第十五話 お宝発見?(1)
第二層に入ってまだ間もないというのに、大量のアンデッドと戦う羽目になり、さらに今度は魂装武鎧したスケルトンまで現れるなんて……。
アイリは思わず思った。
──ねえ、これ絶対ウィルスに騙されたよね!?
「何度も来て、強めのスケルトンに出会ったのは一度きり」……はあ? どこがよ!?
目の前のこの武装スケルトン、サスほど大柄じゃない。むしろアイリより背が低いくらい。
装備している魂の鎧も、騎士みたいなゴツいプレートじゃなくて、軽量そうなレザー系。
片手に持っているのは、漆黒で妙な形をした武器。ナイフっぽいけど、普通よりちょっと長くて、しかも刃が湾曲してる。
──これは……進化方向がかなり独特なタイプ!?
珍種か? それとも、私がただただ運が悪いだけ……?
……いや、違う! 私の人徳で不運なんてあるはずがない!
ぜーったいウィルスのヤツが嘘ついたんだよ! 現実逃避開始ッ!
──そんな思考を巡らせていたが、状況は待ってくれない。
アイリがスケルトンを観察しているように、相手もこちらをじっと見ていた。
『お前たち……誰だ?』
スケルトンが魂の声で問いかけてきた。
──ずるい! さっきまで思いっきり襲いかかってきたくせに、状況が変わったら情報収集か!?
しかも話しかけて油断を誘うなんて……ずいぶん頭の切れるアンデッドじゃん!
でも、こっちだって黙ってやられるつもりはない。
アイリはすでに《ソウル・リンク》でジルに『準備して』と伝えていた。
スケルトンが言葉を発した次の瞬間、ジルが《チャージ》を発動し、真っ直ぐ飛びかかる!
──が、空振り。
やはり会話なんて最初からする気なかったか!
攻撃を回避したスケルトンは、すぐさまアイリにターゲットを切り替え、猛然と突進!
こいつ、優先的に魔法使いを狙う知恵まであるのか!?
騙すだけじゃなく、戦術判断までできるなんて!
「ガン!!」
アイリのスコップが横一文字に唸る。しかし、スケルトンの奇妙な湾曲ナイフに受け流されてしまった。
すかさず、アイリは指先で敵の額を指し、紫の魔力が瞬く──
「バンッ!」
だがスケルトンはすんでのところで頭をずらし、暗影の矢は背後の壁に炸裂。
そのままスケルトンの右脚がアイリの胸を蹴り飛ばすように伸びる!
その様子にジルが激怒した。
「このやろーっ! 姉御に手ぇ出すなぁっ!!」
再度チャージ発動!
長剣を振りかざし、スケルトンの頭部めがけて突進!
だが、スケルトンは身をひねりながら左手でジルの剣を抑えつけ──同時に、右脚はアイリの胸に命中。
「ドガンッ!!」
吹っ飛ぶアイリ!
さらにスケルトンは体勢を空中で反転し、驚異のバク転キック!
その勢いでジルの頭を打ち抜き──
「バガンッ!」
ジル、地面に叩きつけられてノックアウト!
奇襲開始からここまで、わずか数秒。
だがその短時間で、このスケルトンの近接能力が尋常ではないことが完全に証明された。
アイリは数メートル吹き飛ばされ、地面を転がった末にやっと停止。
胸に食らった衝撃は強烈で、魂の炎が一時的にかき乱される。
魔法を張っていなければ、今頃再起不能だっただろう。
でも、今いちばん心配なのはジルだ。
『ジル、大丈夫!?』
ジルの魂の炎が、魂のリンク越しに弱っているのが分かる。
《ガーディアン》だけでは耐えきれなかった。
盾のエンチャントがなければ、魂の炎はきっと消えていただろう。
……なのに返事がない。
ジル、まさか意識を失ってる!?
スケルトンは自分の攻撃力に絶対の自信を持っているらしく、アイリがもう動けないと思い込み、しゃがみこんでジルの魂の炎を吸収しようとしていた。
「ふざけんなッ!」
アイリがすかさず立ち上がり、《シャドウアロー》を連射!
スケルトンは驚いた様子で慌てて回避するも、2発が命中。
──しかし、魂鎧を纏ったこの相手には、それだけでは傷一つつかない。
《シャドウアロー》程度じゃ倒しきれない……
早くこいつを倒さないと、ジルの魂が危ない!
アイリが何とかこのユニークスケルトンを倒そうと策を練っていた頃──
相手もまた、せっかくの“食事タイム”を邪魔されるつもりはなかった。
スケルトンは再び刃を振りかざし、アイリ目掛けて突進してくる!
今度は正面から受け止めるのは危険すぎる。
アイリは《チャージ》を使用して機動力を一気に上昇、斬撃を回避しつつ、すかさず第二級魔法を発動!
その瞬間、青白い肌が漆黒に染まり、まるで悪魔のような質感へと変化していった。
──《デモンスキン》。
それは耐久性を大幅に高め、闇属性魔法への耐性を付与し、さらには闇系魔法の威力を強化する補助魔法。
ただし……聖属性に対しては真逆。被ダメージが跳ね上がるという危険な代物でもある。
──でもまあ、この“死者の大陸”で聖属性の敵と出くわすこと自体がレアケース。
そもそも相手はアンデッド。闇属性の彼にこそ、このスキルは効く!
強化状態のまま、アイリは再びスコップでスケルトンと正面衝突!
「キィィンッ!」
今度は互角。
まさか魔法使いに力比べで拮抗されるとは思ってなかったのか、ユニークスケルトンは少し驚いたようだった。
だが彼も甘くはない。即座に左手でアイリの頭部へと拳を叩き込もうとする!
──速いっ!
アイリは首を捻ってギリギリで直撃を避けたものの、右肩に「バキィッ!」と強烈な衝撃が走る。
でも、《デモンスキン》のおかげで骨は砕けずに済んだ。素肌のままだったら、肩ごと粉砕されてたかもしれない。
一方、スケルトンの拳も手応えに面食らったのか、不自然に跳ね返され、体勢を崩して後退!
──今しかない!
アイリは渾身の一撃を叩き込む!
「喰らえぇっ!」
「ゴンッ!!」
スコップが唸りを上げてスケルトンの頭に命中!
衝撃で彼の身体は吹っ飛び、「ドガシャァァン!!」と壁に激突!
瓦礫が「ガラガラ」と崩れ落ちる中、短いながらも激しい攻防は、アイリに軍配が上がった。
……とはいえ、アイリの状態も万全とは程遠い。
先ほどのキックや打撃のダメージで魂の炎が不安定になり、両目の橙の輝きも一気に鈍くなってきた。
アイリはそっとショルダーバッグから、宝箱で見つけた《死の気配の結晶》を取り出す。
スケルトンもまた、目の前の相手が並の魔法使いではないことをようやく理解したらしく、無闇に飛びかかるのをやめて様子見に切り替える。
だが、それが命取りになることを……この時はまだ知らなかった。
──いい子で待っててね
アイリの唇が、かすかに笑みに歪む。
《死息精製》発動。
結晶の中に蓄えられていた死のエネルギーは、瞬時に吸収されていく。
さらに――空間そのものからも“死の気配”が、ぐんぐんとアイリのもとへ引き寄せられていった。
そう、ついさっきスケルトンたちを収穫したばかりの“農場”──
そこに残っていた未吸収の魂の炎たちが、今まさに素材として取り込まれていく!
(……おかしい。)
スケルトンが異変に気付くのに、時間はかからなかった。
もしアイリが結晶だけを使っていたなら、気配の変化も小さく済んだかもしれない。
だが今は周囲全体の死の気配が、急激に希薄になっている。
この異常、敏感な高位アンデッドなら気づかぬはずがない!
「チッ!」
気付いたスケルトンは、すぐに両脚に力を込めて――
「ダンッ!」
地を蹴って、猛スピードでアイリへと突撃してきた!
目の前の敵が一体何をしているのかは分からない。
だが、確実に感じる……どんどん危険になっていく。
このまま放っておけば、絶対にまずい。今、止めなければ!
──バレたッ!!
アイリの《死息精製》は、まだ発動からわずか四秒。
この短時間で得た力だけでは、とても致命打にはならない……。
このまま強行するべきか? それとも、中断すべきか……!?
迷っていたその瞬間──
「ガッシャァァァン!!」
巨大な五角形の盾がユニークスケルトンの横から突き刺さるように直撃!
「パキンッ!」と骨がきしむ音と共に、そのままスケルトンは壁に叩きつけられ、なんと半身が壁にめり込んだ!
この盾を投げつけたのは、つい先ほどまで気絶していたジル!
彼女は目を覚ました瞬間、姉御が危機に陥っているのを察知し、自分の状態などお構いなしに全力で盾をぶん投げたのだ。
スケルトンはアイリに集中しすぎて、完全に油断していた──それが命取りだった。
「ジルッ! 大丈夫!?」
アイリが「ソウル・リンク」で急いで呼びかける。
だがジルは、最後の力を振り絞った一撃の後、再び意識を失ってしまっていた。
──もう、時間はない!
ジルの状態に、アイリの焦りは一気に高まる。
でも、ジルの渾身の援護で、アイリには十分すぎる猶予が生まれた。
《死息精製》、完了──!
スケルトンはまだ壁の中で体勢を整えようとしていた。
今こそ、全力の反撃を叩き込む時!
《チャージ》発動!
アイリはスコップを構えて突進、そして――!
「くらえぇぇぇっ!!」
「ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!!」
無防備なスケルトンの頭に、連続でシャベルを叩きつける!
鉄と骨がぶつかるたびに、スケルトンの魂の炎が揺らぎ、フラフラになっていく。
──止めだ!
「シャドウアロー!!」
強烈な紫の光が炸裂する。
「ドォォォォンッ!!」
数百体分のスケルトンから吸収した魂のエネルギー、さらに《死の気配の結晶》によるブースト。
その威力は尋常じゃなかった。
スケルトンの魂鎧が砕け、頭蓋骨が爆ぜ飛ぶ。
さらにその爆発の余波で、周囲の地面がえぐれ、巨大なクレーターが形成される。
「ドガガガガガガガァァァンッ!!」
轟音と共に土煙が舞い、壁の破片が四方八方へと飛び散る。
……カラ……カララ……
攻撃を終えたアイリの肩が、ふっと下がる。
《デモンスキン》、《死息精製》、《スワンプ》──連発した魔法の消耗は凄まじく、魂力はほぼゼロに近い。
「これで……まだ立ち上がってきたら……次はこっちが終わるわ……」
アイリは震える手でショルダーバッグを探り、回復ポーションを取り出す。
そのとき、遠くから「カツン、カツン」と馬蹄の音が響いてきた。
──サスだ!
主の危機を察した彼が、第三層から全力で駆け上がってきたのだ。
……ひとまず、これで安全
この章は、これまでで最も長い戦闘シーンになっています。そして、ジルとアイリの二人が強敵(?)に正面から挑むのは今回が初めてです。
あ、もちろんデスナイトもいましたけど……あまりにも油断しすぎてましたね(笑)。
読んでくださった皆さんは、どう感じられたでしょうか? 文章の流れは分かりやすかったですか? 自分ではノリノリで書いていても、もし読みにくかったら恥ずかしいですし……。
もし気になる点があれば、ぜひコメントで教えてください! いつも応援ありがとうございます!




