番外編 白の大地 雪の女王 9
一方ザイードも隊商連中に意味ありげな視線を送られていた。
居心地悪い思いをして、野営中に問い詰めた。
月が輝いている。
「なんだよ」
「月の女神と出来上がったんですか?」
問われてしばらく黙っていた面々の1人が勇気を出して聞いた。
「あー…好きに想像しろ…」
ザイードは意味ありげにニヤッと笑うと隊商の連中はあーだこーだ言い出した。
「お前ら、賭けでもやってるのか」
問えば答えに詰まった。
「どっちの賭け金が多いんだよ」
「え?」
「デキたかフラれたの2択だろ?」
隊商の面々はそれぞれ顔を見合わせた。
「あー…3択です」
「3択…?」
「隊長がカッコつけて何もしない」
どうやら面々の表情を見るに3択目にかけた者が多いようだ。
「カッコつけては余計だ!賭け金よこせ」
そう言って全員の賭け金を集めた。
「で、どうなんですか?」
「あ?お前ら全員負け。賭け金は没収」
言えば面々から様々な文句が出た。
かっこつけて…いや、あえて言うなら、ザイードの行動は4択目だろう。
自ら身を引いた。
いやいや、そもそもどうなる気もなかった。
亡くした娘を投影していたのだから…
言い訳ばかりでかっこ悪いが、隊員にわざわざ言えば変に慰められるのがおちだから絶対に言わない。
「うるせぇ。これは西の土産の軍資金にするんだよ」
隊商の面々はニヤーと悪い笑みを浮かべた。
「隊長、俺いいもの知ってますよ」
「俺も」
「なんだぁ、まだ口説いてる途中かぁ」
「次会うの楽しみじゃないですか?」
「男がいる女ですよ?」
「いやいや、あれは次でオチるね」
「男と女の関係に口出しは野暮ってもんでしょ」
好き勝手なことを言う面々に頭を抱えた。
好き勝手に言わせておけばいいのだが、そのニヤニヤとした視線に耐えきれなくなった。
とはいえ、次あの町に戻るとき、その月の女神の婚礼式に参加するんだけどなぁと言うのは黙っておいた。
「月の女神を町から攫う時は俺たちも協力しますから!」
「東でも西でも好きなところに連れていっちゃってください」
「わかった!わかった!」
グイグイと詰めてくる隊商の面々に大きなため息をつく。
懐に入れた走り書きの手紙の存在を確認するように手を当てた。
ふと気づいた。
「て言うか、お前らも『月の女神』??」
「月は全員のものですから」
「独り占めはダメですよ」
「俺ら全員惚れちゃってるんで」
「復讐の権利を俺たちに譲るあの凛とした姿…」
「惚れる以外ないよなぁ…」
「俺たちも女神の行くところ共に行きます」
隊商の面々はニヤニヤとしている。
頼もしくもある面々だが、こうなると手がつけられなかった。
大きなため息をひとつ。
空に輝く月は眩しくて、リァンと二人で語らったことを思い出す。
まだ若い副隊長がそんなザイードの心の揺れを感じ取ったか、しずかに言った。
「隊長。月に見守られる旅路っていいもんですね」
言葉数の少ない男で今回は副隊長として参加してくれているが、隊長としての実績を持つ男だ。
静かな反面、獲物を狙うワシのような鋭い目を持ち、彼の事情もあるためリァンに復讐の権利を譲るように伝えてほしいと言ったのはこの男だった。
とはいえ、リァンが「譲らない」と言えば、ともに討ち果たすつもりだとも言ったのだが。
「月は手にできないからいいんだよ」
そう返せば、茶化すような言葉が他の隊員から返ってきた。
副隊長と顔を見合わせて苦笑いだ。
そう、月は手にできなくていい。
見守っていてくれるので十分だと思う。
その冷たさを感じ、凍えた体を抱きしめられる雪とは違う。
雪原で月に見守られながら生涯を終えたいなんて我ながら贅沢なもんだとザイードは思った。
終わり
ザイード隊長の恋バナはこれで終わりです!
次回は4/21予定です