9 できない花音
「おはよう。起きて」
三人はリフォアナから声をかけられる。
「……夢じゃながっだ」
おりかが起きたての、がさがさとしたかすれた声で言った。
その言い方に、莉央と花音は思わず笑ってしまった。
「夢なわけないじゃない。これが現実。今日は三人の能力をどう使っていくか、果たしてどれくらいの力が使えるのか確認させてもらうわ。現し世とは能力の出方が違うと思うし。その能力に、どれくらい私の魔法を織り込むことができるのかも試さないと。さ、起きて。やることがいっぱいよ。異世界へ出発するのは、一カ月なんだから」
「「「一カ月?!」」」
三人が驚いて同時に叫ぶ。
「そうよ。一カ月後よ。グラダナスさまは、明日にでもとおっしゃっていたけど、私がお願いをして一カ月後にしてもらったの。一カ月でどこまで実際に使える能力にもっていけるか分からないけど。あー不安。不安でしかない。でもやるしかないわ。さ、朝ごはんを食べたらすぐに準備を始めるわね」
リフォアナは早口でそう言うと、三人を朝食が用意されているダイニングに案内した。
朝食を食べ終わると三人はリフォアナからそれぞれ集まる場所を指示され、そこで待つように言われた。
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最初に指名されたのは花音だった。
朝食が終わるとそのままダイニングで待っているよう言われた。
少し待っていると、リフォアナがなにかを手に持って部屋に入ってきた。
リフォアナの腰まである深い森の木々の葉のような深い緑の髪が、朝日に照らされてほのかに光を発しているようだった。
「花音。この髪留めを触ってみて。なにが見える? 感じるって聞いたほうがいいのかしら」
「んん。戦ってる? バトルしてる場面が見える。んー。髪留めの持ち主は……リフォアナさんだわ」
「そう正解。じゃ、その次。その髪留めから私の気持ちを読み取れる? 戦っている時の私の気持ちっていうか、そういうの」
「うーん。もやっとしてる。私、気持ちも映像で見える時があるんですけど、でも……今は霧がかかっているみたいではっきり見えない。見えそうで見えないです」
「そう。んー。じゃ視点を変えて、持ち主である私の人生みたいなものは見える?」
「見えないです。っていうか、そういうものの見方が分からない」
「そうか。ちょっと待ってね」
リフォアナは、この世界ではライフという名のスマホ的なものをさくさくと操作して、なにかを検索しているようだった。
「これか。よし。やってみよう」
そう言うと、イスに座っている花音の後ろにまわり、背中に右手を当てる。すると、花音の体のまわりに白い炎のようなものが現れ彼女を包み込んだ。
「え、なんですか。これ。体は全然熱くはないけど、目の奥の空間が広がるような変な感じがする。なに、なに。怖いですリフォアナさん」
「大丈夫。そのままね。目の奥の広がりを頭の上のもうひとつの目で見るって言えばいいのかな。ぐっと目を上に持っていって、別の目をもう一つ作り出すという感じなのかな、そのめで奥の広がりの中を見てみて」
「うっ。できない。どうやったら別の目を頭の上に出せるんですか? 別の目ってなに? でも、目の奥の黒い空間はどんどん広がっていってます」
「分かった。広がっていってるということは、魔法は織り込めたってことだわ。とりあえず、今日は成功ってことね。筋がいいわ。花音」
「あ、ありがとうございます。……あの、この白い炎はどうすれば消えるんですか。なんかすごく疲れてきま……」
花音はそう言い終わるか終わらないかの間に、意識を失ってリフォアナの腕の中に倒れこんだ。