第四話 そのトロールですか?(3)
「わぁ……姉御、すっごーい!
あんなデカブツ、一人で倒しちゃうなんて……!」
「ん~、でも運が悪かっただけかもよ?」
「……ところでさ、なんであの内臓、こぼれ落ちてないの?」
「さぁ……じゃあ試しにスコップで掘ってみようか?」
「ちょ、やめといたほうが……なんか出そうで怖いよ!」
「そ、そう言われると……ちょっとグロそう……でも――」
「姉御!なんか……あいつ、動いたっス!」
「ほぇ?」
さっきまで倒れていた不死トロール、実はとっくに目を覚ましていた。
(このまま寝たフリしてれば、そのうちどっか行くだろ……)
……なんて思っていたら、
まさかの“スコップで臓物をいじられそうになる”という恐怖展開。
「ひいっ!!」
ガバッと目を開いた瞬間、目の前にあったのは、鋭く光るスコップの刃――
青い髪のちっちゃい死体が、恐ろしい笑みで口を開いた。
「アンタ、誰? 何者? ここで何してるの?」
怒涛の三連質問いっきにぶつけられ、
トロールは頭がショート寸前。
アイリ自身も、戦闘中の様子から“こいつ敵意ないな”とは感じていた。
だからこそ魂の炎も吸収せず、様子を見ていたわけで。
とはいえ、相手が敵じゃないって断言できるまでは油断できない。
だって――この世界じゃ、不死者同士でも食うか食われるかが基本ルールなのだから。
実際、魔法も力も――
どちらでも自分はこのトロールに勝ってなかった。
トロールを気絶させた最後の一撃――
正直、あれは……運が良かっただけだった。
というのも、スコップのエンチャントがたまたま発動したのだ。
発動確率わずか5%の「二倍ダメージ・クリティカル」。
「ちょ、ちょっと待って! 頭がついていかないんだけどおおおっ!」
トロールは今にも泣き出しそうな顔で懇願した。
アイリはスコップを肩に担ぎながら、つかつかと近づいて――
「で、アンタ、誰?」
「お、オレ……デルドっていいます……パッチワーク・トロールです……」
「よっ、あたしはアイリ。」
「ジルだよ〜っ☆」地面からぴょこっと、元気よく手を挙げるちっちゃなゴブリン娘。
デルドはあたりをキョロキョロと見回し――
「……あれ? どこどこ?」
アイリはスコップの柄でデルドの腕をトンッと叩いた。
(ほんとは頭を叩きたかったけど、トロールの身長が高すぎて届かなかった)
「……下見な。」
「――あっ! ちっちゃいゾンビちゃん!」
「姉御ぉっ! このトロール、わたしのことバカにしてるよっ!」
「ジルをいじめるのは禁止。」
アイリがスッ……と殺気を放った瞬間、
「ひぃっ! は、はいぃっ!」
「それで、アンタここで何してたの?」
「――あっ!」
デルドの目がギョロリと見開かれた。
「や、やべぇ! ご主人の命令、忘れかけてた!」
「ご主人?」
「うん……この近くの忘却者の村にいる錬金術師さ。その人に“素材を探してこい”って言われてて……」
「ちょっと待って、それって……」
アイリの目が輝く。
「この辺に忘却者の村があるの!?」
「うん、少し歩けば見える距離だよ。」
「やったぁ!!」
「最高だよ姉御っ! やっとベッドで寝られるっ!」
かつての“生きていた頃”の習慣が残る忘却者にとって、快適なベッドは憧れなのだ。
デルドは何か頼もうとしていたが――
テンション爆上がりのエリィ&ジルの勢いに完全に押され、口を挟む隙もなく……
そのままふたりは、わいわい話しながら村の方向へと歩き出した。
デルド、置き去り。
「ちょっ、ちょっと待ってくれええええええ!!」
後ろから、情けない声が響いた。
「ん? どうしたの?」
振り返ったエリィに、デルドは泣きそうな顔でこう言った。
「た、頼む……お願いだから……ちょっとだけ、手伝ってくれない?」
「整形手術?」
「ちがあああああう!!」
「じゃあ何?」
「さっきも言ったけどさ……素材、探してるんだよ。」
「うん。」エリィはコクリと頷いた。「それで?」
「見つけたには見つけたんだけど……俺の手、でかすぎて……細かく取り出せないんだよ……」
「ああー、なるほど。じゃあ、なんで最初に言わなかったの?」
ジルが首をかしげながら問いかける。
「言おうとしたんだよっ!!」
デルドの顔、すでに崩壊寸前。
「だって……会っていきなり、殴られたんだもん……!!」