第6話 幼なじみ(後編)
「鼻、触ってるぜ」
……あちゃあ……癖が出てしまった……。
ちなみにだが、幼少期からトオルと妹の蘭は気が合い、今でもよく蘭がトオルの店に遊びに行く仲だった。
悪友をだますことは難しいと判断した陽介は、素直に指輪の話をした。
「エー! マジか! お前、プロポーズするのかよ!」
「シッ! 声がでかいよ!」
家族にも言ってないことを告げ、どうにかその口を塞いだが、
「めでたい! あの頼りない陽介が結婚だって! よしっ! 今から祝い酒だ!」
これからどこかへ飲みに行こう、というトオルを納得するため、この部屋でビールを一本だけ飲んだ。
「そういえば……あのとき……僕がビールを取りにいっているあいだ、トオルはこの部屋でひとりいた……チャンスがなかったわけじゃないんだ……」
そうつぶやくと、空っぽのジュエリーケースを陽介は見つめた。
だが、すぐに陽介は自分を責めた。
「いくらあいつだって……幼なじみの指輪を盗むはずがない」
そう信じたかった。しかし、幼少期からこれまでのトオルの言動を思い返した陽介は疑う心を振り払うことができなかった。それも無理はなかった。
「なあ、頼む! なんとか貸してくれないか!」
これまで貸したお金がほとんど戻ってきていなかったからだ。
店の運転資金には困っていなかったようだが、陽介から借りたトオルの借金はおもにデート代に充てられていた。
「お前のお金がオレの財布にあるだけのことじゃん」
陽介が返済を迫ると、トオルはいつもそう言ってごまかした。
「盗まれた可能性があるのは『自宅』と考えられますね」
その夜、赤坂さんのこの言葉が陽介の頭から消えることはなかった。その問いは自然と次の疑惑を導いた。
……あの夜、この部屋で指輪を盗むことができたのは誰か?……。
その疑問に答えるように、陽介の頭の中に二人の顔が交互に浮かんでは消えた。
……分不相応に見える高価な時計をはめた蘭……いっこうに連絡をとれない金にルーズなトオル……。
結局朝まで、どれだけ待っても、トオルからの連絡が来ることはなかった。