2 現し世の世界/莉央「見える」-旧体育館の廊下にて-
「なにこれ……」
築百年近い建物の廊下。
赤い石みたいなものが落ちていた。
木造の重々しく暗い建物。
私が通う高校の「旧体育館」と呼ばれている建物は、ボロボロだけど木造の貴重な建造物として、自治体の重要文化財となっている。
この体育館、入口から細くて暗い廊下を抜けると、突然、舞台のような壇上がある体育館の中に入る造りになっている。
なぜか体育館の窓には、真っ赤なビロードみたいカーテンがひかれていて、体育館の中はちょとレトロなコンサートホールみたいだった。
この日は、体育の授業の時にタオルを体育館に忘れてしまい、放課後それを取りにきた。
「昔、戦争の時、この場所に遺体がたくさん並べられていた」っていうのは、嘘や都市伝説ではなく、本当のこと。
もう死んじゃった私のおばあちゃんが、言ってたから。
もちろんこんなボロ建物だから、学校では、壇上の奥のカーテンのところに女性の霊が立っているとか、誰もいないのに、バスケのボールのドリブルの音が聞こえたとか、窓に人の影が見えたとか、「よくある学校の怪談系」の話はたくさんあった。
でも、私はそんなの全然怖くないし、噂は信じてなかった。
だから、一人で「旧体育館」に行くのも、平気だった。
夏の夕方、旧体育館へ続く廊下は、うっすら暗くて、遠くでひぐらしが鳴いていた。
タオルは、確か体育館の壇上にあがる階段のところに置いたはず。
友達には、下駄箱の前で待ってもらって、私は廊下を走っていた。
その時、暗い廊下の右はじに、きらっと光る「なにか」が見えた。
え。なんだろう。
近づいてみると、それは、パソコンのマウスぐらいの大きさの石のようなものだった。
どうしょう。拾って職員室に届けたほうがいいかな。
そう思った瞬間、どこからか声がした。
「それを手に持て」
なに? なに? なに?
「持て。お前には見えているはずだ」
その声は、私の耳元で聞こえた気がした。
超怖い。
学校の「噂」は全然信じていないけど、けど、けど。
この声なに?
私の能力を知ってるってこと?
私、神崎莉央は、いわるゆ「見える」のだ。
母方のひいおばあちゃんも、おばあちゃんも、「見える」人だった。
母には見えることはなかったが、私は、見えてしまう血を受け継いでいた。
光る石の近くに大きな光の輪があらわれた。
その中に、めちゃくちゃきれいな女の人が立っているのが見える。けど、怖いけど、邪悪な感じはしない。
その女の人が、その赤い石を「手に持て」って。
こわごわ聞いてみる。
「これって呪いですか? あなたは恨みを持って死んだ霊ですか」
「違う」
「この石を持つと私が取り憑かれたりしませんか」
「しない」
「……」
「助けてほしい。私と私のワールドを助けてほしい」
「……」
「あなたの力を貸してほしい。そして救ってほしい」
私はその時、その女の人のまわりに、薄いピンクと水色がまざったような不思議なオーラが見えた。これは、高レベルのオーラだ。これを持つ人は見たことがない。
この人はなに? 神さま?
彼女を見ていたら、『このオーラを持つ人を私が救えるなら、この力を貸すわ』、そんな気持ちが湧いてきた。
そうして、私は、その石を手に持った。
すると、目の前に光の道が見えて、女の人がその道を進んでいった。
私はその人を追って歩いていった。




