7 この世界が滅びると人間の存在も消える
出発って、どこへ?
三人の女子たちは、まだ状況を完全に飲み込めていないし、私だって出発のことは聞いていない。
すると、「あの……。このワールドの崩壊、もう始まっているかと思うんですけど」と花音が空を指さしながら言う。
「あ……。本当だ……。空の端がなにかにかじられたように、少し消えかかっている……」
おりかが、おびえるような声を出す。
これぐらいならまだ大丈夫だ。私がすぐに元に戻せる。
でも、ビーナスである私の力が弱くなってしまったら、ラウラレ界は崩壊してしまう。
グラダナスさまが言うように急がないといけない。
「今はギャロファーのエネルギーの減少が始まりつつある状態だ。ギャロファーのエネルギーを補充する必要がある。しかしここではエネルギーの補充はできないのだ。もともとギャロファーはアルデウス王国がある異世界のものだ。そこでエネルギーを補充して、我が世界へと定期的に運ばれてくるのだ」
「定期的に運ばれてくるなら、次を待つことはできないのですか?」
と花音が聞く。
「間に合わんのだ。ここでエネルギーが枯渇してしまいギャロファーが完全に光を失ってしまえば、砕け散ってしまうであろう。急ぎアルデウス王国へ戻さねば」
「じゃあ、アルデウス王国に連絡して、この三つのギャロファーを取りにきてもらうことはできないのですか?」
「できぬ。アルデウス王国とのやり取りは、百日に一度やってくる使者とだけ行われる。それ以外は、こちらからも、あちらからも連絡することはできぬ」
「連絡手段が使者だけ……。いつの時代……」
あきれたようにおりかが言う。
「だから、お前たちにアルデウス王国に行ってもらうのだ」
「「「私たちが?」」」
三人から同時に声が出た。
「そうだ。お前たちが、だ。お前たちだけが、だ」
「え? 私たちだけがなんですか?」
おびえたように莉央が言う。
「そうだ。私もリフォアナも、この世界の者は、アルデウス王国へ足を踏み入れることはできないのだ。あちらでは存在できない。しかし、人間界の者はあちらに行くことができる。理由は分からんが、人間が渡ったという記録は昔からいくつもある。だから、お前たちの力が必要で、この世界によんだのだ」
「そんな……。そんな突然ここへ連れてこられて、それでわけが分からないのに、今度はすぐに違う世界に三人だけで行けなんて……無理です……」
花音がグラダナスさまの声がする空を見上げながら、小声で断る意思を伝える。
「無理は承知しておる。しかし、もうお前たちがいないと、我が世界は滅んでしまうのだ。この世界の者は、消滅してしまうのだ。私もリフォアナも」
「消滅って……」
莉央が消え入るような声でつぶやく。
「でもここって……ゲームの世界なんでしょう。仮想世界っていうか」
おりかがおそるおそる言う。
おりかの言葉を聞いて私は思わず
「あなたたちにとっては仮想世界かもしれない。けれど、私たちは生きている。こうして生きているの。この世界の住民だって、生活があって、笑ったり泣いたりしている。生きているの」
と強い口調で言ってしまった。
三人にとってはたかがゲームの世界かもしれないけれど、ここはみんなで作り上げてきた世界で、みんながんばって生きている。
「現し世とは違って、ゲームでバトルばっかりしていると思ってる? そんなことはないの。カードを持つ現し世の人と一緒に考えて、お互いが高め合いながら、お互いを想いながら日々バトルしたり、生活しているの」
「ごめんなさい……急なことで私も心の整理がついてなくて。ひどいことを言ってしまって、本当にごめんなさい」
私の言葉を聞いてそうおりかが言ってくれた。
確かにそうだ。わけも分からずこんな世界に連れてこられて、はい、じゃあここから三人だけでこの世界を救うために異世界に行けなんて言われて、そんなの簡単に納得できるわけない。けど……。
すると、グラダナスさまが低い声で言う。
「この世界が滅びると、ゲームのカードを持っている人間も存在が消えてしまうのだ」
え? え? え? どういうこと。そんなことは知らなかった。カードを持っている人間が亡くなると、カードのキャラクターである私たちは、レベルがリセットされて新しいキャラクターとして再度ゲームに参加していくけど、私たちが消えると持ち主まで消えてしまうってこと?
知らなかった。
グラダナスさまの言葉を聞いて、三人は立ちすくんで動けないでいた。
「超重要任務じゃない……。私たちがゲーム界も人間も救うってことでしょう。怖すぎだよ……」
おりかの言葉がその場に静かに響いた。