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第5話 幼なじみ(前編)

「ほっといてよ! お母さんに買ってもらったわけじゃないんだから!」


 そう言うと、蘭は席を立ち、リビングダイニングから出ていった。


「待ちなさい!」


 蘭を追いかけるように母も部屋から出ていったが、女の戦いを仲裁することなどできない陽介は呆然と見つめるだけだった。




「ねえ、その時計いくらしたの?」


 喧嘩のきっかけは母が蘭にしたこの質問だった。明らかに高額な時計に母が疑いの目を向けたのだ。


「値段なんて知らないわよ。お金なんてどうにでもなるんだから」


 そう言うと、蘭はケラケラ笑った。


 その小バカにした態度が神経質な母の気持ちを逆なでしたのだ。




 昨日、日曜日、デパートの宝石店で赤坂にアドバイスをもらった陽介は今日、つまり、月曜日、仕事に行かなくてはいけなかった。

 だが、電車に乗っていても、会社で仕事をしていても、家に帰って夕食を食べていても、消えた指輪のことが頭から離れることはなかった。

 赤坂との話を要約するとこうだった。


「自宅で盗まれた可能性がある」


 そう考えると、太陽が東から昇るように、当然のこととして蘭が容疑者として浮かんできた。


『お金なんてどうにでもなる』


 そう軽く言い放った蘭の言葉が陽介の頭でリフレインした。


 ……やっぱり、蘭が僕の婚約指輪を盗んだのか?……。


 陽介は赤坂に整理してもらった考えを元に推理した。


 ……盗むことができたのは木曜日の夜、自宅に置いてあるときしかない。次の日はずっと鍵のかかった更衣室のロッカーに保管してあったのだから。そうだ、よく考えると……僕が婚約指輪を買っていたことを知ることができた人間は蘭しかいない。どこで嗅ぎつけたのか、蘭は僕に彼女がいることを知っていたのだから……。


 そこまで考えると、陽介は深いため息をついた。


「それにしても、妹を疑うなんて……」




 だが、ふとその瞬間、あることがひらめいた。


「そうだ! ()()()()()()()()じゃないか!」


 自分の部屋のベッドに寝ころんでいた陽介は急いで起き上がった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」






『あなたのおかけになった電話は……』


 何度かけても、女性のアナウンスの声しか聞こえてこなかった。


「なんだよ、あいつ。全然、電話をとってくれないじゃないか!」


 陽介が苛立った声で言った。


 電話で連絡をとることを諦めた陽介はすぐにSNSを開いた。

 メッセージを書き込むと同時に『既読』が浮かんでくることがいつものことだったからだ。だが、


「なんだよ……今日にかぎって、なんの反応もしない……あいつ、どこにいるんだよ?」




 いつもはすぐ隣で見ていたのか、と陽介が疑ってしまうほど反応の早い『あいつ』とは幼なじみの裏田トオルのことだった。

 すぐ近所、歩いて約十分のところに住むトオルとは小、中、高と同じ学校に通った。なるべく道に外れないように、とバカ正直に学校の勉強に向き合った陽介とは違い、トオルは幼少期から奔放な性格の持ち主だった。


 学校をずる休みすることも多く、授業もろくに聞くことはなかった。

 そんなトオルの将来を心配した陽介はよく真面目に頑張るようにと、小言をいった。だが、


「でも、その割にオレと成績一緒だな」


 と、陽介の核心をついた。


 不良というわけではないが、そういった友人たちとも分け隔てなく付き合うトオルはいわゆる『遊び人』だった。小さなバーを経営するトオルは、女癖も決していいとはいえなかった。




「なあ、これなに?」


 そう言うと、茶髪に耳に小さなピアスをしたトオルは赤坂に預かってもらっていた赤の手提げ袋を指さした。


 木曜日の夜、この部屋で、二人で会ったことを陽介はついさっき思い出したのだ。あの夜は、たまたまトオルは店が休みだった。


「あ、得意様へのプレゼント」


 陽介はなるべく表情に出ないように、平然と答えた。


「へー、そうなんだ」


 ……こいつにばれると厄介だ。万が一、ミカちゃんにプロポーズを断られたことが知れたら、一生笑いのネタにされる……。


 どうやらばれていないようで、トオルは指輪の入った袋から視線を移した。陽介はほっとした。

 だが、


「って、嘘つくなよ! 陽介」


 ほっとしたのも束の間、ニヤニヤしたトオルが()()()()を差して言った。



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