【短編】ちょっとした誤解で魔力なし判定されて無能扱いされていたけれど、傲慢な母と姉に実力の差を見せつけてやりましょう。
前世は至って普通のオタクのOLだった私は、物心ついた頃には、異世界転生者と自覚していた。
冷静に自分の環境を分析し、現世では貴族であり、父親はいないらしいと思っていた。
その理由は、住んでいる屋敷には祖母と母親と私の一つ年上の姉しかいなかったからだ。
家族の仲は、良好とは言い難い。とはいえ、私だけが仲間外れって感じである。祖母と母親と姉が、三人だけで和気あいあいとしているのだ。冷静沈着で大人しい私よりも、愛嬌たっぷりの姉の方が可愛いのだろう。同室にいても、私は放っておかれがちだ。
貴族らしく家族でお茶会をしても、会話の中心は姉。優先的にドレスを仕立てるのは姉。
欲しがればそれは、姉のものになる。姉が嫌がれば、それは私に押し付けられる。
美味しいお菓子、嫌いな野菜。可愛いドレス、要らない帽子。
嫌がって作法の授業を飛び出しては、私だけに任せたり。
家では、姉が中心人物であった。
こういう家族なのだと思えば、特段寂しい思いなんてしない。私は前世持ちだということもあり、家族に愛されていないと泣くような純粋な子どもでもなかった。
前世よりも遥かに裕福な家に生まれたし、衣食住には困らないなら別にいい。
それよりも、異世界だけあって、魔法が現実にある。それに夢中になるのは当然だった。
ただ、子どもには早すぎると教師に諫められたので、家の者が姉に付きっきりの隙に、こっそりと練習をしたのだ。こそこそと図書室から魔法関連の書物も読み漁って、家族とは別に過ごす時間が多くなった。
ある日のこと。
見慣れない男性が廊下を歩いていた。
「シェアリン。元気か?」
私の名前を呼んでそう笑顔で話しかけられたから、首を傾げてしまう。
「どなたですか?」
と思ったことを素直に問うと、彼はショックを受けた顔をした。
それは、私の大失態となったのだ。
すぐにその男性が実の父親だと知ることとなった。ショックでふらつく彼を使用人が「旦那様!」と呼んだからだ。父親は、健在だったのである。勝手に他界しているとか思ったのは、私の早とちりだった。
私はピンクの癖っ毛。その男性も、同じピンクの癖っ毛だった。
よくよく使用人に尋ねてみれば、私が寝ている時に顔を見に来てくれたこともあるそうだ。
いや、知らない。勝手に父親の遺産があって、それで生活出来ているとばかり思っていた。
父親は、婿養子らしい。必死に働いているのだが、祖母や母も稼がせているくせに、見下している節があり、話題にも出さなかったのだ。なんて家なんだろう……。
久しぶりに会った末娘に誰と言われたら、ショックも大きいだろう。謝っておかなくては。
そうは思ったのだけれど、それ以来、父親は家に寄り付かなくなってしまったのである。会えなくなってしまった。
もしも夜に帰ってきたら手紙を渡しておいてほしいと執事に頼んだが、それも渡されることもなかった。
完全にやらかした……。
姉をちやほやする中心に参加する気もないし、父親とわざわざ疎遠になる理由もない。同じように蚊帳の外だし、程よく仲良くしておきたい。
しかし、父親は小心者らしく。一度傷つけるような言葉を放った私に警戒。家に帰ってきても避けて避けて、逃げ惑う。手紙も受け取ってくれない。詰んだ……。
そうこうしているうちに、魔力量の鑑定を受けることになった。
五歳になると、魔力量を鑑定する儀式が行われるのだ。
一つ年上の姉は一足先に魔力鑑定を受けていた。判定結果は、結構魔力量が高い、と出たらしい。
故に、母親は同じような結果を期待していた。
しかし、私の結果は【魔力なし】だったのだ。
これはおかしい。こっそり魔法を使って練習もしていたのだ。普通に発動した。
だから、この結果はおかしいと言おうとしたが、立ち会った母が烈火の如く怒り、罵って、そんな暇ももらえなかった。
その後、私は祖母と母と姉に「能無し」と罵られて、そして使用人にまで冷遇される羽目となる。
私が正真正銘の五歳児だったら、泣きじゃくっているところだろう。
けれども、私は前世持ちである。メンタルが強い異世界転生者でよかった。
「しょうもない人達」
幼い子どもに対する仕打ちに、呆れ果ててしまうだけ。
質こそだいぶ下がったが、衣食住は辛うじて確保されているので、生活は出来た。
自分なりに、どうして【魔力なし】の結果が出たのか、調べた。
いずれ独り立ちをすることを目的にし、密かに図書室で学んでいた私は、そのうち精霊の存在を知る。
その存在ならば、魔力鑑定道具に細工が可能。
でも理由がわからない、と首を傾げる。私を【魔力なし】に仕立て上げる精霊の動機がわからない。
精霊に会ったこともないしね。しかし、精霊は目視出来ない状態にもなる。もしかしたら、会っているかも。
けれども、そんなある日。
屋敷の敷地内で、黒の子犬と出会った。
傷ついていたので、覚えたての治癒魔法で治す。使用人の目も少なくなっている今、簡単に子犬を入れられた。ミルクをくすねて与えた。姉が嫌がって押し付けられた質素なクッキーも興味を示していたので、様子を見ながら食べさせた。全部食べちゃった。
数日面倒を見ていたけれど、それだけで元気になった。
「君、本当に子犬?」
そう問いかけたのは、子犬があまりにもトイレをしなかったからだ。飲み食いはするのに、生理現象は見せない。これは本物の犬ではないと気付いた。
黒の毛並みと黒のつぶらな瞳の真っ黒な子犬の姿。
「我は精霊だ」
ケロッと口を聞いた子犬から、少年のような声が響いた。
「精霊なんだ。改めて、初めまして。私はシェアリン」
「シャテンだ」
「どうして怪我をしていたの?」
「悪い人間にやられただけだ。治療してくれたお礼を言う。ありがとう」
「どういたしまして」
冷静に淡々と子犬姿の精霊と言葉を交わして、お礼を受け止める。
「人間にも色々いるものだな。こんな子犬を虐げるし、幼いお前のことも冷遇する。冷遇されていても、傷ついた子犬に手を差し伸べて世話するお前」
精霊は人間に興味はあるが、魔法生物だからこそ、人間の常識に疎いところがあるらしい。色んな人間がいるのだと、しみじみ思っているシャテン。
「ねぇ、聞きたいことがあるのだけれど」
と、私は魔力量鑑定に細工する精霊の動機に、心当たりはないかと尋ねてみた。
「さてな。その細工をした精霊の動機はわからん。だが、魔力量を鑑定する道具に人知れず細工出来るのは、やはり精霊ぐらいだ。妖精には無理だからな」
妖精も実在するが、同じ魔法生物であっても、精霊なら可能だという。
結局、精霊の仕業だと確信はしたけれど、やはり動機はわからずじまい。
「幼い精霊は人間の常識や知識が浅く、度々問題を起こすこともあると聞いたことがある」
「ああ、それなのかな。精霊の悪戯の被害。でも困ったなぁ……【魔力なし】って判定されたから、魔法の教師をつけてもらえなくて学べないんだよね……。独学しかない」
魔力がないなら必要ないって、教師をつけてもらえなくて、図書室で学ぶしか出来ていない。
「ふむ。では我が教えようか?」
「いいの? お願いしたいな」
シャテンがいい提案をしてくれた。手を差し出してくれるなら、その手を取る。魔法学びたいし。
図書室の本だけでは学べない魔法を、精霊から学べて有意義な時間を過ごせるようになった。
放っておかれているので、自由時間は多い。
たまに要らないものを押し付けに来たり、ストレス発散したいのか罵りに来たりすることもあるので、それ以外の時間は魔法練習に注ぎ込んだ。魔法が使えることを知られてはめんどくさそうなので、魔法が使えることは隠している。
また、ある日のこと。
使用人達が全く帰らなくなった父親のことを話題にしていた。そんな話題の中で、父親には魔法契約をしている精霊がついているということを知る。魔法契約とは、協力関係を結んでいる証のことだ。
それをシャテンに話した。
「お前の父親の精霊が、鑑定道具に細工したと言いたいのか? なんのために?」
「ん~、それには心当たりがあるんだよね」
あくまで予測の範疇でしかないが、私は答えておく。
物心ついた頃に前世を思い出したことから始めて、父親を傷つけてしまったこと。その仕返しに悪戯をしたのではないか。
「ふむ。幼い精霊が独断でしたのなら、【魔力なし】と判定された子がどんな待遇になるかも知らなかったかもしれぬな」
「そうかな……。はぁ、まぁいいけど」
私は、本当に大失態をしてしまったのだろう。
これが父親が望んで行った復讐ということならば、修復は不可能だ。それほどに怒っているというなら、きっとこちらの言い分も聞いてもらえないだろう。
もう一度、ため息をついてしまうのも無理はない。
やがて。
「無能は出ていきなさい!!」
紫のツインテールと豪華絢爛なドレスを着た姉、シーリアン。
冷遇されていた私はついに本邸から追い出されて、離れに追いやられた。
「魔法が使えると明かした方がいいのでは?」
ちょこんと隣におすわりしているシャテンが確認してくる。
「面倒だからやめておくよ。関わる方がストレスだもん」
「しかし、貴族令嬢なのに一人追いやられて生活出来るのか?」
「前世で一人暮らししてた経験があるから大丈夫」
貴族令嬢だからこそ、使用人相手には強気に振舞えば、食材だけでもいただく。
そうして、離れのキッチンで一人で調理をして、食事を確保した。
本邸を出入りして、食材を運んだり、図書室に入って、本で学んだりしたのだが……。
「【魔力なし】のくせに魔法を学ぼうとしているの!? そんなことしても魔力は出てこないわよ! このバカ!!」
姉のシーリアンに見つかってしまって、罵られた。
「お母様に言って、出禁にしてもらわないと! アンタみたいな無能に、本は勿体ない!!」
それは困る。がしかし、家を牛耳っている母親の言葉は絶対。
シーリアンと同じことを言い放ち、母親は私に図書室の出禁を言い渡した。
……マジ困る。まだ書物で学びたいこともあったのに……。
「困った」
「だから明かせばよかったんじゃないか? シェアリンが本当は魔法を使えるって」
シャテンに言われたけれど、今更言っても感が拭えない。
あの頭ごなしに無能呼ばわりして虐げてくる家族に、何を言っても無駄だろう。
魔法学びは、シャテンから教えてもらうだけになった。それとひたすらの練習だ。
さて。どんどん人生がハードモードになってきた。これからの人生計画を見直さないと。伝手のない少女に、外で生きるのは正直言ってベリーハードだろう。
そうして、10歳になった年。
離れに見たことがない美少女がやってきた。黄緑色のドレスはミニスカートで、細い脚を晒している。14か15歳ぐらいの美少女の瞳はペリドット色。そんな美少女が目を吊り上げて、私を睨んでいた。
シャテンに慣れた私はすぐに気付く。彼女は、精霊だ。
こうして睨んでくるというのならば、件の父親の精霊に違いない。
「あなた、まだ父親が嫌いなのかしら?」
仁王立ちする美少女の姿の精霊は、そう問い詰めてきた。
「嫌いも何も、まともに知らないから、なんとも言えないわ」
と、しれっと返す。
「あなたでしょ。私の魔力鑑定に細工した精霊」
「そうよ! あんなに可愛がってあげたのに! なんであなた達家族は、彼を蔑ろにするのよ!!」
憤怒する美少女精霊は、予想通り、父の代わりに仕返しをしたと自白した。
祖母や母や姉と同類にされては堪らない。そのせいでこんな目に遭うのも許せない。
きちんと自分の言い分を話し、そして美少女精霊がやらかしたことは”悪戯”ではすまないものだったと、教えてやろう。そういうことで、私は年上の姿をしている美少女精霊に、物心がついた頃には父親の記憶がなかったこと、傷つけてしまったのはわざとではなかったことをこんこんと説明した。
大黒柱の父親を蔑ろにする祖母や母親や姉に、【魔力なし】と判定されれば、どんな目に遭うのか。元々、祖母や母や姉のせいで、物心がついたばかりの私は父を知りようもなかったことも付け加える。
真っ青に青ざめた美少女精霊は、慌てた様子で飛び出していってしまった。
「帰っちゃったね」
「父親を呼びに行ったのではないか?」
「……来るかな、父親」
「転機になるだろうな」
ここで父親がやってこなければ、それまで。でも、やってきたら変わる。
大人しく離れの玄関で待っていれば、久しぶりに見る自分と同じ癖っ毛のピンク頭の男性が呼吸を荒くして駆けつけてきた。
「シェアリン! すまない! 僕のナンシーが本当に! ああ! すまなかった!!」
顔色悪く必死に謝ってくる父親に、とりあえず「中で話しません?」と離れの中に招き入れる。
大したもてなしは出来ないが、席についてゆっくり話すことにした。離れで一人お茶の準備をする私を見て、父親の顔色はますます悪くなり「僕も手伝うよ」と手伝ってくれる。その間、ナンシーと呼ばれた美少女精霊は、しょんぼりと俯いて立ち尽くしていた。
事の真相が明らかとなる。
父親は元々、先代の当主に望まれて、この伯爵家の婿養子となって仕事をこなしていたのに、子爵家の出だと私の祖母である先代夫人に見下され続けて肩身の狭い思いをしていた父親にとって、まだ幼い私は心の癒しだった。
しかし、会わないうちに、父親なのに知らない人扱いをされてショックを受けた彼は、もう傷つきたくないがために避けに避けまくり。
【魔力なし】判定により、母親にもつらく当たられて、私本人にも自分のせいだと責められると思い込み、また避けに避けまくってしまった。というのが事の顛末だった。
「ナンシーが【魔力なし】にして申し訳ない。こんな離れに追いやられて一人で生活する羽目になっているなんて……本当に申し訳ない、シェアリン」
深々と父親は頭を下げる。ナンシーも頭を下げて「ごめんなさい……」と小さな声を絞り出した。
「いいですよ。すれ違いですし、しょうがない」
「しょうがないで済ませられない。大事な末娘がこんな冷遇を受けているんだ……。僕も大人げなく避け続けて申し訳ない……」
「もういいですよ」
「いや、だめだ。このままではだめだ。離れを出て、僕と暮らそう?」
「お父様と暮らす?」
「うっ! お父様……!」
胸を押さえる父親は、お父様呼びに感動した様子。
記憶にある限り、初めてのお父様呼びだ。オーバーリアクションも無理はない。
「実は今、別邸で暮らしているんだ……」
完全なる別居状態だったのか。まぁ、あんなに見下して貶すような家族がいる家には帰りたくないだろう。別の家に帰るのも無理はない。
「言いづらいのだけれど……外に出ていないシェアリンは知らないだろうが、今やデアリンは君が【魔力なし】だと嘆き、代わりに姉のシーリアンは優秀だと言い触らしているんだ」
さらに申し訳なさそうに言うのは、要因を生み出したのが自分の精霊だからだろうか。
デアリンとは、母親の名前である。母親が外で言い触らしているそうだ。外でも私を貶しているということ。それがお父様の耳にも入っているのだろう。
「あたしは反対なんだからね。あたしのせいだけれど……だからって、家族を貶していいわけがないじゃない! そうでしょ!? ルシンが頑張って働いてきたというのに、蔑ろにして! あんな家族の元に戻るのは反対よ! ここにいても欲しくないんだから!!」
ナンシーは精神的にも幼いようで、その場でダンダンと地団駄を踏んだ。
母親達と同居という選択肢は猛反対だそう。私もごめんである。今更和解なんて無理だ。
ルシンというのは、父親の名前である。
「あいつら、ルシンを貶すくせに、ルシンの功績でちやほやされていい気になっているのよ!? 許せないでしょ!?」
プンスカするナンシー。
ほとほと呆れる。根本的に、人間性がよろしくない。
「シェアリン……僕と暮らしてくれるか?」
改めて、お父様は提案してきた。自信なさげに眉を垂らしている表情は、弱々しい。
シャテンが言っていたように転機だ。事態は好転。父親と和解が出来るならする。その結果が、父親との同居というのなら受け入れよう。
「よろしくお願いします。お父様」
「……ああ!」
承諾を告げると、お父様は喜色満面になった。
お父様の別邸は、伯爵家よりも豪華なものだ。すごく綺麗だと感想を告げて、買ったのかと尋ねる。
そうすれば、仕事のお得意様に勧められて安く買ったとのことだ。
中には使用人もいて、清潔に保たれていた。
お父様と同居してわかったことがある。お父様は人望が厚い。
姉のお古のドレスばかりだった私は、一から仕立ててもらうことになったが、仕立て屋がまたお父様のお仕事のお得意様繋がりだった。仕立て屋のマダムは事情を聞き、同情をしつつも、父親似の私を絶賛して対応してくれた。
別にそのままでもよかったのに部屋のコーディネーターまで手配をしてくれたし、そのコーディネーターもまたお得意様の紹介。お父様と和やかに話している姿を眺めた。
特に魔法の勉強をしたい私のために、お父様は教師も手配してくれたのだが、その教師もお得意様繋がりの紹介で勝ち取った有名な方々ばかりだった。
「お父様は素晴らしい方なんですね」
と、そんな感想を抱いたので、その方々に溢したら「とても性格のいい娘さんだ」と驚かれた。
私としては常識人だと自負しているが、母親と姉が悪名高すぎてお父様の関係者一同のヘイトを買っているらしい。末娘の事情を聞いてから会ってきたが、会話をしての結果「とても性格のいい末娘」となったとのこと。
別邸には、教師以外にもお父様の仕事仲間も訪問してくる。ついでのように、私と接触して見極めてこようとするので、対応に追われた。
そんな訪問者の中で、一番若いのはちょうど同じくらいの少年だ。どこかの高位貴族らしく、護衛をつけてきた少年は、藍色の髪と青色の瞳の美少年。
「同い年だし、同じ精霊持ちだし、仲良くしようよ」
「私はシェアリンです。あなたは?」
「…………」
名前を尋ねたら、にこりと笑顔ではぐらかされた。
なんなんだ、この人。
そんな不思議な交流を求めてくる彼にも、魔法を学んだ。とても有意義で大満足な生活になった。
お父様との仲も良好だ。色々と出掛けて、手を繋いで歩いていったり、一緒に笑いあったり。普通の父子として仲良く過ごした。
それはお父様にとって、とても感動した出来事だったらしく、お酒が入った時に泣き上戸になったという。
ナンシーが「あなた、ルシンを泣かせたわね!?」と寝ている時に突撃してきたので、泣き上戸の父がお客様と飲んでいるところを発見した。
「シェアリン愛してるよぉ~僕の愛娘ぇ~!」
「はいはい、私も愛してますよ、お父様」
泣きすがるお父様を介抱する私を見て、お客様は微笑ましそうだった。
「シェア~、今日も魔法対決しよう」
「ライ。毎日のように来て、暇なんだね」
「シェアに会いたいから」
「ああ、そう」
まともに名乗らない少年のことは『ライ』と呼んでいる。ライという愛称の名前の高位貴族となれば、だいぶ絞れてくるが、本人が名乗らないので気付かないふりをしておく。
シェアと愛称をつけて呼ぶほどに親しくなったのも無理はない。なんせ毎日のように遊びに来るのだから。
「そうだ、シェアに聞こうと思っていたんだけれど、魔法学園に通わない? 魔法職を目指すなら、魔法学園の入学は有利になるよ」
「魔法学園……」
ライに勧められたが、私には懸念点があった。
すでに姉も入学しているため、あの姉のことだから、【魔力なし】の無能妹と吹聴しているだろう。トラブルは避けられない。
私も進路を考えると魔法学園入学がいいのだろうけれど、一先ず、お父様に相談した方がいいだろう。
その日のうちに、お父様に相談した。
悩みに悩んだ様子を見せて、お父様は爵位をもらえるという話をしてきた。
功績により、今より上の爵位。侯爵位を授かれるという。
「母達がつけ上がりそう」
という率直な予想を口にすると苦い顔をするお父様。
今までの母達を見れば、喜びはするが、父への態度は変わらないはず。それは、恐らく無能扱いされてきた私に対しても、だ。
「お父様。もう見限るべきだと思います」
率直な意見を告げる。
プライドだけが高い母達は、変わりっこない。このままでは、稼いだお金も、功績も、名誉も、搾取されるだけなのだ。
政略結婚であっても、当主であり、夫であり、父親であるために、お父様は我慢してきた……。
最早、被害者は、無能扱いされて、社交界にも貶されている末娘の私もだ。
だから、決断を迫る。
離婚をすることを。
「うん……そうだね。離婚しようと思う」
お父様は、ようやく決断をした。
お父様が離婚を決断したことに、周囲は手放しで喜んだ。
その決断のあと押しをした私も褒められた。正直言って、大物ばかりの周囲に慕われているお父様を、見下す母達を私も許せそうになかったのだ。
幸いにも、姉の婚約者が婿入りになることは決まっていて、離婚自体は「優秀な跡取りの婿がいるので結構!」の一言で決定。
呆気なく、離婚は成立。
母達は、無能な父と末娘を追い出したと満足げだった。
そんな様子に呆れ果てつつも、伯爵家と縁を切った証明として、私もお父様もサイン。お父様が侯爵になるなど、もちろん、まだ明かさなかった。
お父様は旧姓で侯爵位を賜ったので、籍に入っている私も名前が変わる。
改めて、シェアリン・ルーチェ侯爵令嬢となった。
それから、魔法学園への入学のために猛勉強。
翌年の春から、無事入学が出来た。
しかし、普通に試験合格したというのに、【魔力なし】と吹聴されていた私への目はやっぱり冷たい。
離婚のことで姉のシーリアンは悲劇のヒロインを演じていて、さらには伯爵家の跡取りになる婿養子予定の姉の婚約者が「離婚に追い込むまで家をめちゃくちゃにして、不正入学までして、最低だ!」と、廊下で指差し、叫んだ。
「なんのお話ですか?」
「とぼけるな! 家では酷い癇癪を起こしていたとも聞いているぞ!! 昔から聞くに堪えないことを聞いていたんだからな!!」
はぁ、とため息をつく。そんな法螺まで吹聴していたのか。
「家の中で、私を見たこともないくせに、何を仰っているのですか? 私は冷遇されて離れに閉じ込められていたのですよ。離婚はそんな私への仕打ちも理由なんですけれど、それは聞いていないですか?」
注目を浴びているし、冷遇されていたことを暴露してやった。離婚理由も、私への母や姉の仕打ちも含まれていると。
まさか口答えをすると思わなかったのか、青ざめるシーリアンだが「いい加減なことを言うな!」と真っ赤になった姉の婚約者。
「僕の婚約者を侮辱するな!! 決闘だ!!」
事実を言っただけなのに、姉の婚約者は決闘を申し込んできた。
「もっとも! 【魔力なし】では、受けるに受けれないだろうが?」
「いいえ? 引き受けますよ。決闘」
絶好の機会のため、私は引き受けた。
そこに、ライが現れる。
「じゃあ、オレが決闘の立ち合い人になるよ」
「ら、ライオネル殿下ッ!?」
注目をしている生徒達が、口々に第二王子だと言う。知っていた。社交界に顔を出していないけれど、流石に王族の名前は知っている。想像はついていたから、特に驚かないが。
「王子だったんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「あなたは名乗らなかったわよ。わざとでしょ」
第二王子のライオネル殿下のライは、なんだかご機嫌な様子だった。
「では、学園長である私も立ち合いましょう」
第二王子まで加わり、騒ぎは大きくなり、学園長が立ち合いの元、決闘が行われる。
まだ授業も始まっていないのに、新入生が魔法の決闘を行うことに、一部の教師が反対していたが、学園長はにこやかに決行。その学園長は、私の魔法の教師の一人だったりする。魔法学園の学園長が魔法の教師なんて、お父様の人望の厚さはすごすぎだ。
姉の婚約者と、魔法の決闘。見物人は、大勢。
挑発で、指をくいくい。先手を譲る。
身を拘束する植物を操ってきたが、私は風で切り裂いた。
【魔力なし】のはずの私が、魔法が使えたため、驚愕するシーリアンや姉の婚約者達。
「この程度? 優秀な跡取りの婿入りだと聞いていましたが……無能扱いされている私に、勝てないのでしょうか?」
と嘲笑う。ちゃちな挑発だ。
この際だから、派手かつ繊細な魔法を披露してやった。魔法学園の新入生とは思えない、優れた実力に見物人は息を呑んだ様子だった。
決闘は、私の圧勝。
「あり得ない!」と、金切り声を上げるシーリアン。
妹を無能だと悪口を言い触らしていたため、彼女への周囲の目は冷たい。
私への見る目も変わり、一目置かれる新入生となった。
ライは一切気にすることなく、私の隣をついてくる学園生活。
交流するのは、お父様繋がりで信用のおける貴族令嬢や貴族令息に、侯爵令嬢だとしても臆さないし偏見の目を持たない平民の生徒くらいだ。ライは常に一緒にいたけれど、学園生活は順風満帆だった。
お父様が初めての侯爵家としてのパーティーが行われることになった。
侯爵となった父の初めてのパーティー。彼の人望がよくわかる大物揃い。
大物相手はともかく、パーティー主催は疲れるな、と思っていれば、母と姉が乗り込んできた。
「なんで侯爵位!? ふざけないで! その爵位は我が家のモノよ!」
金切り声を上げる。
お父様を慕う大物ばかりのため、パーティー会場に冷気が漂う。
「アンタが侯爵令嬢なんてあり得ない!」
姉も金切り声。母達の傲慢さに呆れ果てる。
「ここは侯爵が爵位を授かった祝いのパーティーだ。本来、伯爵家は関わらない契約をしたにも関わらず、契約違反をしたため、処罰を受けてもらいたいが、今は退場願おう」
離婚の時の契約に立ち会った高位な弁護士が告げた。
確かに、祝いの場。修羅場で台無しにするわけにはいかないと、父の代わりに、使用人に指示をする。
「これじゃあ、場が悪いね。いい機会だし、盛り上げようか」
「?」
そばにいたライが、言い出した。
かと思えば、私の前に、跪いた。
「オレと結婚してください」
と、無邪気にプロポーズ。
一番驚いたのは、お父様であり、結局、卒倒してしまった。
没ネタを短編にサクッと書き上げました。
サクッと楽しめたら幸いです。
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2025/04/09◇