもはるかに強い。
攻撃を受けながらも、残りの左足を土から引き抜き、完全に姿を現した。
そして――
何も起きなかった。
「え……効いてない!?」
自分の最強魔法が、まさかの無効化……!
その時、スケルトンの空洞の目の奥が白く光った。
それは遺忘者たちの「魂の炎」とは異なる、冷たい光。
「シャドウアローッ!!」
2発目が直撃するが、スケルトンはただ軽く身をよじっただけ。
――そして、ゆっくりとアイリに視線を向ける。
《食う……食う……喰ってやる……》
直接、思念が頭に響いた。
この骸骨、明らかにただのアンデッドじゃない。
まだ未成熟ながら、自我を持った知性型のアンデッドだ。
不死者同士でも、種族が違えば互いを喰らうのが普通。
遺忘者だけが唯一、内輪で殺し合わないルールを持つ特殊な種族にすぎない。
とはいえ、アイリにはもうシャドウアロー1発分の魂力しか残っていなかった。
幸いにも、さっきドクエからもらった補給ドリンクがある!
「今のうちに、飲むしかない!」
そう思ってポーチからドリンクを取り出そうとしたその瞬間――
スケルトンが突っ込んできた!
ただし、不慣れな体のせいか、その動きはカクカクで遅い。
でも、距離が近い!!
アイリは後退しながら手早くドリンクの栓を開け、ぐいぐい飲み干す……
――つもりだったが、飲めたのは三口だけ。
その瞬間、スケルトンの拳がアイリの頭へ――!
バシュッ!
紫の光が走る。
アイリはとっさにスケルトンの肘に向かってシャドウアローを撃ち込んでいた。
攻撃は大きく逸れたが、それでも衝撃は大きい。
アイリの身体は宙を舞い、地面へと投げ出され――
ドリンクは彼方へと吹き飛んでいった。
「ぐっ……あぶな……」
シャドウアローが入ってなかったら、魂の炎が砕けて消滅してたかもしれない。
アイリは歯を食いしばりながら、スコップを支えに立ち上がる。
そして、その間にも、地面から新たなスケルトンが二体……。
これは、ある程度上位のアンデッドが持つ特性。
低位のアンデッドを使役する能力だ。
「あと、4発分……」
残り魂力を計算したアイリは、逆にスコップを握り直し、突撃した!
「シャドウアロー!」
「シャドウアロー!」
二発の紫電が走り、二体のスケルトンがバラバラに砕け散る。
そのまま止まらず、光るスケルトン本体へ――!
相手も迎撃、右肘を振り下ろしてきた!
チャージ、発動!
アイリの身体が加速し、まるで残像のように軌跡だけを残す。
スケルトンの一撃は空振りし、ただの幻影を粉砕しただけだった。
アイリはその背後へ回り込み、スコップを振りかぶって一撃!
――だが、スケルトンも読み切っていた。
まるで生きてる人間ではありえない、関節を反転させた動きで左肘を反撃!
「シャドウアロー!!」
正面から放たれた一撃が肘にヒット! 「パキィッ!」と骨が軋む。
そして――
チャージ、再発動!!
「スコップ・クラッシュ!!」
――白い閃光が走った。
アイリの姿は二メートル先へと抜け、
その背後では、スケルトンの頭骨が砕け落ちていた。
**“ガシャン”**という鈍い音と共に、首骨が耐えきれず、頭部が地面へ転がる。
《……えっ……残り4発って……?》
そう、さっきアイリは「あと4発しか撃てない」と言っていた。
が――
スコップを回して派手に“剣花”……いや、“鏟花”を決めたアイリは、
ニッと笑って言い放った。
「そんなの、教えるわけないでしょ♪」
口では「あと4発」って言ってたけど、もしかしたら5発目も、6発目もあるかもしれないね。
《……お前……》
「ふふん。私の“シャドウチャージ・スコップ・フィニッシュ”で倒れられるなんて、アンタも本望でしょ?」
《ナイススコップ……!》
沢を放つスケルトンの意識が徐々に消えていくにつれて
体内から、通常より大きな魂の炎が、
ぼわっと現れて――
アイリの目の前に浮かび上がった。