3 現し世の世界/花音「触れると分かる」-事情を知る-
「だから、絶対にやめようって言ったじゃんっ」
大学の友達四人で、廃墟のホテル探検にやってきた。
途中のトンネルめちゃ怖かったし、ダムの横の道を通る時も、目をつぶっていた。
そして、廃墟ホテルの前まで来て、写真を撮って。
中に入るのなんて、絶対に絶対に無理だから、それだけは回避。
そして帰ろうと思って、車で来た道を戻っていたはずなのに……。
ただ戻るだけなのに。
戻れない。
広い国道に戻れないのだ。
確かに、このダムの横の道を通って、トンネルを抜けて、何回か左折すれば、国道に出るはず。
なのに、なぜか、国道がない。
「だから、絶対にやめようって言ったじゃんっ。もうナビ通りに帰ろうよ」
と私。
「ナビ通りにしているよ。ナビ通り走っても、山道この細い道から抜けられないんだよ」
運転する友達のルキトが半分泣きそうな声で言う。
「じゃあさ、じゃあさ、スマホのマップで確認すれば……」
「圏外だよ」
やばい。これは絶対にやばい。
そう思って、ガクガクしている私を見て、もう一人の友達のマナが言う。
「でもさ、あっちに高速道路は見えてるから、あれに沿って走っていけば、どっかには出るんじゃない」
そ、そうだけど、さっきから高速に沿ってこの細い道を走っていても、ただ沿っているだけで、広い道に出ないじゃん。
そう思っていると、左にコンビニらしきお店が見えてきた。
「よかったー。異次元に迷いこんだわけじゃなかったねー」
とカコが安心した声で言う。
そして、コンビニらしきお店の駐車場に入ると、そこはコンビニではなく、「ナカニシ文具店」という看板がある、雑貨屋さんのようなお店だった。
「こんなところに文具店。怪しすぎる」と私。
「でも、文具店って書いてあるけど、いろいろ売ってるみたいじゃん。カップラーメンも見えるし。怪しくないよ」と、マナ。
「そうだよ。ちょっとなにか買いがてら、道を聞いてみようよ」
「だね。だね」と、カコ。
そうして、私たちは、「ナカニシ文具店」に入っていった。
お店は、本当にコンビニみたいな品ぞろえで、レジにいる人も、普通の女の人だった。
怖がって損した。
運転するルキトがお店の人に道を聞いている間、私は店内で売っているものを探索していた。
お菓子とかカップラーメンとかの食料品とか、野菜とか、牛乳とかまで、いろいろ売っている。この地域の人のコンビニ的な役割を果たしているんだろうな、と思える品ぞろえ。
そして、そんな店内の一角に、駄菓子スペースがあって、そこだけは、少しホコリがかっているような空気感。
もう賞味期限が切れているんじゃないかと思われる駄菓子や、お祭りの屋台で売っているようなおもちゃが置いてあった。
ん?
その中になにか、光る、石? のようなものがあった。
なんで光っているんだ? 光っているよう見えるだけ? でもなんかが変。浮いてる?
浮いてる⁉
すると、耳元で声が聞こえた。
「それを手に持て」
えっ?
「持て」
私は怖くなって、みんなを振り返って、
「なんか、聞こえた。怖いよ。聞こえたよね?」
と声をかけたけど、みんなには私の声が聞こえていないみたいで、こっちを見てもくれない。
なに……。
怖くなって、その場を離れようとしたら。
「手に持て」
またあの声だ。
するとあの光る石が、ふわふわ浮いて、私の手のほうに向かってきた。
なに、なに、なに、なに。
まずい。まずい。手に触れてしまうのはまずい。
まずいんだ。
私、生川花音は手に触れたら、手に触れたものからいろいろ分かってしまうから……。
やだ。やだ。やだ。
ここだけ時間が止まっているみたいじゃん。
ルキト、マナ、カコ。どうしたのよ。
私が見えないの? 私の声が聞こえないの?
ちょっと。どうしたっていうの?
「手に持て」
その声はまだそう言い続けてくる。
「持ちます。もう持つ。だから、耳元で言うのやめて」
そう言って、怪しすぎる宙に浮かぶ石を持つ。
これ、触ると、私、きっといろいろ視えちゃうから。怖いんだよ。
そして石を手にすると……。
頭の中っていうか、目の前に、ばっといろいろな映像が見えてきた。
なに? なに? なに?
これはどこの世界の映像。
ゲームの世界だって?
私の頭が勝手に理解する。
うんうん。
あ。なにか小さな人影みたいな白い影が。
あ。なにか盗んでいく。
あっ。この石⁉
私が「持て」って言われたやつ!
きれいな女の人と誰かが話している場面が見える。声が聞こえる。
場面の状況が一気頭の中にデータとして流れこんできた。
あー。そういうことだったんだ。
事情は分かった。
もう映像ですべての事情を承知した私。
なんて便利なこの能力。
触れただけで、あっという間にいろいろ分かってしまう。
でも、で、どうしたらこのゲームの世界を救えるのか、は分からない。
声のする方に向かって
「救いたい。でもどうしたらいいのか分からないから、教えて」
と言ったら、目の前にある映像が束になって、私を包んで、ぎゅっとどこかの空間に落ちていった。