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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
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番外編5 月が満ちる間に5

ヤンは扉の外にいたユエを見て、びくっと体を震わせた。

「ユエ…」

「自分でできる訓練を教えてあげようと思ったけど、本を読むならいらないかしら?」

「教えてほしい…です」

そう言えばユエはニコリと笑みを浮かべた。

「先に書庫行きましょう。ゼノ様の蔵書に興味があるの」

そう言って連れ立って歩けば、ゼノの屋敷の者からは二人の関係を探るような視線を受ける。

知っていてユエはべたべたと近寄ってくるし、じゃれついてくるのがヤンにはたまらなかった。

ゼノの蔵書を一緒に見てまわれば、ユエはユエで読みたい本があったらしい。

書庫を出るときに1冊の本を渡してくれた。

「これが次の訓練よ」

「呼吸と瞑想…?」

「そうよ。何があっても、何にも囚われない心を鍛えるの」

「心を?」

「鍛えるのは頭と体だけじゃないのよ」

それを使ってユエは呼吸を整える方法と瞑想を教えてくれた。

目を瞑り、自らの呼吸にのみ意識を合わせていると指に触れたユエの熱と頭に響くリァンに似せたユエの声のおかげで深い瞑想状態に入った。

たかが呼吸、たかが瞑想と言えど、集中して行うには時間も技術も必要だった。

慣れるまではユエが誘導してくれた。

とはいえ、毎日欠かさず繰り返すことで凪ぎの湖面のように心が静まり返り、頭がすっきりしていくのを感じた。

静まり返った心とすっきりした頭のおかげか、毎日の訓練にも商売にもより一層励むことができた。

ふとした時に、妙な違和感があり自分の体の歪みや癖にも気づいた。

ユエと相対して、今まで見えなかった一つ一つの動きやユエのとる次の一手が見えて、首元を狙われた手刀を防いだときには我がごとながら驚いた。

ユエもまさか防がれるとは思わなかったのか、ヤンのあまりの成長の速さに何かが背筋を駆け上がりそれに恍惚とした表情を見せた。

「この男、なんとしても欲しい」という獲物を見つけた大型の肉食獣のような目つきであった。

ヤンは自分の変化に驚き、ユエの一瞬の表情の変化にも気づかなかった。

とはいえ、今まで手加減をしてくれていたであろうユエを負かすまでには至らなかった。

徐々に止められる手もユエに届く攻撃も増えては来たが、それでもクセを見切られるのかユエが修正してくると途端に呼吸も乱された。

地面に投げ飛ばされ、地面を背にユエに組み敷かれたヤンの首筋にユエの手が妖し気に触れた。

ごくりと喉を鳴らし、なにかを期待したであろうヤンの姿を見て、ユエはヤンの胸に手を置いた。

「呼吸を意識しなさい。今のままでは弱さも恐れも…よこしまな気持ちすら伝わってくる」

「よこしまって、そんなつもり…」

「そう?」

否定しきれないヤンの気持ちを「わかっているわよ」と言わんばかりにユエは肩をすくめた。


ある夜、ヤンもリァンも窓際によって同じ月を眺めていた。

互いに互いのことを思っていた。

ヤンは全てを一刻も早く終わらせて、リァンを再びこの腕に抱きたいと。

そして2度と離しはしないと決め、ぎゅっと拳を握りしめた。

リァンは全てが終わったら、この世にいつまでもいることはないようにと思う。

熱を感じられない下腹部を撫でて、流してしまった子を間にヤンと抱き合いたいと願う。


それぞれの想いと願い、そのために今、為すべきことがあると胸に手を当てた。


それぞれ気持ちが微妙にすれ違っていますねぇ…

本編に入れたかったけど、入れられなかった「月を待つ」と「月が満ちる間に」はこれで終わりです。

次はたぶん、ファナ姉さんのお話になると思う。

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