十三話 人気者ロリっ子?(3)
時間は静かに流れていった──
アイリが借りてきた本をすべて読み終えた頃には、すでに五、六時間が経っていた。
顔を上げると、隣のジルは相変わらず眉間にしわを寄せ、真剣な表情でスキルブックを凝視している。
(……ずっと読んでたんだ。すごく真面目だなあ。)
ジルは「姉御からもらったお金を無駄にしたくない」というプレッシャーから、自分を追い詰めていたのだ。
その真剣すぎる姿に、アイリは思わず小さく笑った。
(でも、このままじゃ埒が明かないよね。)
「ジル~~~」
「ひゃっ!? あ、あわわっ……!」
びくっと身体を震わせ、ジルが慌ててこちらを向く。
「姉御……?」
「わかんないなら先生に聞いてきなよ~?」
「あっ!」
その瞬間、ジルのオレンジ色の瞳に――ぱっと光が宿った。
「そっか、そうだよねっ!」
「行っておいで~」
スキルブックを抱えたジルは、ちょこちょこと講師のもとへ駆けていった。
その後ろ姿を見送りながら、アイリはふわりと微笑む。
(……なんだか、妹ができたみたいな感じ。)
やがてジルは講師と熱心に話し込み、ほどなくして満面の笑みで戻ってきた。
「姉御! やっとわかったよ! あとは実践だけっ!」
「しーっ!」
講師が苦笑いしながら指を立てる。
「ご、ごめんなさい……」
ジルはぺこりと小さく頭を下げた。
「じゃあ……次はこっちの本だね。全部読み終わったら、外で練習しよう。低レベルのスケルトンでも相手にさ。」
「うんっ!」
ジルは新しいスキルブックを開き、またしても真剣な表情で読み始めた。
アイリは一度、スキルの説明を教えようとしたことがある。
だけど、彼女にとって魔法や戦技は――まるで呼吸のように自然なもの。
「呼吸ってどうするの?」と聞かれても答えに困るように、それは教えられるものではなかった。
だからこそ、ジルには自分で理解してもらうしかなかったのだ。
幸いにも、ジルは講師の丁寧な指導を受け、徐々にスキルを習得していった。
その姿勢は真面目で、しかもとっても可愛らしかったため、講師もつい張り切って教えてくれた。
《ヘイトスピン》は《ガーディアン》よりも難易度が高く、
「魂力を身体の周囲に循環させ、旋風を形成する」という工程を完全に理解するまで、
ジルは丸一日を費やした。
* * *
スキルを習得したら、次はお待ちかねの――装備購入タイム!
図書館を出た二人は、安寧の町のメインストリートへ向かった。
手持ちの金貨は残り43枚。
予算をきっちり管理しなければならない。
「補給に10枚は残しておきたいし、予備費も欲しい……使えるのは、せいぜい23枚ってとこかな」
アイリが計算していると、不意に耳に入ったのは聞き覚えのある声。
「エンチャント盾ありますよ~! 数量限定、お早めに~!」
振り向けば、町に来たときに見かけた露店のあの店主。
どうやらまだ盾が残っているようだ。
「行ってみよっか」
「うん!」
二人が近づくと、店主の目がぱっと輝き、すぐに笑顔になった。
「おお、いらっしゃい! どんな盾をお探しで?」
彼は五角形の大型盾を取り出しながら言った。
「この盾はですね、希少なアンデッド系ルーンストーンを使っていて、物理も魔法もバッチリガード!」
「……いくら?」
アイリは盾を受け取り、じっくりと観察した。
見た目は微妙だが、性能は確かに良さそうだ。
「20金貨! 値引き不可!」
「に、20金貨!?」
ジルが飛び上がった。
「見た目これなのに高すぎっ!」
アイリは盾を返し、さらりと言う。
「他にある?」
(見た目は関係ないだろっ!?)
店主が心中でツッコミを入れつつ、別の盾を差し出す。
「こちら、白銀製の小型盾。サイズも可愛くて、ちょうど彼女にぴったりですね」
「ほぉ……」
確かにジルの体格にはちょうどいい。
「特別効果はあるの?」
「被弾時、5%の確率でダメージの30%を反射します! お値段は……8金貨!」
「8金貨!?」
ジル、再び衝撃。
(生前の装備なんて、銅貨数枚程度だったのに……!)
すっかり購入意欲を喪失したジルは、アイリにそっと囁いた。
「え、姉御……やっぱやめよう?」
しかし、アイリは――
「ねぇ店主さーん?」
ジルの頭をなでながら、満面の笑みで言い放った。
「この二つ、セットで18金貨ってどう?」
「えっ、18!? そ、それはちょっと……」
「じゃあ17。」
「い、いやいやいや! 最低でも26金貨です!」
「見た目がアレだし、16金貨。」
「見た目関係ないでしょ!?」
店主、冷や汗だらだら。相手の威圧感に押されそうになる。
「反射率たったの5%だしね。15金貨。」
「ちょ、ちょっと! なんでどんどん下がってんの!?」
「じゃあ18金貨で。」
「……う、うん。取引成立で……」
「はい、18金貨!」
アイリは金貨をぱしっと置き、素早く二つの盾をバッグに収納した。
「うわぁ……」
店主、魂が抜けたような顔でその場に立ち尽くす。
ジルは振り返りながら、心の中でつぶやいた。
(姉御……か、かっこよすぎるっ……!)
近くにいた他の店主たちは、その壮絶な値切り劇を目の当たりにし、
誰一人として声を上げる者はいなかった。
そしてそのとき、補給品を売る店主の背中に、ひんやりとした悪寒が走る。
――なぜなら、あの二人の小さな可愛い屍体が、こっちへ歩いてきていたのだった。
移行期間がついに終わろうとしている。いよいよ次の冒険へ――準備はできてるよ。




