第四話 そのトロールですか?(4)
デルドは、どこか可哀想だった。
……ただ素材を探しに来ただけなのに、エリィにボコボコにされたのだから。
「姉御~、手伝ってあげよっか?」
「まぁ……別に断る理由もないしね。」
アイリは少しだけ考えたあと、コクリと頷いた。
村はもう目と鼻の先。そんなに急ぐ理由もない。
それに、彼――この妙に気になるトロールには、少し聞きたいこともある。
「ありがとおおおおっ!」
小さなゾンビ二人が助けてくれると聞いたデルドの顔に、ぱあっと感激の笑みが浮かんだ。
(とはいえ、あいかわらず顔は不細工だ。)
デルドはくるりと振り返り、元来た道をのそのそと歩き出す。
「それじゃあ、ついてきてくださーい。」
「うん!」アイリとジルは軽快に後を追った。
――ただし。
デルドの足が、めちゃくちゃ遅かった。
前にここまで来るのに30分近くかかっていたし、その速度は時速1キロにも満たないだろう。
だが誰も文句を言わなかった。
アンデッドにとって、時間だけは腐るほどあるのだから。
そんなのんびりした空気の中、アイリがふと思い出したように声をかけた。
「ねえ、デルド。」
「ひ、ひゃいっ!? な、何でしょうか……?」
どうやら、スコップのトラウマがまだ癒えていないらしい。
「アンタ、遺忘者じゃないよね?」
「うん、そうだけど……?」
「ただのアンデッド? それならなんで遺忘者の命令を聞いてるの? 同族じゃないんでしょ、普通は殺し合うもんじゃないの?」
「それは、まぁ……言ってることは正しいけど!」
デルドは頷きつつ説明を続けた。
「でも、オレは人工アンデッドなんだ。」
「どういうこと?」
「オレはね、トロールの死体にいろんなモンスターの死体を縫い合わせて作られた合成アンデッドなんだ。」
「えっ、じゃあ大デブ、トロールじゃなかったの!?」
ジルが目を丸くする。
「違うよ。」
「体は主人が縫い合わせたものだし、魂火だって別のアンデッドから移植されたんだ。
だから……どっちかって言うと、錬金ゴーレムに近いかな。」
「そこまでできるのか……!」
エリィは感心したように呟く。
「じゃあ、なんでその主人の言うこと聞いてんの?」
自分は転生の塔から生まれたけれど、導師の命令なんて聞く必要はなかった。
エリィには、「命令に従う」という発想自体がピンとこない。
「えっと……だって、オレはその人に作られたから!」
「それだけ?」
デルドはバツが悪そうに顔をしかめ、さらに説明する。
「……主人がオレの魂火を移植する時、深層に“刻印”を施したんだ。
そのせいで、どうしても命令に逆らえなくなっちゃって……」
その言葉を聞いた瞬間――
アイリの口元に、ふわりと“悪い笑み”が浮かんだ。
「へぇ……ってことはさ、命令されたら何でもやるってこと?」
「う、うん……命令さえあれば、何でも……」
ゾクッ。
デルドの背中に、寒気が走った。
目の前のちっちゃなゾンビ――
その笑顔が、あまりにも“悪役っぽすぎる”。
「じゃあさ、その“刻印”ってやつ、詳しく教えてくれる?」
「えっ……? あ、はい、わかりました……」
アイリはそのまま、にじりにじりとデルドに歩み寄っていく。
その姿はまるで――
黒い扉を、今まさに開けようとしているかのようだった。
デルドの心に、不吉な予感がよぎったのは言うまでもない。