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11 おりかと『ぶるーとす』

「おりかー。こっちこっちー」


リフォアナが二階の廊下から階段の下で迷っているおりかを呼ぶ。


おりかは、屋敷の敷地内の一番奥にひっそりと佇む真っ黒な壁の二階建ての建物によばれていた。

玄関を入ると、中は薄暗く、どこに行っていいのか迷っていたのだ。


「昼間なのに暗い。電気はつけないんですか?」


階段を急いでのぼってきたおりかは、リフォアナに言う。


「暗い? これぐらいのほうが兵法が見えるからいいのよ。ここは私の訓練室というか、バトルのレベルをあげるジムみたいな場所ね」


「魔法のトレーニングジムっ。かっこいいっ」


おりがが興奮気味に言うと、リフォアナはふふっと笑いながら、廊下の突き当りの部屋のドアをあける。

そこは、窓一つない天井自体がうっすらと光っているドーム型の部屋だった。


「そこ、ソファがあるからかけて。あなたは私を知っていたのよね?」


「はい。私に本の表紙のイラストを依頼してくれた人が、私に話したイメージでイラストを描きました。名前も同じです」


「「ビーナス・リフォアナ」」


ふたりが同時に名前を言い合った。


「このゲームの世界での姿、私以外もね、この姿っていうのは、人間界からグラダナスさまに、データが送られてきて、それが具現化されるの。具現化できるのは、グラダナスさまだけ。だから私たちは、グラダナスさまを神ってよぶ時もあるわ。データはどこからどうやって送られているのかは知らないけど、イラストで描かれているものが送られてくるのかしら」


「それは分からないんですけど、人間界ではこの世界のカードゲームがあります。カードは住んでいるところの役所のゲーム課に行けば誰でももらえるんです。それにはイラストが描いてあって、それが自分の分身みたいになってカードバトルに参加するっていう仕組み。カードを持ってレベルが上がると、それがその人のレベル保証書になって、仕事もお給料もレベルがあがる場合もあるんです」


「あなたはカードは持っていないの?」


「私は別にゲームに興味はないし、イラストの仕事はカードのレベルとか関係ないから申請してないです。カードは持っても持たなくてもいいので」


「ちなみに、おりがか描いた私のイラストって、実際の私通りだった?」


「それが……。作家さんからダメ出しされてしまって。本人目の前にすると、やっぱり違ってました。私もっとファイターだと思ってて、きつい顔を描いていました。すみません」


おりかがあやまると、

「ふっふっ。全然いいのよ。実物見ないで描くって大変だと思う。けど、そのイラスト見てみたかったな」


と長い髪をひとつに束ねながらリフォアナがことばを続ける。


「おりかが得意なのは、紙ではなくて空間に描くものなのね。魔法みたい」


そして興味深そうな目で、おりかを見つめる。


「別に魔法じゃないです。VRゴーグルとコントローラーがあれば誰でも描けます」


「うんうん。でも、こっちの世界には、そのゴーグルもコントローラーもない」


「はい。なので描けませんね」


「ううん。描ける。心で描くの」


「は? 心? 精神論はやめてください」


「精神論じゃないわ。そして、おりかには心で描けるようになってもらう」


「…………」


リフォアナはそう言って、部屋の隅のテーブルを指さした。

テーブルの上にあるものは、ボールペンをタテにもヨコにも二倍ぐらい大きくした太い棒のようなもの。


「おりか、それを持ってみて。イラストを描くほうの手で棒みたいなもの、『ぶるーとす』っていうの、それを持って」


おりかは言われた通り、『ぶるーとす』を手にした。

すると、体が光の風船のようなものに包まれる。


「え、え、え。いや。怖い。なんですかこれ。どうすればいいんですかっっ」


「やっぱり『ぶるーとす』を持てるのね。よかった。『ぶるーとす』がNOだったら、持たせてもらえないから」


『ぶるーとす』はおりかの右手にしっかりとなじんでいる。

まるで使い慣れたペンのようだ。


「そしたら、心で念じてみて。うーん。どうしよっかな。『描きたい』っていう気持ちを電流みたいにして、『ぶるーとす』に流してみて」


おりかはよく分からなかったけど、言われたように気持ちを『ぶるーとす』に流しこむようにやってみた。


『ぶるーとす』がかずかに振動したように感じた。


「おりか。しっかり目を開けて。まわりの景色を見て」


おりかはおそるおそるまわりを見渡たす。


おりか自身は光の膜なようなものに包まれて、その膜越しにまわりの景色が見える。見えるのだ。まるでVRゴーグルをつけているような景色が目の前に広がっている。

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