表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

第八話 予想外だらけのバイト?(1)

アイリが目を覚ましたとき――すでに二十日が経過していた。


旅の途中で吸収した「魂の炎」はすっかり消化され、体内のエネルギーもフルチャージ。炎は以前よりも勢いを増し、目覚めたアイリからは、まるで無限に湧き上がるような生命力が放たれていた。


……いや、不死者なのに生命力ってどうなんだろう。そこにツッコミを入れたくなるのも無理はないが、事実だから仕方ない。


もちろん、本人には時間の感覚なんてまったくない。完全な眠りの中では、どれだけ時間が経っていようと、不死者にとっては一瞬の出来事なのだ。


のそりと体を起こしたエリィは、すぐにある違和感に気づいた。


「ジル……は?」


本来なら枕元にいるはずの少女の姿が見当たらない。慌ててベッドを飛び降り、部屋の中をぐるりと見回す。


「どこ行ったの……?」


そのとき、机の上に一枚の紙切れを見つけた。


――『姉御! デルドのご主人のところでバイトしてきまーす! 心配しないでね!』


「……バイト、かぁ」


アイリは軽く髪を整えると、部屋を出ることにした。ならば、様子を見に行ってみよう。ついでに、自分も何か仕事が見つかるかもしれない。


宿のスタッフに場所を尋ね、途中で数人の忘却者に道を聞きながら進むうちに、他の建物の三倍はありそうな大きな邸宅にたどり着いた。外観自体は周囲と大差ないが、このスケール……どう見ても金持ちの住処だ。


なのに、門番ひとりいない。自由に出入りしてください感がすごい。……この町、治安良すぎでは?


アイリがそっと扉を開けると――


「デルドか? 戻ったのかい?」


中から、やや甲高い男の声がした。


だが、現れたのが見知らぬ少女だったことに気づくと、声の主は明らかに驚いた様子で続けた。


「んん? 君は誰だ? 今日はバイトの予定なんてなかったはずだけど?」


現れたのは頬がこけて頬骨がやや突き出た男だった。だがその瞳に宿る橙の光はやけに生き生きとしている。全身黒ずくめの地味な魔法使いのローブに、尖った帽子――絵に描いたような魔法使いである。


部屋の中は以前エリィが訪れた錬金材料店に似ていたが、スケールは二~三倍。道具の数も素材の数も桁違いで、その大半は見た目からして不気味なものばかり。しかし意外にも室内は明るく照らされていた。


アイリは周囲を見渡し、壁に取り付けられた魔法灯が光源であることに気づいた。不死者なら暗闇でも問題ないはず……これはきっと、ここの主――ジャネットの趣味だろう。


「友達を探しに来ました」


「友達? ここには私とデルドしかいないよ。君はデルドの知り合いかな?」


「デルドのことは知ってますけど、探してるのは彼じゃありません」


アイリは続けて言った。


「赤い髪の、小さな女の子……ジルって言います。ここでバイトしてるって聞いて」


「ああ、ジルか。思い出した。赤毛の小柄な子ね。最近よく手伝ってくれてるんだ。ほんと助かってるよ、他の人を探す手間が省けたからね」


「……で、今はどこに?」


部屋を見回してもジルの姿はない。彼女ならアイリの顔を見た瞬間に飛びついてきそうなものだが。


「デルドと一緒に材料集めに出かけてるよ。戻るまで、もうちょっとかかるかな」


ジャネットは後頭部をぽりぽりと掻きながら、ふと思い出したように言った。


「ちょうど材料が足りないところなんだ。よかったら、君も手伝ってくれないか? 見たところ新人っぽいし、バイトってことで」


「いいですよ。」


ちょうど仕事を探していたところだし、願ったりかなったりだ。


「じゃあ、この袋を持って材料店に行ってくれ! 『黒岩トカゲの眼球』を百個、頼む!」


そう言って、ジャネットは小さな袋をエリィに投げ渡した。


「金貨は足りるはずだよ、よろしくね!」


「了解っ!」


袋を受け取ったアイリは、かつて空間バッグを購入したあの店へと足を運んだ。


店主はジャネットの古い知り合いらしく、アイリの注文を聞くと、すぐに材料を用意してくれた。今回の買い出しでは、三立方メートルの空間バッグが大活躍。まだまだ余裕で詰め込める。


やがて、アイリは材料と残った金貨袋を持ってジャネットの屋敷へ戻った。


「……実は、もうひとつお願いがあってね」


再び後頭部をかきながら、ジャネットがそっと口を開いた。


「町の東に三十キロ行ったところにある“古戦場”って場所で、“巨人の骨”を拾ってきてくれない?」


「古戦場……巨人? それって何ですか?」


「ふむ、昔――“タイタン”って呼ばれる巨人の種族がいたらしくてね。今は絶滅してるけど、忘却者の大陸にはその遺骨が時々見つかるんだ」


「あの場所には、古代生物の骸が大量に眠ってる。運が良ければ、タイタンの骨も見つかるかもしれない」


「……材料店ではダメなんですか?」


「これは私の個人研究用だからね。少量しか要らないし、店にはまず置いてないよ」


「なるほど……」


アイリは頷いて、念のためにもう一度確認した。


「他に必要なものはありませんか?」


「今のところは大丈夫だよ」


「じゃ、行ってきますね」


アイリは扉を開けて出ていこうとし、振り返ってもう一度尋ねた。


「……東に三十キロ、で合ってます?」


「うん、そう。君が戻るころには、あの子も帰ってきてるはずさ」


アイリは静かにうなずき、ドアを閉めた。再び訪れる静寂。壁の魔法灯が「チチッ……」と音を立てて、微かに明滅していた。


――しばらくして。


材料をいじりながら、ジャネットがぽつりと呟く。


「あの子……新人だったよな?」


「……しまった、一人で古戦場に行かせるなんて……」


橙色に光る瞳が、不安げに揺れた。


「ま、まぁ……たぶん……大丈夫、だよね……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ