5 ビーナス・リフォアナ「世界を救うために」
これは、イチかバチかのカケだった。
ゲームの中で生きてる私が世界を救うなんて。
できるわけない。
でも、実際こんなことになってしまっている。
信じられない。
私が生きている世界は、カードゲームの世界。
基本は戦うことによって、どんどんレベルがあがっていき、バトルなしで好きなことをして生きていけるようになる。
ただ、これは私たちだけの力ではなく、私たちの分身のカードを持つ「人間界」のパートナーが、ゲーム対戦で勝利することと、プラス仕事や日頃の行いによってもライフレベルが高まり、そのレベルによってゲーム界での強さもアップされる。
私は、カードゲームの中でガンガン戦って、レベルをどんどんあげて、「ビーナス・リフォアナ」として、ゲームの中の世界に君臨していた。
はじめは、レベルの低いキャラだったけれど、私の人間界の持ち主が、ずば抜けた策士で、うまい具合に勝ち続け、人間界での行いもよかったのか、気がつけば最強のカードになっていた。
誰にも負けない。
ゲームの中では、トップオブトップの女王だ。
怖いものなんてなかったのに。
あの日までは。
ある日、我が「ラウラレ界」を司る主、グラダナスさまが住む「ルーム」と呼ばれる空間に呼び出された。
「ルーム」は、グラダナスさまによばれた者だけが入ることが許されている聖なる場所。
私は時々よばれて、ゲーム界の秩序について報告などをしている。
でもその日は、いつもと雰囲気が違っていて、グラダナスさまの声は、トーンが低く、深刻さが漂っている感じだった。
「ラウラレ界が、攻撃を受けている」
いきなりの衝撃的な言葉。
「こ、攻撃っ? どこからですか?」
「ウィルスのようなものが、この世界を守る鎖のどこかに入りこんだらしい。その鎖に変異が起き、少しずつ鎖が暴走を始めているようなのだ」
よく意味が分からない。
この世界は、ぐるぐるとらせん状にからまった鎖で頑丈に守られていて、外部からの影響は受けないことになっているはず。
それに、もし、一つの鎖が暴走したからといって、ほかの鎖に影響はないのでは?
鎖ひとつひとつは、それぞれが独立したもので、それぞれがつながっているだけだから、一つが暴走を起こしたとしても、その一つさえ外して、消し去ってしまえば、ほかは影響は受けないはずだ。
それぐらいは私だって知っている。
グラダナスさまは続けて言う。
「ラウラレ界の核となっているのは、ギャロファーと呼ばれる十一の『石』ということは知っているな。その中の三つを暴走した鎖がからめ取り、人間の世界へと放ってしまった。今すぐにではないが、ギャロファーは一つでも欠けてしまうとこの世界はエネルギーの均衡が保てず、少しずつ崩壊が始まるのだ。気づかないか。お前の力も減少が始まっているはずだ。正義のホワイトカードのトップであるお前の力が弱まれば、今の秩序が崩れ、ブラックカードのキャラクターによって、このゲームは終わりを迎えるだろう」
それは困る。本当に困る。
いろいろ苦労して、ホワイトカードたちを育て、正当にがんばったキャラクターが力をつけて、それを持っている人間も評価されさらに高みを目指せる、人間の世界でもっとも参加者が多いゲーム成長にしたのに。
このゲームに参加することで、参加者は人間の世界での社会的地位も、収入もアップできるようなシステムに仕上げたのは、私だ。
それが、なくなってしまっては、カードキャラの仲間も持ち主である人間も、生きる望みがなくなってしまうだろう。
それに、私なんて、ゲームがなくなったら、存在が消える。
「どうすればよいのですか」
「お前をオーブという光の存在として人間界に送る。そして十日以内に、ちらばった三つのギャロファーを探して持ちかえってきてほしい。お前はオーブの存在であるため、ギャロファーに直接触れることはできない。人間界に存在するギャロファーに触れることができるのは、人間だけだ。しかし、難しいのは、このギャロファーが見えるのは、人間の中でも、「スペシャルギフト」と呼ばれる特別な能力を持っている者だけだ。その者には、ギャロファーが見え、お前の声が聞こえる。その者にギャロファーを持たせて、お前のオーブで包み込み、こちらワールドへ連れてくるのだ」
そんな……。どうやって探せっていうの。行ったことがない人間の世界で。しかも、実体のないオーブでなんて。
「ギャロファーが放たれた場所は分かっている。ただ、その場所でギャロファーの存在を感知した人間に、ギャロファーを手にとってもらうには、お前の力が必要で、すべてがお前にかかっている。時間がない。十日間だ。そのあとのことは、戻ってきてから説明しよう。とにかく時間がない。頼むぞ」
その言葉を聞いた途端、私の体は透明になり、大きな光になって、青い世界へと投げ出された。