第五話 強敵、現る?(1)
三人はのんびりと話しながら、ゆっくりと歩みを進めていた。
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。
ただ、周囲の景色は徐々に変化を見せ始めていた。
最初は何もない荒れ地だった道に、今では時間の流れを感じさせる古びた建物の残骸が点在し始めている。
遥か昔、この辺りには生者たちの街があったのかもしれない。
そして、少し意外だったのは――
道中、他のアンデッドの姿がまったく見られなかったことだ。
それでも三人はそのまま歩き続け――
「……墓地?」
アイリの視界の先に現れたのは、無数の墓標が立ち並ぶ広大な墓所だった。
倒れたもの、割れたもの、風化し形を保てないもの――
それら全てに共通しているのは、「とても長い時間が経っている」ということ。
ここは明らかに、長らく放置された古い墓地だ。
死の気配が満ちるこのアンデッドの地においてさえ、この墓地から漂う気配は別格だった。
生者なら、たった一秒もこの場にいたくないと感じるだろう。
だが、三人のアンデッドにとっては、特に感想もなかった。
「こっちこっち~~!」
デルドが急に小走りを始める。
「えっ、あいつ走れるんだ……?」
ジルが驚きの声をあげた。
「私たちも行こう。」
「うんうん!」
二人もすぐ後を追う。
とはいえ、デルドの速度は走っているとは思えないほど遅かった。むしろ、ちょっと早歩き程度。
やがて彼は、墓地の奥深く――一つの倒れた墓標の前で立ち止まった。
「ここだよ。」
「ん~?」
アイリがあたりを見回す。
ここは墓地の最奥、朽ちた墓標のほか、地面にぽっかり開いた真っ暗な大きな穴があった。
エリィはその穴が少し気になったが、まずはデルドの目の前にある墓標に目を向けた。
倒れた墓標は地面に完全には密着しておらず、わずかに隙間が空いていた。
デルドはそれを片手で軽々と持ち上げ、そのままポイッと脇に放り投げた。
墓標の下には、黒よりもさらに深い色をした小さな草が何本か生えていた。
まるで死の気配を凝縮したようなその草の周りには、小さな黒い結晶がいくつも散らばっている。
「これが目的のやつか?」
「姉御、なんかすごく良さげな感じする~!」
「うん。この草も、まわりの結晶も、“死のエネルギー”が濃縮された特別な素材なんだ。」
「そのまま引っこ抜いていいの?」
「うん。草は根元から優しく抜いて。結晶のほうは……オレ、手がデカすぎて細かい作業が無理でさ。頼むよ~」
デルドがぶんぶんと太い指を振るたびに、その不器用さが際立った。
アイリとジルはしゃがみ込み、不要な雑粒を一粒ずつ取り除いていく。
「全部まとめてスコップで取っちゃダメ?」
エリィが作業しながら尋ねる。
「雑物が多すぎると、あとで怒られるんだよね……」
「この素材、何に使うの?」
その死の濃縮された気配は確かに感じるが、エリィには用途がよく分からなかった。
「錬金術で加工すれば、補給ドリンクとかになるらしいよ。」
「食べちゃダメなの?」
ジルが無邪気に首をかしげる。
「食べたらダメに決まってるだろ!?」
「……死の気配を精製できる魔法でも持ってれば別だけどね。」
デルドも錬金術の細かいことまでは知らないらしい。
(でも、確かに価値のある素材だ)
アイリはそう感じた。
「この結晶、必要な分はもう十分。残りは二人にあげるよ。村に持っていけば、結構いい物と交換できるかもね。」
「やるじゃん、大男!」
ジルがデルドの腕をポンポンと叩く。
「い、いや、そんな大したことじゃ……」
最終的に草は全部で八株採集できた。
デルドは背中の小さなバッグを下ろして、言った。
「これに入れてくれる?」
「このバッグ、特別な道具?」
アイリは中を覗きながら聞く。
「これは《六区バッグ》だよ。」
「ろっく……?」
「知らないの?」
「初耳だよ!」
ジルが首をぶんぶん振った。
「簡単に言えば、空間バッグ。一区画=1立方メートルで、六区分入るってこと。まあ、よくあるタイプのやつさ。」
「へえ~、便利だね。」
「ところでさ、あの穴って何?」
アイリが脇にある闇に続く大穴を指差す。
「あれはね、《地下墓穴》の入り口だよ。」
「地下墓穴……?」
「ここの地上墓地なんて、ほんの表面部分に過ぎないんだ。
本当の核心は、あの地下に広がってるんだよ。」
「そこには……何があるの?」
アイリの好奇心が、一気に火をつけられた。