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第二話 スコップの本当の使い道?(1)

エイヴァの説得のおかげで、アイリはなんとかクエルマンたち三人に手を出すのを思いとどまった。

この世界は力こそ正義――ではあるが、それだけじゃ社会は回らない。だからこそ、“遺忘者”たちの中で最強の存在――リッチキングが法律という概念を打ち立てたのだ。


その圧倒的な力の裏付けがあるからこそ、その法律には絶対的な正当性がある。

結果として、遺忘者たちはお互いを無差別に傷つけるようなマネはしない。


――それが、遺忘者が他のアンデッドとは一線を画す、特別な存在である理由。


なにせ、スケルトンやゾンビ、亡霊なんかは、相手が同族だろうとおかまいなしに襲ってくる生き物だ。

だからといって暴れられないなら、アイリの関心はまだ喋ってもいない男――ドクエに向いた。


「ねぇ、あんたは私に何を教えてくれるの?」


「お前、魔法使いじゃなかったのか? オレに習うことなんてないだろ?」

ドクエはやや困った顔をしながら言った。

「……ま、教えてほしいってんなら仕方ないけどな!」


「じゃあ早く教えて。」


「ま、待って! スコップでやめて! ちゃんと教えるから!!」

ドクエは慌てて黒い革表紙のスキルブックを取り出した。


「これを読むんだ。自分で覚えられるかはお前次第だけどな。」


「ほい。」

アイリはそれを受け取ると、すぐさまパラパラとページをめくる。

そして数秒後、またあの感覚がやってきた――そう、《シャドウアロー》を覚えたときと同じ感覚。


《初級戦技・チャージ》


「できた。簡単だったねぇ。」

スキルブックを雑に返しながら、アイリが言った。


「なにっ!? 本当に覚えたのか!?」


「うん。」


「ま、魔法も戦技も両方できるヤツってのも、まぁいないわけじゃないし……。こっちは時間だけはたっぷりあるからな。とはいえ、それも初級レベルの話。上級になると、そう簡単にはいかないぞ。」


「たぶんね。」


「……とにかく! 外をもっと歩き回ってこいよ!」

ドクエは必死でこの災厄を追い出そうとしていた。

「いつまでもここにいるなっての!」


「なんか魂力回復ドリンクとかありそうな気がしてさ。」


(……この子、マジでまた要求してきた!?)

しぶしぶ、ドクエは補給ドリンクを二本差し出した。


「これだけだ……もうないからな!」


「ふふ、ありがと。」


こうしてアイリの持ち物は、補給ドリンク+2本、スキル+1個となり、またも“転生の尖塔”を出発するのだった。


《チャージ》というスキルは、魔法使いにとってはぶっちゃけそこまで有用ではない。

発動に必要な魂力は、《シャドウアロー》と同じくらいだが、威力はなく、使い道は**移動速度の一時的上昇(2秒間で60%増加)**に限られる。


戦士タイプには便利だ。攻撃回避や奇襲に使えるし、敏捷性が高い職業だと相乗効果も大きい。

でも、魔法使いにとってはちょっとビミョーなスキルだ。


逃げるにしても、もともと鈍足の魔法職が2秒加速したところで大した距離は稼げない。

だったら高等魔法の《テレポート》でも覚えた方がマシって話である。


……が、アイリにそんなこだわりはなかった。

「学べるものは全部学ぶ」――それだけだ。


転生の尖塔の外の風景は、相変わらず変わり映えしなかった。

空は灰色、雲は厚く、陽光はどこにも差さない。

ここ“遺忘者大陸”では、昼間でもこの有様。年に数回あるかないかの雨が降る以外、ずっと陰鬱な世界だ。


そして夜になれば、さらに漆黒が広がる。

……が、不死者にとってその暗闇こそが、最も“視界が利く”時間帯だった。


空の奥、曇天の太陽が西に傾き始めるとともに、あたりの景色はさらに暗くなり――

アイリの視界はますますクリアになっていった。


「おかしいなぁ……なんでアンデッドいないの?」

夜になればアンデッドの活動も活発になるはずなのに、どこにも姿が見えない。


しばらく歩き回っても何も出てこない。

それが逆に、不気味だった。


ただ――ひとつ、明らかな“違和感”があった。


歩を進めるにつれて、あたりの“死の気配”が、明らかに――いや、異常なほどに濃くなってきていたのだ。


「なんか……変だよね?」


不死者としての直感が告げていた。

この一帯に、何かが起きている――

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